第97話 魔除けの効果
「それにしてもかなり大きくなったな。石というよりも岩石だなこれは……何だっ!?」
「……窓の外から何か聞こえる」
指先で魔除けの石をつついていたリルが部屋の窓に視線を向け、人の悲鳴のような音が聞こえたらしく、すぐに窓を開くと街道の方で騒動が起きていた。
「プギィイイイッ!?」
「お、おい!!落ち着け、どうしたんだ急に!?」
「なんだなんだ!?何が起きたんだ!?」
「うわ、危ないっ!?」
街道の方で大きな荷車に運ばれた家畜用の魔獣が暴れ出したらしく、檻の中に閉じ込められた猪型の魔獣が無我夢中にもがき、それを御者が抑えつけようとしていた。その様子を見たリルはすぐに魔獣の異変の原因がレイナの作り出した「魔除けの石」が原因であると知る。
レイナによって効果を強化された魔除けの石の波動を街の中で飼育されている魔獣が反応したらしく、至る場所で人の悲鳴と魔獣の鳴き声が聞こえてきた。慌ててリルは窓を閉めると急いでベッドのシーツを剥ぎ取り、魔除けの石を覆いこむ。
「まずいっ!!早くこの石をしまうんだ!!」
「えっ!?は、はい!!」
「持ち上げるぞ、壊さないように気を付けろ!!」
大きさ的に鞄の中に入れるのは難しく、リュックの中にレイナ達は魔除けの石を運び込み、内部の暗黒空間に飲み込ませると外の騒動が徐々に収まる。
どうやらリュックの中に閉じ込めた事で魔力の波動が途切れたらしく、窓の外の様子を確認すると街道の方で暴れていた魔物も大人しくなっていた。
「な、何だったんだいったい……こいつめ、驚かせるな!!」
「プギィッ……」
「もういいじゃないか、幸い積み荷は無事だったようだしな……」
「全く、危うく死にかけたぜ」
檻の中の魔獣が大人しくなった事で御者たちも落ち着き、その様子を見てリルは安堵するが、もしも魔除けの石を放置し続けていたら途轍もない事態に陥っていただろう。
通常、魔除けの石はゴブリン以上の魔力を持つ魔物には殆ど効果を示さない。だが、レイナによって効果を強化された魔除けの石は明らかにゴブリンを上回る魔力を持つ生物が相手でも効果を発揮する事が証明され、リルは考え込む。
(このまま国境を乗り越えるより、牙竜の住処を通過する事が出来れば最短でケモノ王国へ辿り着く事が出来る。しかし、本当に竜種を相手に魔除けの石が通じるかどうか……)
魔除けの石の力によって本当に魔物を寄せ付けないのであれば、牙竜が住処として暮らしている地域を通過する可能性も十分にあった。しかし、万が一にも牙竜と遭遇すればリル達の命は危うい。
(もしも牙竜と遭遇すれば私達だけではどうしようもできない……だが、このまま国境を無事に通過できるとは思えない。ならば、一か八か賭けてみるしかないか)
このまま帝国の城へ乗り込み、強行突破を行うよりも牙竜の生息地域を通り過ぎる方がケモノ王国へ辿り着ける成功確率は高いと判断したリルはレイナの力を信じて明日の朝に出発する事を決める――
――その日の晩、レイナは宿屋の風呂場にて一人で赴き、身体を洗う。リル達は既に部屋の中で身体を休ませており、レイナはゆっくりと風呂に浸かる。
「ふうっ……生き返る。いい湯じゃ~」
少女の姿でまるでおじいさんのような台詞を口にしながらもレイナは天井を見上げ、これから先の事を冷静に考える。
半ば勢いに任せてリル達に同行してケモノ王国へ向かっているが、自分が王国ではどのような待遇を受けるのか気になった。
『君の事は私が父に報告し、客人として迎えいれよう。王国に滞在する間は何も不自由はさせないよ』
『何かあっても私達が守る』
『但し、勇者という事は無暗に他の人間に話しては駄目だぞ!!きっとお前を利用しようとする輩が現れるだろうからな……』
リル達はレイナがケモノ王国へ赴いた後は手厚く歓待する事を約束してくれたが、重要なのはレイナが元の世界へ戻る手がかりがケモノ王国に存在するかである。
過去に勇者を召喚した事があるケモノ王国なら勇者召喚の儀式を知っているのは間違いなく、地球へ戻る手段も見つかるかもしれない。
『これから先、どうなるのかな……』
レイナは風呂に浸かりながら元の世界の家族や、帝都に残してきたクラスメイトの3人の顔を思い浮かべる。地球にいた頃は親交があったわけではないが、この世界に来たばかりの頃はダガンの元で共に訓練を受けていたので男子二人とはそれなりによく話す機会もあった。
だが、子供の身体のせいか長湯していると身体が火照り、もう限界だと判断したレイナが風呂から上がろうとした時に扉が開く。
「レイナ、ここに居た」
「えっ……うわぁっ!?」
風呂場に入って来たのは全裸のネコミンであり、慌ててレイナは顔を逸らして目元を隠す。そんな彼女の反応を見てネコミンは不思議に思うが、すぐにレイナが元々は男の子である事を思い出す。
今現在は文字変換の力で性別を女性に変化しているが、精神面は男性であるレイナはネコミンの裸を見て恥ずかしがる。
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