第96話 魔除けの石

――「魔除けの石」と呼ばれる魔石は魔物を近づかせない「魔力の波動」を発生させる魔石であり、シロやクロのように特殊な訓練を受けない限り、全ての野生の魔物に同じ効果を生み出す。しかし、力の強い魔物は微弱な魔力の波動では追い払う事は出来ず、せいぜい嫌悪感を抱かせる程度の効果しかない。


この世界の全ての生物は「魔力」と呼ばれる特殊な力を宿し、人間の場合は魔力を利用して「魔法」という技術といううよりも文化を生み出している。しかし、魔物のように人間のように賢くはない生物の場合は魔力を自分の肉体の強化に無意識に使用している。


つまり、危険種として指定されている魔物は魔力によって肉体を強化させ、成長した存在となる。だからこそ強い魔力を持つ魔物は魔除けの石が放つ魔力の波動に対する対抗力を持ち、効果が非常に効きにくい。しかも魔除けの石は大きさに関わらずに一定の魔力の波動しか発生しないため、力の強い魔物には通用しないのが常識だった。


ちなみに魔除けの石が放つ魔力の波動は人類(この場合は人間だけではなく、獣人やエルフなども含まれる)に効果を発揮しない理由は、この鉱石が放つ波動は人間にとっては害はなく、適しやすいからだという。


元々、魔除けの石は過去に召喚された勇者が残した技術で作り出された代物であり、魔除けの石の素材となる鉱石に関しては只の魔力を宿した鉱石でしかなく、別に害はない。



「これが魔除けの石だ。見た事はあるか?」

「へえ……意外と綺麗ですね」



リルがレイナに魔除けの石を渡し、外見はビー玉程度の大きさで緑色に光り輝き、魔法陣のような物が刻まれている魔石を受け取る。こんな小さい魔石でもゴブリン程度ならば寄せ付けない効果を誇り、しかも使用期間は数年というので驚きである。


魔除けの石は必ず外気に晒す必要があり、布か何かで覆いこんでしまうと波動が抑えられてしまう。外見が綺麗なので大抵の冒険者はペンダントや指輪などの装飾品の一部として装備する事も多く、リルの場合はピアスとして装着していた。



「魔除けの石は一応は高級品ではあるが、使用期間の長さを考えればそれほど高くはない。一度買えば数年は保つし、魔物も迂闊に近づかないから破壊される心配もない。ちなみにこの魔除けの石は金貨1枚程度したぞ」

「なるほど……じゃあ、強化を試してみますね」

「頑張って、何か手伝える?」

「じゃあ、身体を抱きしめるのを止めて……抱き枕じゃないんだから」



自分を後ろから抱きしめていたネコミンからレイナは離れると、彼女は机の上の魔除けの石に視線を向け、解析の能力を発動させる。



――魔除けの石――


能力


・退魔紋

・使用期間:782日


詳細:300年ほど前に初代勇者によって製作された魔石。緑鉱石という魔力を宿した鉱石に「退魔紋」と呼ばれる特殊な紋様魔法陣を刻む事で魔力の波動を常に放出する。この魔力の波動は魔物に嫌悪感を引き起こし、近づけさせない。但し、ゴブリン以上の力を持つ魔物には効果が薄い



―――――――――



視界に表示された画面を確認してレイナは魔除けの石の製作者も聖剣を作り出した「初代勇者」である事を知り、少し驚きながらも説明分の内容を確認する。


事前にリル達から聞かされていた通りの内容が記され、文字変換の能力でどのように改変するのかを考える。



(文章の場合は文章として成立させないと駄目だったな……なら、これはどうだろう?)



最後の『但し、ゴブリン以上の力を持つ魔物には効果が薄い』という部分に注目したレイナは指先を伸ばし、出来る限り文字数を無駄にせず、尚且つ文章として成り立つ文面へと書き換える。



『但し、ゴブリン以上の力を持つ魔物には効果が薄い』

「これをこうすれば……出来た」

『特に、ゴブリン以上の力を持つ魔物には効果が高い』



文字変換の能力で「但し」を「特に」そして「薄い」の「薄」の部分だけを「高」に変化させる。その直後、魔石が光り輝くと、詳細画面にも変化が起きた。



――魔除けの石――


能力


・退魔紋

・使用期間:782日


詳細:300年ほど前に初代勇者によって製作された魔石。緑鉱石という魔力を宿した鉱石に「退魔紋」と呼ばれる特殊な紋様魔法陣を刻む事で魔力の波動を常に放出する。この魔力の波動は魔物に嫌悪感を引き起こし、近づけさせない。特に、ゴブリン以上の力を持つ魔物には効果が高い



―――――――――



どうやら無事に成功したらしく、詳細画面の内容は殆ど変わっていないが、外見の方は最初はビー玉程度の大きさだったはずなのに何時の間にか「ボーリング玉」を想像させる大きさに変化していた。


目の前の光景にレイナ達は呆気に取られるが、詳細画面を確認する限りでは文字変換は成功したらしく、無事に魔除けの石の効能も強化されている。



「な、何だこれは……これが魔除けの石、なのか!?」

「おっきくなった……レイナがおっきくした」

「ネコミン、その台詞はちょっと危ないぞ……しかし、確かにこれは凄いな」



リルは指先で恐る恐る巨大化した魔除けの石をつつき、レイナもまさかこんな大きさに変化するとは思わなかったが、一応は成功したのは間違いない。

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