第100話 複雑な立場

「……そういえば私、こうして同い年の男の子と話すのは初めてかもしれない」

「そうなの?」

「リルの趣味でうちの隊は女の子しかいないから」



ネコミンの話す「隊」というのは「銀狼隊」の事ではなく、リルを団長とした「騎士団」の事を指す。リルは第一王女でありながら騎士団を率いており、その面子は少ないが誰もが非常に優れた才を持つという。



「うちの騎士団は私達以外だと二人しかいない。だから全員で5人しかいない」

「5人?それって少なすぎるんじゃ……」

「騎士団といっても私達は諜報活動しか行わない。だから他の騎士団のように表立って働く事はない……とチイが言っていた」

「なるほど……」



騎士団というには随分と人数が少ないように思えたが、普通の騎士団とは異なり、リル達が行うのは諜報活動だけという。


ここでレイナが気になったのはどうしてケモノ王国の王女であるリルがわざわざ危険を犯して他国の諜報活動を行っているのかレアは尋ねる。



「どうしてリルさんはわざわざ自分で諜報活動を行うの?普通、王女様がそういう危険な事をするとはおもえないんだけど……」

「リルが言うには王女であるからこそ、他の国に使者として簡単に入る事が出来る。それに王女である自分が諜報活動を行うなんて誰も思わないから仕事がしやすいと言っていた」

「えっ……それだけ?他に理由はないの?」

「……本当の事を言えば、リルは危険な仕事を敢えて任せられている」



ネコミンは立ち止まり、彼女にしては珍しく暗い表情を浮かべ、リルが王女でありながら諜報活動という危険な任務を実行する理由を語った。



「リルが諜報活動を行っているのは今の国王の命令だから……実を言うと、国王とリルの仲はそんなに良くない」

「そんな……でも、親子でしょ?」

「親子といっても必ず仲がいいわけじゃないと思う……私のように」

「あっ……ご、ごめん」



ネコミンが捨て子だった事を思い出したレアは謝罪し、確かに現実世界でも実の親子だからといって必ずしも愛情があるとは限らず、レアの発言は両親から愛された子供の発想でしかない。


リルは現国王の最初に生まれた子供ではあるが、世継ぎを期待していた国王は生まれてきた子供が女だと知って落胆し、彼女の世話は他人に任せて碌に顔を見せる事もなかった。リルは赤ん坊の頃から国王の正室だった母親の元で育てられていたという。


しかし、リルが生まれてから3年後に国王が側室との間に子供を授かり、今度は彼が期待通りに男の子が生まれた。国王はその息子の事を非常に可愛がり、世継ぎとして教育を施す。だが、この生まれてきた子供が非常に問題のある性格に育ってしまった。



「世継ぎと認められている王子は性格が最悪、年齢は私達と同い年ぐらいだけど、自分が世継ぎである事を理由に好き勝手してる。渾名は我儘王子」

「我儘王子……なんか、ちょっと可愛らしい渾名に聞こえる」

「私もそう思う。だけど、あの王子の場合は我儘という度合いを超えている……前にも自分の誕生日の時、リルに招待状も送らなかった癖にパーティーに参加しなかったリルをけなしていた。だから私もチイも王子の事は嫌い」

「なるほど……でも、その王子とリルさんが危険な仕事を任せられるようになったのはどういう関係があるの?」

「王子はリルを嫌っている……理由は家臣の中にはリルを世継ぎにするように勧める人も多いから」



ネコミン曰く、リルの腹違いの弟の王子は性格面に問題があるという理由で家臣からも評価が決して高いとは言えない。


そのために王女として立派な務めを果たしているリルこそが世継ぎに相応しいと考える家臣も多く、その事が王子には気に入らないという。



「王子はリルが世継ぎに認められるのは気に入らないから、裏で手を回してリルに危険な仕事ばかり与えている。国王も王子には甘いから、リルの事を全然気にかけてくれない」

「そ、そうなんだ……その話を聞くと、リルさんが凄く可哀想に思える」

「でも、リルはどんな危険な仕事も果たしてきた。そのお陰で味方も増えたし、勇者であるレイナを連れて帰ればきっと国王もリルの事を認めてくれる」

「そうなるといいけど……」



これから訪れるケモノ王国の国王とリルの複雑な関係を聞かされたレアは不安を覚える一方、リルがそんな苦労をしていると知って彼女の力になってやりたいと思った。


大分話し込んでいたので宿屋からかなり離れた事に気付き、そろそろ宿屋に戻ろうとしたレアはネコミンに振り返る。



「じゃあ、そろそろ戻ろうか……あれ、何だろうあの人?」

「……露天商?」



随分と夜が更けている時間帯にも関わらず、路地裏の方で座り込む人物を発見したレアとネコミンは不思議そうにその人物を確認すると、どうやら露天商らしく地面に絨毯を敷いて宝石のような物を並べていた。座っている人物はドワーフらしく、外見はこじんまりとした老人にしか見えない。

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