第68話 ゴーレムの災難

「準備は整いました、出発しましょう」

「よし、道案内を頼むぞチイ」

「はい!!最短で向かいます!!」



地図製作の技能を所有するチイの先導の元、レイナ達は行動を開始する。第四階層に入ってから既に1日以上が経過しており、早急に脱出してダガン達と合流する必要があった。他に気になる事があるとすればゴイル達の安否であり、彼等は銀狼隊の後に第四階層へ入る手はずだったが、未だに姿は見ていない。


先に入った暴狼団は相方を殺されて正気を失ったイヤンの奇襲を受けて全滅している事は確認済みであり、イヤンが彼等から奪った遺品も既に回収している。問題なのは地上へ抜け出してもイヤンを引き渡す事は出来ず、銀狼隊が国へ引き返すまでは残念ながらイヤンも連れて行かねばならない。


大迷宮で冒険者が行方不明になる事はよくある事のなのでイヤンが戻らなくても怪しまれず、きっと第四階層で死亡して迷宮に取り込まれたと思われるだろう。拘束したイヤンの処置に関しては後で話し合う事に決め、今は第四階層から抜け出す事にレイナ達は集中する。



「むっ……止まってください、この先の通路にゴーレムが待ち構えています。反応は3つです」

「そうか、厄介だな……奴等は足は速くない、強行突破で切り抜けられそうか?」

「無理でしょうね、通路の幅から考えても我々はともかく、荷物を背負っているレイナでは逃げ切るのは難しいかと……」



チイもレイナと同じく「気配感知」の技能を所有しているらしく、地図製作の画面上には生物がマーカーとして表示されているらしい。


最早、技能というよりは魔法のような能力に近いが、あまり気にせずにレイナは通路を覗き見てゴーレムの様子を確認した。



(大きな……最初に会った奴が3体か)



ゴーレムは通路を封鎖するように陣取り、足元の土砂を手掴みで握り締めると、自分の身体に塗り込む。どうやら土砂を浴びて外殻を練り固めているらしい。


ゴブリンやオーク等と比べても特異な生物であり、戦闘になるとしたら面倒な相手でもある。様子を伺いながらもリルは自分の剣に視線を向け、流石に3体と戦うとなると彼女の得意とする「氷結剣」を使用しても仕留めるのには時間が掛かると思われた。



「数は3体か……私の氷装剣で仕留めるには少々きついな」

「水があればいいのに……」

「吸水石の残量も心もとない……しかし、この通路を通らないと階段へは辿り着けません」

「なるほど……」



レイナはゴーレムの位置を確認し、通路の幅と長さを地図製作の画面で把握すると、早くも手榴弾の出番だと判断し、カバンの中に手を伸ばす。



「すいません、ちょっと下がってもらえますか。どうにか出来るかもしれません」

「どうにかって……何か考えがあるのかい?」

「はい、これを使って吹き飛ばします」

「何だそれは……さっきの奴か?」



手榴弾を取り出したレイナに3人は訝し気な表情を浮かべ、手榴弾を知らない彼女達からすれば緑色の小さな金属の物体にしか見えないだろう。


だが、レイナは3人を安全だと判断した距離まで引き離すと、ゴーレムの元に視線を向けて頃合いを見計らい、手榴弾の投擲を行う。



「喰らえっ!!」

『ゴオッ!?』



人間の声を耳にしたゴーレムは視線を向けた時には既にレイナの投げ放った手榴弾は彼等の足元に転がり込み、それを確認したゴーレムの1体が反射的に踏みつけようとした。しかし、巨体が手榴弾を踏みつぶす前にレイナは通路を離れると地面に伏せる。


次の瞬間、迷宮内に轟音と激しい振動が広がり、ゴーレムたちが存在する通路が爆炎と爆風によって飲み込まれる。


あまりの威力に3体のゴーレムの肉体は砕け散り、硬い外殻に覆われていた「核」さえも破壊される。爆発からしばらく経過した後、レイナは耳元を抑えながらも地図製作の画面を確認した。



(反応は……消えている。倒したみたいだな)



先ほどまで画面上に表示されていた3体のゴーレムが消失した事を確認し、さらに念のためにレイナはレベルを確認するとレベルが「18」に上昇している事に気付く。


一気に3体のゴーレムを倒した事で大量の経験値が手に入ったらしく、確実に倒したと確信するとレイナはリル達に振り返る。



「皆さん、大丈夫です……か!?」

「ううっ……」

「み、耳がっ……」

「…………」



獣人であるリル達には轟音が応えたのか、彼女達は隠していた獣耳を露出させて地面に倒れ込んでいた。ネコミンに至っては指先で「レイナ」という文字を地面に残した状態で動かず、まるで死体現場に立ち会ったような気分にレイナは陥りながらも3人の介抱を行う。



「す、すいません!!ちゃんと武器の説明をしておけばこんな事には……」

「い、いや……大丈夫だ、鼓膜が破れるかと思ったが……」

「ご、ゴーレムは……どうなった?」

「ネコミン、死す……犯人はレイナ」

「あの、本当にすいません……それと、ゴーレムは倒しました」



恨めし気に見つめてくる3人にレイナはひたすら謝罪を行う一方、ゴーレムを無事に倒した事を報告した。

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