第102話 人攫い
「全く、素直に眠り薬を嗅いでおれば面倒な事にならなかった物を……それにしてもお嬢ちゃん、よく気付いたな?本当に人間か?」
「……余計なお世話」
現在のネコミンは人間に変装していた事が幸いし、彼女の鋭い嗅覚でなければ眠り薬である事を一瞬で気付く事は出来なかっただろう。一方でレアはこの状況を打破する方法を考え、まずは解析の能力で敵の様子を調べる。
―――オカロ・ノモ―――
種族:ドワーフ
性別:男性
年齢:68才
状態:普通
レベル:45
特徴:元鍛冶師、現在は盗賊の頭として20名の部下と共に人攫いを行い、奴隷商人に売却して生計を立てている
――――――――――――
解析の能力で小髭族の老人の正体を確認すると、心を落ち着かせながらレアは老人に話しかけた。
「罠に嵌まったのはお前の方だ、オカロ」
「何っ……どうして儂の名前を!?」
「レア?」
レアが名前を告げるとオカロは動揺を隠せず、他の者達も驚いた表情を浮かべた。ただの旅人だと思われていた少年が自分の名前を知っていた事にオカロは警戒心を高める。
オカロの名前を見抜いたレアは他の人間にも視線を向けて解析の能力を発動させると、次々と相手の名前を言い当ていく。
「お前はボロ、その隣にいるのがケマ、その後ろにいるのはスカだな」
「な、何で俺達の名前を知ってるんだ!?」
「こ、こいつ気味悪いぞ……お頭、さっさとやりましょうよ!!」
「待てっ!!」
自分達の名前を知るレアに対して部下たちは焦りを抱き、オカロに早く捕まえるように促す。しかし、オカロはどうして自分達の名前を知るレアに問い質す。
「ガキ……どうして俺達の名前を知っている?見たところ、お前さんは旅人だろう?」
「罠に嵌まったのはお前の方だと言ったでしょ?」
「ほう、じゃあさっきまでのお前等の行動は演技だというのか?俺が差しだした香水を何も疑わずに嗅ごうとしたのも?」
「……その通り、私達は最初から気付いていた」
ネコミンもレアに話を合わせて自分達は最初からオカロたちの正体を知っていたかのように話すが、オカロ達はレア達の話が信じられない。
その話が事実ならば自分達の正体が盗賊だと知りながら接近してきた事になり、オカロはすぐにレアの能力を推察する。
「そうか、お前は鑑定士だなっ!?鑑定の能力で俺達の名前を言い当てただけだろう!?」
「な、なんだ……そういう事かっ!!」
「へっ、驚かせやがって……」
オカロはレアが「鑑定士」の称号を持つ人間だと判断すると、他の人間達も納得したように声を上げる。鑑定士は「鑑定」と呼ばれる能力で相手のステータスを読み取る事が出来るため、名前の確認を行う程度ならば容易い芸当である。
レアが鑑定士と判断した盗賊達は恐れが消え、ステータスを読まれたとしても鑑定士は戦闘向きの職業ではなく、自分達が恐れる必要はない。つまらないはったりで自分達を騙そうとしたレアに対してオカロは余裕の笑みを浮かべるが、レアの続けて発した言葉に唖然とした。
「オカロ、お前は20人の部下を連れて人攫いを行い、奴隷商人に売却してるんだろ?」
「な、何だとっ!?何故、そんな事まで……!!」
「言っただろう、嵌めたのは俺達だって」
自分の部下の人数と奴隷商人が繋がっている事まで見抜かれていた事、オカロは今度こそ混乱を隠せず、狼狽してしまう。他の盗賊達もオカロの素性が既に知られている事に慌てふためく。
――この世界に存在する鑑定士は「鑑定」という能力で他の人間のステータスを読み取る事は出来る。但し、レアが扱う「解析」は鑑定士の「鑑定」とは少々異なり、鑑定の場合は他の人間の「ステータス画面」が表示されるのに対して解析の能力は「詳細画面」が表示される。
ステータス画面と詳細画面の違いがあるとすれば「特徴」の項目が存在するか否かであり、通常のステータス画面には特徴は存在しない。しかし、詳細画面の方にはその人間の特徴までも詳細に表示されていた。
この特徴のお陰でレアは他の人間がどのような人物なのかを見抜く事が出来た。しかも最近判明した事だが、この詳細画面の特徴に表示される文章は常時更新されるらしく、レアが文章を読んで気になった部分があると画面が更新された新しい文章が表示される。
―――オカロ・ノモ―――
特徴:元鍛冶師、現在は盗賊の頭として20名の部下と共に人攫いを行い、クーズという名前の奴隷商人に売却して生計を立てている。また、この街の警備兵とも繋がっており、週に一度金貨を一枚支払う事で見逃して貰っている
――――――――――――
「お前、警備兵とも繋がっていたのか……週に一度、金貨一枚で見逃して貰っているんだろ?」
「なななっ……!?」
「……図星を突かれたみたい」
ネコミンは鼻を鳴らすとオカロがレアの言葉を聞いて激しく動揺しているのは演技ではないと知り、続けてレアは彼に指先を構えて言い放つ。
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