第76話 ウサンの屈辱

「しかし、これはどういう事だ?存在するはずがない二つ目のフラガラッハ……それに勇者殿の世界にしか存在しないはずの植物、いったい何がどうなっておる」

「あの~……これ、多分だけど霧崎君が作ったんだと思うよ?」

「何!?それはどういう事だヒナ殿!?」



雛の言葉に皇帝は驚愕し、他の者達も激しく動揺する。しかし、同じ勇者である瞬も茂も雛の意見に同意するように頷き、その根拠を話す。



「まず、話を聞く限りではこちらのフラガラッハの所持者は霧崎君の名前ですよね?それにこの向日葵も霧崎君の部屋で発見された……つまり、どちらも霧崎君が作り出した物じゃないかと僕達は思っています」

「作り出しただと?だが、あの男の能力は文字を変換させる程度の力しかないのではないのか!?」



瞬の言葉にウサンは動揺のあまり敬語を忘れて大声で怒鳴りつけ、仮にも勇者であるレアを「あの男」という呼び方をした彼に勇者たちは眉をしかめるが、瞬は話を続ける。



「確かに僕達は霧崎君から文字を変換させる能力だと聞かされています。実際に文字を変える能力を見ました。しかし、後々になって考えたんですが、霧崎君の能力は本当に文字を変換させるだけの能力だったのかと……」

「勇者殿、それはどういう意味なのだ?」

「例えば……もしも霧崎君が何らかの理由で嘘を吐いていたとしたらどうでしょうか?本当は文字を変化させる能力じゃなく、本当は別の能力を隠していたとか……」

「そ、そんな馬鹿な……!?」

「だが、確かにそう考えると辻褄は合う……冷静に考えれば文字を変換させるだけの能力で聖剣や植物が生み出せるはずがない」



レアの能力が「文字変換」ではなく、全く別の能力を所持していたと考えるならば聖剣や植物を生み出す事が出来たとしてもおかしくはない。だが、ここで疑問なのはどうしてレアがその能力を隠していたかである。



「しかし、どうしてレア殿はその能力を秘密にしていたのだ?」

「それは本人に聞かないと分かりませんが……でも、そうとしか考えられません」

「確かにな、卯月の奴を救ったのも霧崎なんだろ?という事はあいつは傷を治す能力も持っているのか……」

「そうだよ!!私の命を救ったのは霧崎君だよ!!」

「……これはどういう事だウサン?お主から届いていた報告とは全く違うではないか!!」

「そ、それは……」



勇者たちが襲撃を受けたという報告は皇帝も受け取っており、ウサンは首謀者は不明だが暗殺者に協力した人物はレアであると報告していた。


しかし、実際の所は命を狙われた雛はレアに助けられたと証言した事で皇帝はウサンに疑いを抱く。ウサンはレアが犯人だと断定していたが、被害者である雛が否定した以上は最も怪しいのは彼である。



「し、しかし陛下!!あの男が城から逃げ出したのは自分にやましい事があると分かっていたからこその行動です!!もしも自分が無実であるならば牢獄から脱走せず、そのまま待機していれば良いはずです!!」

「愚か者がっ!!仮にレア殿が暗殺者に協力していたとしたらどうして雛殿の命を救う必要がある!?」

「そ、それは……」



皇帝の言葉にウサンは言い返すことが出来ず、暗殺者に狙われた雛が命を救われたと証言している以上、レアの殺害の容疑は晴れたといっても過言ではない。


それでもレアには色々と怪しい点があるのは事実のため、どうにかウサンは言い逃れしようと皇帝に報告する。



「確かに私の浅はかな判断であの男を……いや、レア殿を拘束したのは認めます!!しかし、もしも勇者殿の言う通りにレア殿が聖剣を作り出す能力を所持していたのならばどうして我々に報告もせずに隠し持っていたのですか!?拘束された際、あの者はそんな能力を持っているなど一言も漏らしていません!!これはおかしいではないですか!?」

「むっ……確かにそれは一理あるが」

「それは……そうですね」



レアが聖剣や地球の植物を生み出し、更に他者の傷を癒す能力を所有しながら今まで黙っていた事に関しては謎が残り、最初からそのような能力を所有していたのならば最初に召喚された時に話せばこんな事態には陥らなかったはずである。


しかし、実際の所はレアが自分の文字変換の能力の真相に気付いたのは召喚された日の翌日であり、その頃にはレアはウサンの嫌がらせを受けて若干この世界の人間に対して不信感を抱いていた。


しかも自分の部屋に毒性の花を仕込まれていると知った時点でレアは不信感を更に募らせ、能力の秘密を迂闊に話すわけにはいかないと判断しても仕方がない。


だが、その事実を知らない者達からすればレアは途轍もない能力を所有していたのに他の人間に隠していた、という事実だけしか残らず、その点に関しては瞬達もどうして自分達になにも言わなかったのかと疑問を抱く。だが、命を助けられた雛だけはレアの事を信じていた。



「皇帝さん!!霧崎君は悪者なんかじゃないよ!!私を助けてくれたいい人だよ!?」

「ふむ……確かにレア殿の行動には気になるところはある。だが、雛殿の命を救ったのも事実。ウサンよ、まずは市中に通達してある手配書の内容を変更し、冒険者ギルドの冒険者達にも通達せよ。一切の危害を加えず、無傷の状態でレア殿をこの城まで送り届けた者に報酬を与えるとな!!」

「はっ……分かりました」



ウサンは皇帝の命令に従い、その場で頭を下げる。しかし、その顔は憤怒の表情を抱き、危うく自分の立場が追い込まれそうになった事にウサンは激しい憎悪を抱く。



(おのれあの小僧め……生かしては返さんぞっ!!)



これほどの屈辱を受けたのは人生で初めてのウサンはレアに対して怒りを抱き、皇帝の命令を無視してでも彼の命を狙う事を決めた――

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