第75話 大臣の誤算

――アリシアが無事に救助されてから数時間後、玉座の間にてウサン大臣は呼び出され、皇帝と3人の勇者も既に待ち構えていた。皇帝の表情は険しく、一方で大臣の方は脂汗を滲ませていた。



「大臣よ、お主の話ではアリシアは殺され、聖剣の所持者は例の「文字を操る」勇者殿に成り代わっていたという話をしていたな?」

「は、はい……その通りです」

「だが、実際はどうだ?アリシアは生きておるし、聖剣フラガラッハも現在ここに存在する。そして鑑定士に調べさせたところ、この聖剣は本物である事と所持者はアリシアである事は確認済み……これはどういう事だウサンよ!!」

「そ、それは……」



皇帝に怒鳴りつけられたウサンは顔色を変え、彼自身もまさか本当にアリシアが生きており、しかも聖剣フラガラッハを所持した状態で戻ってくるとは思わなかった。


だが、ここで何か言い返さなければ自分の立場が危ういと判断したウサンは急いで連れて来た兵士に命じて例の物を差しだす。



「お待ちください皇帝陛下!!その聖剣が本物だと言いますが、私が預かっていた聖剣を確認してください!!」

「何をたわけたことを……フラガラッハはこの世に1つしか存在せん。それが本物であるはずがないだろう!!」

「お願いします陛下!!私は誓って嘘など言っていません!!」

「……良かろう」



ウサンの必死の申し出に皇帝は仕方がないとばかりに彼が連れて来た兵士に視線を向け、事前に待機させていた鑑定士の元に持ってきた包みを渡すように促す。


兵士は急いで鑑定士に包みを渡すと、布の中から「聖剣フラガラッハ」に瓜二つの外見の長剣を取り出し、驚いた表情を浮かべる。



「こ、これは……そんな馬鹿な、いったいどうして!?」

「どうした?何か分かったのか?」

「信じられません!!陛下、これは確かに本物の聖剣フラガラッハです!!」

「何じゃとっ!?」

「ええっ!?」

「ど、どう言う事ですか!?」

「そっちの剣が本物じゃないのかよ!?」



鑑定士の言葉に皇帝だけではなく、勇者たちも驚き、玉座の間に存在する全ての家臣や兵士も動揺を隠せない。その一方でウサンの方は内心で安堵するが、同時に疑念を抱く。どうして「フラガラッハ」が二つも存在するのかという疑問が全員の頭の中に浮かぶ。


聖剣を受け取った鑑定士は何度も見比べ、どちらも全く同じ性能を誇る聖剣だと判明する。二つのフラガラッハに違いがあるとすれば所持者の名前が「アリシア・ヒトノ」と「霧崎レア」と表示されており、片方はアリシアの所有物、もう片方は消えてしまったレアの所有物で間違いなかった。



「し、信じられない……しかし、確かにこの二つは本物の聖剣です!!という事は、フラガラッハは二つ存在した……!?」

「有り得ぬ!!同じ聖剣が二つも存在するという話など聞いた事がない!!」

「ですが、何度鑑定してもこの二つの聖剣は全く同じ能力を所有しています!!違いがあるとすれば所有者がアリシア様と、消えてしまった勇者様の物だとしか……」

「そんな馬鹿な……いったい何が起きておる?」

「あの、よろしいでしょうか?」



聖剣が二つも存在するという事実に皇帝は動揺を隠せず、何がどうなっているのか理解できなかった。そんな彼に対して勇者である「佐藤瞬」が手を上げると、彼は「卯月雛」に顔を向け、彼女が所有する「花」を示す。



「今回の件と関係があるのか分かりませんが、この花を皆さんに見て貰いたいんです」

「花?いや、シュン殿……今はそれどころでは」

「いいからこれを見ろよ皇帝さんよ、この花に見覚えがあるか?」



皇帝は瞬の言葉に訝し気な表情を浮かべるが、彼と同じく勇者である「大木田茂」が口を挟むと、仕方なく雛が所有する花に視線を向ける。こんな時に花を見せるなど何を考えているのかと思った皇帝だが、その花の形を見て不思議に思う。



「それは……何の花じゃ?見た事はないが……何という名前の花だ?」

「陛下、落ち着いて聞いてください。これは向日葵という僕達の世界の花なんです……この世界には存在しない、植物です」

「何!?」

「この世界には存在しない……だと!?それはどういう事だ勇者殿!?」



瞬の言葉に皇帝とウサンは驚き、どうしてこちらの世界には生息しない地球の花を雛が所有しているのかを問い質す。



「えっとね、この花は霧崎君の部屋の中に生けてあったんだ。霧崎君がいなくなった後、使用人さんが部屋の中を掃除している時に気付いたらしくて、見た事もない花だから私達の誰かが持ち込んできた花じゃないのかと思ったらしくて……」

「この向日葵は僕達の世界に存在する花です。だけど、僕達の誰もこの花を持ってきてはいません。恐らく、それは霧崎君も一緒です」

「そもそもよ、どうして霧崎の部屋があんなに狭くて汚い場所なんだよ?俺達の個室と比べて碌に掃除もされてない物置部屋じゃねえか?」

「何だと?どういう事だ大臣!?」

「い、いえ……その事に関しては私は何も知りません。使用人が間違えた部屋を用意したのかも知れませんな」



勇者であるレアの部屋が元は物置部屋として利用されていた場所だと知った皇帝は驚き、彼はレアにも他の勇者と同じく個室を用意させているとウサンから聞いていた。だが、ウサンはパーティーにて自分に恥をかかせたレアに怒りを抱き、敢えて物置部屋を利用させていた。


皇帝は自分の知らない間にレアの部屋を変更させていたウサンに怒りを抱くが、一方でレアの部屋に「向日葵」と呼ばれる地球の植物が存在する事に疑問を抱く。

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