第60話 拘束

「――おい、何時まで眠っている。早く起きろっ!!」

「うっ……?」



身体を揺さぶられ、耳元で話しかけられたレイナは目を覚ますと、そこには見知った顔が映し出された。



「チイ、さん?」

「やっと起きたか……どうやら気絶していただけのようだな。命に別状はなさそうで何よりだ」

「良かった」

「あれ、ネコミンさんも……うわっ!?」



チイの他にネコミンの声も聞こえたレイナは起き上がろうとしたが、どういう事か両手と両足に違和感を覚え、起き上がれずに倒れてしまう。


そして今更ながらに自分だけではなく、チイとネコミンも横たわっている事に気付く。二人が生きていた事にレイナは喜ぶが、身体が自由に動けない事を不思議に思う。



「あれ、なんで……」

「落ち着け、声を潜めろ……奴に気付かれるぞ」

「奴……?」

「静かに話して……私達は今、捕まっている」

「捕まって……!?」



レイナは自分の両足に視線を向けると、何時の間にか縄で拘束されている事に気付く。両手の方も背中に回っているので確認することは出来ないが、両手が縛られている感覚はあった。


しかも身に着けていたカバンと武器もなくなっており、それどころか現在の自分が上着に下着だけの状態である事を知る。



「な、なんでこんな事に……あ、チイさんって猫さんパンツだったんですね。犬型の獣人なのに……」

「れ、冷静に何を分析している!!というか、お前はそういえば元男だったな、見るんじゃない!!このケダモノ!!」

「チイ、静かにする。ちなみに私はトラさんパンツを履いている」

「いや、ネコミンさんこそなんでそんな事を言うんですか……ちなみに俺は猫さんパンツ派です」

「むう、虎も猫の仲間なのに……」

「何の話をしてるんだお前達は……」



今更ながらにレイナは下着姿でチイとネコミンに挟まれて横一列に寝転がっている事に気付き、床の紋様を確認して自分がまだ安全地帯に存在する事に気付いた。しかし、どうしてこのような状況に至ったのか分からず、何が起きたのかを二人に質問する前に状況を把握する。


まず自分達が存在するのは広間の壁際であり、顔を動かしてどうにか周囲を確認すると、反対側の壁の方に人の姿を確認した。人数は3人でその内の一人はレイナ達が探し求めていた人物だった。



「アリシアさん……!?」

「馬鹿、静かにしろっ……」

「気付かれる……眠っているふりをして」



二人に注意されて慌ててレイナは声を抑えると、向かい側の様子を確認する。よくよく観察するとアリシアは気絶しているのか瞼を閉じた状態で壁を背にして動かず、身に着けている鎧は破損し、口元から血を流していた。


そして彼女の隣にはレイナ達と同じく、両手と両足を縄で拘束されたリルの姿が存在し、彼女は意識を保っているのか自分の向かい側に立つ「イヤン」を睨みつけていた。



「ひひっ……まさか、こんな所でケモノ国の王女様と出会えるとはな」

「下衆が……ぐふっ!?」

「自分の立場を分かっていないようだな、お前は捕虜だ!!俺の言う事に従えっ!!」



リルに対してイヤンは容赦なく腹部を蹴りつけ、彼女を無理やり黙らせる。その行為にレイナは咄嗟に声を上げそうになったが、それを我慢して二人に状況を尋ねた。



「いったい、何が起きてるんですか?」

「見ての通り、私達は捕まったようだ……あのイヤンという男にな」

「あの男が暴狼団を殺した張本人、私達も命を狙われた。お前と別れた後、私達は――」





――レイナとはぐれた後、銀狼隊の面子はチイの地図製作の技能を頼りに階段の場所まで引き返そうとしたという。だが、迷宮の構造が変化した事で今まで通れた通路も通えなくなり、レイナと同様にしばらくの間は迷宮内彷徨っていたという。


ネコミンの嗅覚のお陰でゴーレムが存在する通路を迂回し、時間は掛かったがどうにか3人はこの安全地帯が存在する場所に辿り着いたという。そこで意識を失っているレイナを発見し、生きている事を確認すると彼女を抱えて脱出を計った。


しかし、その途中で思いもがけぬ出来事が発生した。逃げ出そうとした矢先に通路からボロボロのアリシアが姿を現し、彼女は自力で魔物達の追撃を潜り抜けて来たのかこの広間まで辿り着いたという。すぐに銀狼隊は彼女を保護しようとしたが、アリシアは広間に辿り着くのと同時に意識を失ってしまった。


レイナと合流し、アリシアを見つけ出した銀狼隊は広間にて回復薬を使用して二人が意識が戻るのを待った後、地上へ引き返そうとした。しかし、治療を終えた後にネコミンが妙な臭いを嗅ぎつけ、通路から近づいてくる足音を耳にする。


安全地帯に魔物は近づけないので相手は自分達と同様に入った冒険者だとは分かったが、その正体を見破る前に広間に小袋が投げ込まれ、突如袋の中から白煙が噴き出して通路を包み込む。




白煙の正体はどうやら魔物の捕獲用の眠り薬の一種だったらしく、煙を吸い込んだリル達は睡魔に襲われて全員が意識を失う。そして目を覚ましたときには彼女達は全員が下着姿で拘束され、それを見降ろすイヤンの姿が存在した。



『は、ははっ……お前等、獣人だったのか。しかも、その顔に見覚えがあるぞ……そうだ、ケモノ国の第一王女じゃないか!!』



気でも触れたかの様にイヤンは弓矢を片手にリル達に怒鳴りつけ、彼女達が髪の毛や服の中にに隠していた獣耳と尻尾を見て獣人だと気付き、しかもリルが特殊な化粧で誤魔化していた肌の色まで見破られ、正体を知られてしまう。



『イヤン、これは何の真似だ!?マイはどうした!!』

『うるせえっ!!マイは、マイはもう死んだんだよ……くそっ!!』



イヤンと同行していたマイは既にゴーレムに殺されていたらしく、その事が原因なのかイヤンの精神状態は普通ではなく、弓矢を握り締めながらリル達に怒鳴りつける。



『何でだ、何でマイが死ななきゃならなかったんだ……どうしてお前等が生きてる?なんでお前等じゃなくて、マイが死なないといけないんだ!!』

『落ち着け!!気でも触れたか!!』

『駄目ですリル様、こいつはもう壊れています……』



マイを失った事で精神が錯乱したイヤンはリル達の言葉を耳に課さず、本来は魔物を仕留めるために用意した薬品を利用し、他の冒険者を殺しまわっていた事を暴露した。



『あの口うるさいガロも始末した、ゴイルも取り巻きの女ども必ず見つけ出して殺してやる……全員を始末した後、俺は手柄を独り占めして大金を手に入れて冒険者を辞めるんだ……マイの代わりの女だってすぐに見つかる、そうすれば俺は……俺は……!!』

『……イカれてる』

『うるさい!!お前等は……お前等はこのまま帝国に突き出してやる!!一国の王女が許可もなくこんな場所に潜っているなんて国際問題だからな……きっと相当な賠償金を要求されるぜ。いや、もしかしたら人質として隔離されるかもな……そうなればケモノ国もお終いだな』

『……クズがっ、そこまで堕ちたか』

『なんとでもいえ……俺は、俺は生き残るんだ……!!』



こうして銀狼隊とアリシアはイヤンによって捕まり、現在の状況に至った――

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