第67話 手榴弾、再び
「でも、行くときは持っていなかった荷物を持ち帰っても怪しまれませんかね?」
「大丈夫だ、先に入っていた冒険者の遺品を持ち帰ったと言い張ればなんとかなるはずだ。本来は持ち帰った遺品は冒険者ギルドに私、所有者かあるいは所有者の関係者が一定の期間訪れなければ所有権は破棄される。だが、どさくさに紛れて持って帰ろう」
「そんな事をして大丈夫なんですか?」
「どちらにしろ、アリシアを救い出した後は私達はこの王都を早急に抜け出さないといけない。王女の命を救い出した冒険者となれば必ず帝城に呼び出されるだろうが、その際に身分を調べられるはずだ。そうなったら私達の正体が勘付かれる可能性が高い。アリシアを引き渡した後は私達は国へ戻ろう」
「でも、急にいなくなったら怪しまれるんじゃ……」
「当然だな。だからこそ急いでこの国を離れる必要がある。全く、王女の命を救ったのに犯罪者のように逃げ出さなければならないとは……」
「それは言わない約束」
「そうだぞチイ、お陰で私達は勇者様と出会う事が出来たんだ」
「わっ……」
リルは親し気にレイナの肩を掴んで引き寄せ、ネコミンもレイナの腕に絡む。どうやらイヤンの件でレイナが皆を救った事で信頼を得たらしく、警戒心を露わにしていたチイでさえもレイナの功績を認めたのか頷く。
「……正直、お前の事はまだ私は完全には信用していない。だが、お前がいなければリル様もアリシア皇女も命を落としていたのは事実だ。その点に関しては感謝してる」
「いやそんな……元々は皆さんを危険に晒したのは俺ですし、むしろ謝るのは俺の方で……」
「そんなことはないさ、君がいなければイヤンは間違いなく他の冒険者を殺して回っていただろう。アリシアもどうなったか分からない、我々の命の恩人だ。胸を張ると良い」
「胸を張る……こうですか?」
「おおっ……揺れた」
「くぅっ……何故、私だけ疎外感を感じなければならないんだ」
レイナは言われるがままに胸を張ると、ネコミンに次ぐ大きさの乳房が揺れ動き、その様子をチイは悔し気に視線を向ける。
雑談を終えるとレイナ達は家を抜け出し、まず獣人組は上手く髪の毛を隠した後、リルは褐色肌を化粧で誤魔化す。そしてレイナの方は一軒家の方へ振り返り、後処理を行う。
「解析」
『一軒家――地球の建築技術で建造された建物』
「あ、名前が変化している……こう言う事もあるのか」
解析の能力で建物の詳細画面を開くと、レイナは自分が最初に「自宅」と書き込んだにも関わらずに名前が「一軒家」と変化している事に気付き、文字変換の能力を発動した後に名前が変化する場合もある事を知る。
以前にも「鍵」を「金」という文字に変換させた時、出来上がったのが「金貨」だった事を思い出し、詳しい原理は不明だが文字変換させた物体の名前が変化する事もある事を認識した。
既にレイナは5文字分の文字数を消費しているので本日中に使用できる文字数は5文字だけとなる。一軒家を3文字の別の物体に変化させた場合、本日中に扱える残りの文字数は2文字になってしまうが、仕方がない事だと割り切るしかない。
(せめて役立つ道具に変化させて持ち帰りたいな。3文字の道具か……)
事前に家の中の役立ちそうな道具はカバンの中に回収済みであり、カバンやリュックに入れる大きさの物体なら持ち帰る事も出来る。考えた末にレイナは第四階層から脱出するため、役立つ武器を作り出す事にした。
(フラガラッハやアスカロン、それにマグナムもあるけど、やっぱりゴーレムと戦うとなると強力な武器が欲しいな。となると、あれしかないか)
以前にも打ち込んだ事がある武器の名前を思いつくと、レイナは詳細画面に指を構えて名前を変更させる。次の瞬間、一軒家が光り輝いた後に縮小化し、やがて緑色の小さな物体へと変化を果たす。
「ふうっ……」
「お、おい……今、何をしたんだ?」
「それは……?」
「亀……?」
「あ、気を付けて!!触らない方がいいですよ!!」
レイナが作り出した物にリル達は首を傾げ、この世界の人間には馴染みのない武器であり、レイナも取り扱いに注意しなければならない。一軒家を素材に作り上げた「手榴弾」をレイナは拾い上げるとカバンの中に預け、必要になった場合のみに使う事を決める。
過去にホブゴブリンが立てこもっていた大きな建物を崩壊に導いた件もあり、レイナは手榴弾を扱う時は慎重に利用しなければならないと判断してカバンの中に預けておく。出来れば使う機会が訪れなければいいのだが、ホブゴブリンよりも厄介なゴーレムが巣食う第四階層を進む以上、どうしても強力な武器は身に着けて居たかった。
(本当はマシンガンとか欲しいけど、それだとリルさん達が危ないかもしれないしな……)
マグナムを使用した際はガーゴイルの眉間を打ち抜くほどの威力を誇り、もしもマシンガンなどの弾丸を高速連射する武器を作り出せば大抵の魔物は駆逐できるだろう。
ゴーレムやガーゴイルのような硬い岩石の外殻に覆われているような敵でも通用するだろうが、もしも間違ってリル達に被弾させたら取り返しのつかない自体に陥る。そう考えたレイナは過去に使用した事もある手榴弾の製作に踏み止まり、リル達に準備を整ったことを伝える。
※申し訳ありませんが、今後は1話2000文字に統一します。その代わりに更新速度は早めます。
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