第86話 夜が明ける前に

――キャンピングカーにて一夜を過ごす事にしたレイナ達だが、初めて扱う電子機器に対してリル達は非常に戸惑い、何度か事故に発展しそうな展開になった。



「ちょ、チイ!!卵を電子レンジで温めようとしないでください!!爆発しますから!!」

「爆発!?卵が爆発するのか?食べ物を温かくする道具だからゆで卵が出来上がるのかと思ったんだが……」

「レナ、シャワーというのが途中でお湯から水しか出なくなった……ぷるぷるっ」

「わああっ!?だからって裸の状態で出てこないで!!元栓を間違って押しただけだと思うから!!」

「このコーンフレークというのは中々いけるな、癖になりそうだ」

「いや、あの……リルさん、それドックフードです。シロ君とクロ君に食べさせようと用意した奴なんですけど……」

「「クゥンッ……」」



キャンピングカーの一夜は騒がしい時間を過ごしたが、電子機器の扱い方にリル達も慣れていくとレイナの手を煩わせる事はなくなり、就寝の時間を迎えた頃にはリル達もある程度の電子機器の使い方を学ぶ。


早朝に出発する予定なので早めにレイナ達は眠りにつこうとするが、久々のベッドなのにレイナは寝付けずにいた。



「はむはむっ……」

「わっ……ちょ、耳たぶを甘噛みしないでよチイ」

「ごろごろっ……」

「ネコミン、近い近い……」

「大分君たちも仲良くなったな」



寝ている最中にレイナはチイとネコミンにすり寄られ、どうやら二人とも寝相が悪いらしく、レイナの眠っているベッドに潜り込んでくる。


その姿を見てリルは微笑ましい表情を浮かべるが、いくら肉体が女の子とはいえ、精神面が男性のレイナは落ち着かない。


ネコミンとチイからどうにか離れたレイナは身体を起き上げると、見張り役のリルが窓の外の光景を眺めている姿を見つめ、彼女の隣へ座る。



「リルさん、ちょっとお願いがあるんですけど……」

「何だい?は、まさか二人に夜這いを仕掛けるつもりか?それは駄目だぞ、まだ出会ったばかりでそこまでの仲でもないだろう」

「あんまり変な事を言うと性転換させますよ」

「それは本当に辞めてくれ……」



レイナが言うとシャレにならないのでリルは謝罪を行うと、そんな彼女の態度に呆れながらもレイナはリルに頼みごとを行う。



「リルさん、俺に剣を教えてください」

「剣を?」

「はい、やっぱりこれからの事も考えるともっと腕を磨いた方がいいかなと思いまして……」



戦技や魔法を覚えられないとはいえ、レイナが戦闘技術を磨く事が出来ないわけではない。勿論、いくら努力したとしてもレイナが戦技や魔法を覚える事は出来ないだろう。だが、技術を身に着ければ自分の身を守る程度の事は不可能ではない。


レイナの長所があるとすれば他の人間よりもSPを消費して様々な技能を覚える事が出来るという点であり、実際に身体能力を強化する技能をいくつか覚えた事でレイナは大迷宮の魔物でさえも渡り合える力を以ている。


それに聖剣の恩恵のお陰で普通ならば敵わないような相手でも倒せるようになっており、今のレイナに必要なのは戦闘技術だった。



「これからの事を考えると、魔物との闘いではリルさん達に任せっきりじゃなくて俺も戦いたいんです。だから、剣を教えてください」

「その心意気は買うが……君も大分疲れているだろう。今日はゆっくり身体を休めるべきだ」

「いや、その事なんですけど……実は俺の能力なら疲労を完全に消す事も出来るんです」

「ほう……?」



レイナはステータスの状態の項目を「健康」と書き換えれば「疲労」や、あるいは「瀕死」の状態に追い込まれようと瞬時に肉体が完全に復活する事を告げる。


にわかには信じられない話だが、これまでのレイナの能力を見せつけられたリルは納得せざるを得ず、レイナの意思を汲みとって剣の相手をする事にした――






――リルとの訓練を終えた後、レイナはキャンピングカーを文字変換の能力を利用して別の物体へと変化させる。


詳細画面に表示された「大型車」という文字を「双眼鏡」という文字に変換させると、キャンピングカーが光り輝いて小さな双眼鏡へと変化を果たす。



「よし、これで問題ないです。じゃあ、行きましょうか」

「……相変わらずお前の能力は驚かされるな」

「レイナは本当に凄い」

「流石は勇者様だ……ふああっ」



夜の訓練に付き合ったリルは眠そうに欠伸を行い、そんな彼女にレイナは申し訳なく思ったが、今日だけで既にレイナは文字変換の能力を「5文字」も使い果たしてしまう。訓練に熱中して日付が変わった事に気付かず、そのせいでレイナはステータスの状態を「疲労」から「健康」に変化させるときに2文字、そして「大型車」を「双眼鏡」へ変化させた事で3文字も使い切ってしまう。


最初はレイナもリルのステータスの状態を変化させようとしたが、レイナと違って徹夜には慣れているリルは万が一の場合を考えて文字数を残しておくように促す。自分のために無理をさせたのにリルだけが疲れさせたままだという事にレイナは後ろめたさを覚えたが、昨日の亜種の一件もあり、リルの言う事をに従う。

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