第98話 背中を流す
「あっ……そういえばレイナは男の子だった。すかっり忘れてた……いやんっ」
「ちょ、なんでこんな時間にお風呂に!?」
「疲れているレイナの背中を流そうと思って……」
ネコミンはレイナに裸を見られても気にしないのか身体をお湯で洗い流すと、普通に浴槽の中に入り込む。一方でレイナの方は初めてまともに見た女の子の身体に意識してしまう。
今更ながらにレイナはネコミンが地球でも滅多に見かけない程の美少女だと気付き、今までは色々と忙しかったのであまり彼女の事を女性だと意識していなかった。
だが、こうして裸を見ると彼女が同世代(本当の姿の)の女の子である事を思い知らされる。その一方でネコミンの方はレイナの身体に視線を向け、感心した様に呟く。
「こうしてみると本当に女の子にしか見えない。でも、本当は私と同じくらいの男の子……いや、男の娘」
「何で言い直したんですかっ!?」
「あ、また敬語になってる。同い年だから普通に話せばいいのに」
今までの癖でレイナは気を抜くとネコミンやチイが相手でも敬語を使ってしまい、指摘されたレイナは普通に言い直す。
「……ネコミンはどうしてここに?」
「さっきも言ったけど、レイナの背中を流しに来た」
「なら、チイとリルさん?」
「二人は今は部屋で難しい話をしている」
チイとリルまで乗り込んでくるのではないかと心配したレイナだが、現在の二人は部屋の方でケモノ王国までの道のりを話し合っていた。
ネコミンが風呂場に入った理由は本当にレイナの背中を流しに来ただけらしい。だが、既に身体は洗い終わったレイナは風呂から上がる事にした。
「ふうっ……俺はもう上がるよ。これ以上ここにいたらのぼせそうだから」
「長湯は嫌い?」
「そういう意味じゃなくて……別の意味で身体が火照りそうだから」
「……?」
レイナの言葉にネコミンは首をかしげるが、そんな彼女を置いて先にレイナは上がろうとした時、ネコミンが腕を掴む。
「待って」
「うわっ……な、何?」
ネコミンに止められたレイナは驚いて振り返ると、彼女は興味深そうな表情を浮かべてレイナに告げた。
「……レイナの本当の姿を見て見たい」
「えっ……」
「レイナが男の子になった姿を見てみたい」
唐突なネコミンの言葉にレイナは驚くが、彼女は本気で言っているのか腕を離さず、黙ってレイナの顔を見つめていた――
――それから数分後、荷物を取り出したレイナは男物の服装に着替えると誰もいない部屋で文字変換の能力を発動させ、元の姿へと戻る。
文字数に余裕があるので日付を変更する前に元に戻れば良いと判断し、今回は性別だけではなく年齢の方も元の姿へと戻ると、ネコミンに元の姿に戻った自分を見せつけた。
「どう?ちゃんと男の子でしょ?」
「おおっ……本当だ。でも、あんまり顔は変わっていない、女の子みたい」
「人のコンプレックスを指摘しないでよ……」
久しぶりに「レア」の姿へ戻った彼を見てネコミンは感動した表情を浮かべ、まじまじと男の子の姿に戻ったレアを観察する。
顔は元々が女の子のように整っているのであまり変化はないが、肉体の方は細身ではあるがしっかりと男の子らしく、ネコミンは鼻を鳴らす。
「すんすんっ……確かに男の子の臭いがする」
「え、臭い?ちゃんと風呂に入ったのに……」
「そういうのじゃない……でも、この臭いも悪くない」
「ちょ、すり寄らないでよ……この姿でそれをされるとまずいって」
女性の姿の時のようにネコミンは男の子に戻ったレアに対して変わらずにすり寄り、後ろから抱き着いて男の子のレアの肉体を確かめる。レイナの姿の時はあまり気にしていなかったレアだが、今更ながらにネコミンの豊満な乳房を押し付けられると彼女が女の子である事を意識してしまう。
やっと満足したのかネコミンが離れるとレアは安堵すると、手鏡を取り出して改めて自分の姿を確認し、ちゃんと元の姿に戻っていることを確かめる。久々の男の子の肉体に戻った事は喜ばしく、出来ればこのまま外に出たい気持ちもあった。
「やっぱりこっちの方がしっくりくるな……あ~あ、外にも出れたらいいのに」
「外出したいの?」
「まあ、少しだけ……でも、正体が気付かれたらまずいか」
勇者であるレアの存在がこの街にも知れ渡っている可能性があり、帝都が発注したレアの手配書が出回っていたら見つかったら面倒な事になる。しかし、そんなレアに対してネコミンはある事を尋ねる。
「レアは性別と年齢以外は変えられないの?」
「えっ……」
「私のように獣人になれば正体を気付かれる事はない……と思う」
「……あっ」
ネコミンの言葉にレアは意表を突かれ、文字変換の能力を使えば種族も変更する事が出来るのではないかと思うが、ステータス画面を確認して不可能だと知る。
(あ、駄目だ……ステータス画面には種族の項目はないから文字変換は使えないのか)
ステータス画面に表示されている項目の中には解析の詳細画面の時とは異なり、生憎だが「種族」の項目は存在しなかった。
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