第59話 第四階層の安全地帯

「SPは……結構余ってるな。そうか、普通にレベルも上がったからSPも貯まってたんだ」



ステータス画面を開いてSPの残量を確認すると、新しい能力を覚えられることを知り、レイナは自分が次にどのような技能を覚えるべきかを悩む。


理想としては魔術師が扱う「魔法」や、リル達が使用する「戦技」という技を覚えたい所だが、何故かレイナが覚えられる技能の中にそれらしい物は見当たらない。



(身体能力や魔法の力を強化する技能はあるけど、漫画やゲームでよくある必殺技みたいなのは特に見当たらないな……そういえば魔法の方は適性がないから覚えられないという警告文が表示されてたっけ?)



最初に召喚されたばかりの頃、レイナは魔法書というのを渡された。他の3人のクラスメイトは魔法初を読み解くことで簡単に魔法を覚えたが、何故かレイナの場合は魔法初を読み解くことが出来ず、しかも視界に職業の制限で魔法が覚えられない旨が記された警告文も表示された。


この事から考えるにもしかしたらレイナの「解析の勇者」は魔法を覚えられない職業に当たる可能性もあり、異世界へ訪れたというのに魔法が扱えないかもしれない事にレイナはため息を吐き出す。だが、魔法に頼れないのならばいつまでも固執しても仕方がなく、考えを切り替えてレイナは覚えられる技能の中からこの状況で最も役立つ能力を調べる。



(リルさん達の扱う戦技というのも覚えたいけど、魔法と同じように覚えられない可能性もある。せめて技能を覚えてステータスを強化しておかないと……お、これは使えるかもしれない)



『命中――投擲、弓矢、銃などの武器の使用時の命中力の向上』

『連射――弓矢、銃などの武器の連射速度の向上』

『自然回復――肉体の治癒力を強化させ、回復力を高める』

『魔力感知――魔力を持つ生物の位置を特定する』



現時点で確認する限りでは役立ちそうな能力はこの4つだと判断したレイナは即座に習得を行うと、ステータス画面の技能の項目に追加される。しかし、技能が合計で20を迎えた瞬間に視界に画面が表示された。



『技能の習得限界を迎えました。現段階のレベルではこれ以上の習得は行えません。習得限界数が解除されるレベルは「20」です』

「あっ……くそっ、またこれか」



これ以上に技能は習得ができないという画面が表示され、レイナはため息を吐きながらもステータス画面を閉じる。どうやら技能は無制限に覚えられる物ではなく、一定数を超えるとレベルを上昇しなければ覚えられない事が改めて発覚した。


だが、今回の場合は必要最低限の能力強化を行なえたのでレナは落ち込まず、カバンの中に手を伸ばす。



「いざという時はこれだけが頼りだな……」



マグナムを取り出したレナはシリンダーを確認して弾丸が5発残っている事に気付き、ガーゴイルでさえも1発で戦闘不能に追い込んだ威力を誇る銃器が傍にあるのは心強く、何時でも取り出せるようにカバンに戻す。地図製作の技能を発動させて現在の位置を確認し、地図を頼りに移動を再開した――






――地図で自分の居場所とこれまでの道筋が表示されるお陰でレイナは道に迷う事もなく進み、画面に表示されるマーカーを確認して魔物の位置を把握し、安全に進む。


気配感知の技能のお陰で半径30メートル以内に存在する生物はマーカーとして画面に表示され、更に新しく覚えた「魔力感知」の能力も大いに役立つ。


気配感知の場合は生物の気配を感じとるのに対し、今回新しくレイナが覚えた「魔力感知」は魔力を所有する生物の位置を把握できるらしく、ゴーレムやガーゴイルのような体内に「魔石」を宿す生物の位置が捉えらえっるようになった。しかも範囲は気配感知よりも広く、半径100メートルのゴーレムの位置を把握できるようになった。


地図製作のお陰でレイナは極力戦闘を避けて進めるようになり、最初の頃と比べて移動の負担が一気に楽になり、確かにリルの言う通りに地図製作の持ち主がいるかいないかだけで大迷宮の探索は楽になる。しかし、喜んでばかりもいられず、未だにレイナは誰とも遭遇していない。



(ここへ入ってからどれくらい経過した?5時間、6時間?ずっと歩き続けて頭も足も痛い……)



出入口の階段に近付いているのは間違いないが、迷宮の構造が複雑過ぎるので移動するだけでも時間が掛かり、徐々にレイナの体力と精神力が削られていく。そもそも出発した時間帯が深夜だった事もあり、レイナは眠気に襲われて欠伸を行う。



(駄目だ、眠くなってきた……くそ、こんな所で倒れたら死ぬぞ)



頬を叩いてレイナは眠気を吹き飛ばし、どうにか階段へ向かう。しかし、その途中でレイナは大きな広間へ辿り着き、周囲に魔物の反応がない事、そして広間の地面が砂地ではなく、紋様が刻まれた床に変化している事に気付く。



「ここって……もしかして、安全地帯なのか?」



レイナは地図製作の画面を開き、ゴーレムの反応が明らかに広間を避けている事に気付き、遂に第四階層の安全地帯を発見する事に成功する。


しかも階段から位置はそれほど離れてはおらず、歩いて50メートルもしない場所に安全地帯が存在した事を知る。



(こんな入口の近くに安全地帯があったなんて……でも、ここなら安心して休める)



地図を確認する限りでは階段には生物の反応はなく、まだリル達も合流地点に到着していないようなのでレイナは安全地帯に入り込むと広場の壁に背中を預けて座り込む。


やっと身体を休められると安心した瞬間、一気に身体の力が抜けてしまう。気が張り詰めていた状態で安全な場所に辿り着いた事で緊張の糸が切れてしまい、眠気に耐え切れずにレイナは身体が横に倒れてしまい、瞼を閉じてしまう。



(もう、駄目だ……)



遂に意識が飛んでしまい、レイナは安全地帯で寝入ってしまう。その直後、広場の入口にて複数の人影が出現し、眠っているレイナの元へ近づく。だが、完全に意識を失ってしまったレイナはそれに気付くことはできなかった――

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