第84話 魔王軍の凶行

――結局、この日は他の村に辿り着く事は出来ずに野宿を行う事になり、流石に慣れない外の寝泊まりにレイナの体力は削られていく。


リル達は外で何日も寝る事に慣れているだろうが、今までは建物の中でしか眠ったことがないレイナは二日連続の野宿と、道中のシロの背中に乗り続ける事で精神的にも体力的にも疲労していた。


レイナの事を考慮して三日目はリルも何処か適当な村に立ち寄って宿泊しようと考えていたが、地図を確認して進路上の近くに存在するいくつかの村を訪ねていたが、どこも最初に訪れた村の様に廃村と化していた。



「リル様、どうやらこの村も人間は住んでいないようです」

「大分前に人がいなくなったみたい。臭いも残ってない」

「そのようだな……そしてここにも魔王軍の紋様か」

「……酷い有様ですね」



最初に訪れたホロ村のように荒れ果てた村の様子を見てレイナ達は表情を険しくさせ、村の至る所に設置されている魔王軍の旗を確認してリルは苛立ちを隠せずに旗の一つを切り裂く。


どうやら既に王都周辺の地域に存在する殆どの村は魔王軍によって廃村と化していたらしく、この様子だとこれから訪れる村も残っているのか分からない。


ここまでに訪れた村は1年前に一度尋ねた事があるリル達から見た限りでは住民は貧しく、税金を支払う事も出来ない村だった。税金を支払えずに国から警備兵が派遣されず、ウサンが裏で操る魔王軍によって滅ぼされたと考えるとこの国がどれだけ腐っているのかを嫌でも思い知らされる。



「レイナ君、これがこの国の現状だ……君がここに残っていればきっと良いように利用されていただろう」

「ええ、そうですね」

「どうしますかリル様?もう、この様子では小さな村は全て廃村と化しているかもしれません。このまま国境を目指し、帝国を脱出する方が……」

「駄目だ、私達も疲労は蓄積している。何処かで身体を休む必要がある……しかし、そう考えると何処で休めばいいか」

「私も柔らかいベッドで寝たい。レイナのおっぱい枕は小さくなったから少し物足りない」

「ええっ……そう言われましても」



人の胸を枕代わりにするネコミンにレイナは呆れるが、流石に体力の限界が近いのか身体がふらつき、このままでは気絶しそうだった。色々と考えた末、レイナはある事に気付く。



(仮に俺の能力で「村」という文字に書き換えた場合、どうなるだろう?)



レイナはこれまでに文字変換で作り出した物は全て「固形物」であったが、村という曖昧な意味合いの文字の場合、どうなるのかが気になった。


今までの傾向を考えればレイナが「想像」した通りの物に変化する可能性はあるが、その場合は村に住んでいる「村人」などの存在はどうなるのかが気になる。



(俺の家を作った時に誰もいなかったし、村を作り出しても村人は誰も住んでいないかもしれないな……)



仮にレイナの能力で村を作り出しても村人が存在しなければ無人の村を一つ作り出すだけに過ぎない。そもそも帝国領地内で勝手に村を作り出せば間違いなく怪しまれるだろう。たった1日で誰も住んでいない村が誕生するなど、普通ならば有り得ない話だ。


しかし、現在の帝国は勇者という超常的な存在が召喚され、その内の一人は行方不明という扱いになっている。もしも領内で異変が起きればそこに行方不明となった勇者が関わっているのではないかと勘繰る者もいるだろう。そもそも身体を休ませるために村を作り出すという発想が突飛すぎる。



(駄目だ、頭が上手く回らない……もっと良い方法を考えないと)



シロの背中に揺さぶられながらもレイナは身体を休ませる方法を考え、魔物が寄り付かず、安全な場所で身体を休ませる事が出来ないのかを思い悩む。単純に建物を作り出しても電気やガスや水道が存在しないプレハブ小屋と大差ない。



(身体を休ませる……それでいて安全な場所、後処理が面倒じゃない物……?)



朦朧とする意識でレイナは自分が求める条件を全て兼ね備えた「乗物」が頭の中に浮かび、これならば電気やガスや水道も利用できる可能性は十分にあった。


妙案を思いついたレイナは意識を覚醒させると、即座にシロから降りて地面に手を伸ばす。そのレイナの行為にリル達は驚く。



「レイナ!?急にどうした?」

「いったい何をしているんだ?」

「落とし物……?」

「これじゃない、これでもない……あった!!」



レイナは「小石」とは呼べない程の石を拾い上げると、解析の能力を発動して詳細画面を開き、表示された文字の確認を行う。



『石――何の変哲もない石』

「相変わらず説明文に悪意を感じる……」

「レイナ君?その石がどうかしたのか?」



唐突に石を握り締めて妙な事を呟くレイナにリル達は心配し、寝不足と疲労で頭が混乱しているのかと不安を抱く。しかし、彼女達の心配はよそにレイナは詳細画面に手を伸ばして文字変換の能力を発動させた。



(イメージするんだ……昔、叔父さんに乗せて貰ったあの車を)



レイナの叔父はアウトドア派で休日には外によく出かける事が多く、両親が仕事で忙しい時はレイナの世話をよくしていた。その時、彼が所有するある「車」を思い出したレイナは叔父の車を思い出しながら能力を発動させた。

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