第85話 キャンピングカー

「やった、成功した!!」

「こ、これは……なんだ!?」

「車輪が付いている、という事は馬車?」

「でも、馬がいない。それに普通の車輪じゃない」

「「ウォンッ……」」



レイナ達の目の前に現れたのは「キャンピングカー」であり、しかも大型車だった。レイナの叔父が所有していたキャンピングカーと瓜二つの物が出現し、地面に落ちていた「石」を「車」という文字に変換させた時、叔父の所有していたキャンピングカーを想像した事で作り出す事に成功したらしい。


毎年、レイナは夏休みに叔父の家に遊びに行くときに必ず乗せて貰ったキャンピングカーであり、叔父はこの車の事を大層気に入っていたので普段から整備を欠かさず、まるで新車のように磨かれていた。


記憶の中のキャンピングカーを再現したいと思って能力を発動したがの功を奏したのか、出現したキャンピングカーも非常に綺麗な状態であり、試しにレイナは中に乗り込もうとすると鍵が掛けられていない事に気付く。



「おおっ……そっくりそのまま残ってる」

「れ、レイナ君……この奇怪な乗物はいったい?まさか、自動車という奴か?いや、しかし噂に聞く限りでは自動車がこんなに大きい物だとは聞いた事がないが……」

「え?リルさん達は自動車はあるんですか?」



リルの言葉にレイナは驚き、この世界にも自動車を建造する科学があるのかと驚くが、リルは首を振って勇者の伝説の中にそのような乗物がある事を教える。



「いや、私達は見たことはないが、過去に召喚された勇者は自動車という乗物を使用していたという伝承は残っている。現在はその自動車という乗物は失われてしまったが、まさかこれが勇者だけが扱う事が出来る自動車という奴か?」

「ああ、なるほど……別に勇者だけが乗れるわけじゃないと思いますけど、ちょっと待ってください。動くのか確かめますから」



レイナは叔父がいつも自動車の中に車の鍵の予備を入れていることを思い出し、鍵を見つけると運転席に乗り込んで差し込む。そして緊張しながらもエンジンを作動させると、キャンピングカーから音が鳴りだす。



「やった!!動かす事が出来る!!」

「きゅ、急に震え出したぞ!?」

「にゃにゃっ……!?」

「これは……!?」

「「グルルルッ……!!」」



唐突に震え出した車体にリル達は戸惑うが、すぐにレイナはエンジンを切ると奥の方に進み、まずはキャンピングカーに搭載されている電子機器等の確認を行う。結果から言えば冷蔵庫も電子レンジも問題なく動き、洗面所やトイレも水は流れ、調理台も火を灯す事が出来た。


大迷宮の時にレイナは「自宅」を作り出した時はガスも水道も電気も扱う事は出来なかったが、今回のキャンピングカーは自宅の時と違い、事前に設備が整った状態なのでガスも水道も電気も扱う事が出来た。


また、ガソリンに関しても几帳面な叔父が用心のために予備のタンクを詰め込んでおり、動かす事は特に問題はなさそうだった。


最もレイナは車の運転をした事はないのであくまでも身体を休ませるために作り出したに過ぎず、移動はシロとクロで行う事に変わりはない。このキャンピングカーは自分達が休むために用意した代物であり、明日出発するときは処分しなければならない。



(……勢いに任せて作ったけど、これを処理するのは大変そうだな)



試しにレイナは解析の能力でキャンピングカーを確認すると、幸いな事に詳細画面には「大型車――大人数が乗り込めるキャンピングカー」と表示される。


仮に処分するときは3文字の名前を変更するだけで十分であるため、少し安心したレイナは改めて驚愕の表情を浮かべたまま車内を見渡すリル達に説明を行う。



「えっと、この車は……いや、自動車は家の中に過ごせるように設計されて作られているんです。だからベッドやお風呂もあります」

「風呂!?今、風呂と言ったのか!?」

「お風呂に入れるの?」

「それだけじゃありません。この電子レンジを使えば冷たい食べ物も暖かくできますし、この冷蔵庫は逆に中が冷え切っているので食べ物の長期保存にも使えます。それと調理台の方は火を出せるので料理も出来ますし、このテレビを使えば色々な物が見れます……今は使えませんけど」

「し、信じられない……勇者の世界の人々は移動中でさえもこんな快適な空間を味わえるのか!?」



洗面所の蛇口から水が流れてくる事にリルは動揺を隠せず、チイも冷蔵庫を開いて中に入っている缶を恐る恐る持ち上げ、ネコミンの方は電子レンジの使い方が分からないのか不思議そうに中を覗き込む。


電子機器の詳しい使い方に関しては後で教える事に決め、レイナは今日の所はここで身体を休ませる事を3人に提案した。



「あの、良かったら今日はここで休みませんか?シロ君とクロ君は流石に入れる事は出来ませんけど、この中ならベッドもあるのでゆっくり休むことが出来ますよ」

「……そ、そうだな。勇者の世界の乗物には興味がある」

「それに私達ずっと動きっぱなしで身体が汗臭い……お風呂に入りたい」

「なら、お言葉に甘えて今日はここで過ごそう……この際だ、勇者の世界の事を色々と教えてくれないか?」



レイナの提案にリル達は反対せず、彼女達もしっかりと身体を休めたいので今日だけはキャンピングカーの世話になる事になった。

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