第56話 マグナム(リボルバー式)

――これまでレイナは文字変換を使用して様々な物を作り上げてきたが、曖昧な意味合いの文字の場合はレイナの想像した道具が作り出される事は既に判明していた。


例えばレイナが帝城から脱出した際、まずは宿屋に宿泊するためにこちらの世界の金銭を手に入れるため、持ち出してきた牢屋の「鍵」を「金」という文字に変換させた。その結果、この世界の通貨である「金貨」が1枚だけ出現した。この時、どうして出現したのが金貨1枚しか出せなかった事にレイナは疑問を抱く。


色々と考えた結果、レイナは「金」という文字を打ち込むときに「当面の生活費」を得たいという考えを抱いていた事を思い出し、その考えが反映したかのようにこの世界で数日分は暮らせるだけの金額の通貨が出来きたのではないかと考える。


実際に水堀を抜け出す際にレイナは「橋」を作り出したときは水堀の規模に合わせた橋が出来上がった件もあり、文字だけでは具体的にどのような物なのか分かりにくい代物を作り出す場合のみ、レイナの「想像」した物が出現すると可能性が非常に高い。


実際にアスカロンやフラガラッハなど現実に存在した武器を作り出す場合はレイナの意思は反映されず、実際に存在する武器の複製品が生み出された。しかし、「金」や「橋」や「財宝」という曖昧な文字の場合はレイナの想像通りの代物が作り出されるのは間違いなく、今回のレイナが作り出そうとした物は「銃」だった。




(本物の銃なんて見た事はないけど、とにかくこいつを倒せる銃が欲しい!!)




ガーゴイルを倒すことを強く念じながらレイナは足元に転がっていた石を拾い上げ、解析と文字変換の能力を発動させて詳細画面の改竄を行う。


その結果、レイナの手元に置かれた「石」が光り輝き、やがてレイナが地球に居た頃によく遊んでいたアクションやFPSなどゲームで多用していた銃器が誕生する。



「喰らえっ!!」

「ッ――!?」



レイナは手元に出現した「マグナム」を構え、自分に襲いかかろうとするガーゴイルを引きつけ、引き金に指を構える。リボルバー式の銀色に光り輝くマグナムの銃口から弾丸が射出され、発砲音が響くのと同時にガーゴイルの頭部に目掛けて弾丸が発射された。その結果、弾丸は眉間に的中して頭部を貫いた。


予想通りというべきか銃器にもレイナの「剛力(攻撃力×4倍)」とフラガラッハの「攻撃力3倍増」の効果が発揮されたらしく、発射されたマグナムの弾丸はガーゴイルの頭部を貫通し、天井にまで届く。



「アガァッ……!?」

「くっ……当たった」



初めて銃を撃ったレイナは銃撃の反動を受けて手元が軽く痺れるが、レベルを上げておいたお陰で地球で暮らしていた頃よりも身体能力は上昇しているのか、予想よりも衝撃は小さかった。


一方で頭部を貫通されたガーゴイルはまだ生きているのか身体をふらつかせるが、意識を失いかけており、それを確認したレイナはマグナムを地面に落とすとアスカロンを拾い上げ、止めを刺すために剣を振り翳す。



「だああっ!!」

「ッ――!?」



ガーゴイルの肉体に刃が衝突した瞬間、今度は弾かれる事はなく刃はガーゴイルの肉体を真っ二つに切り裂く。その際にどうやらガーゴイルの肉体に存在した「核」も切断したらしく、ガーゴイルの瞳の輝きを失い、地面へ倒れ込む。


倒れた瞬間にガーゴイルの全身に亀裂が走り、やがて全身が粉々に砕け散った。その様子を確認したリル達は唖然とした表情を浮かべるが、レイナは倒したのかを確認する。



「……し、死んだんですか?」

「あ、ああ……どうやらそのようだな。それより、大丈夫かレイナ君?」

「な、何なんだ今のは?」

「……耳が痛い」



リル達の方も特に大きな怪我はなく、むしろ拳銃の発砲の際に生じた音で耳を傷めたらしい。彼女達は反射的に髪の毛から出現させた獣耳を抑えながらもレイナの元へ近づき、砕け散ったガーゴイルを確認して本当に死んでいる事を確かめる。


リルは驚いた表情を浮かべる一方、地面に落ちているマグナムに気付いて恐る恐る拾い上げる。彼女は慎重に拳銃を調べ、何かを思い出すように呟く。



「これは……もしかして、銃という奴か?」

「えっ!?知ってるんですか?」

「ああ、過去に召喚された勇者の中には「銃の勇者」と呼ばれる存在がいた。伝承では弓矢や魔法を遥かに凌ぐ威力を誇る「銃」と呼ばれる武器を扱っていたそうだが、この武器も銃の一種なのか?」



過去に召喚された勇者の中には銃器を取り扱う地球人もいたらしく、こちらの世界でも銃の知識だけは伝承として残っていた。


しかし、実物はリル達も始めてみるらしく、彼女達は獣耳を撫でながら恐れた様子でレイナが作り出したマグナムを覗き込む。



「伝承によればどんなに優れた弓よりも遠方から正確に標的を狙い撃ち、弾丸と呼ばれる特別な金属の矢を撃ち込む武器だと聞いているが、それにしても凄い音だったな」

「……鼓膜が破れるかと思った」

「威力はすさまじいが、使用する度にあんな音を聞かされては私達の耳が持たないですね」

「あ、そうか。獣人は人間より聴覚が鋭いんだっけ……なんか、すいません」

「いや、謝ることはないさ。これがなければ私達はガーゴイルに殺されていたかもしれないからね。だが、次から使う時は一応は事前に知らせてくれると助かるんだが……」



リルは苦笑いを浮かべながらレイナにマグナムを渡し、倒れているガーゴイルの方に視線を向ける。一方でマグナムを受け取ったレイナは、今はホルスターのような拳銃を収める道具がないため、とりあえずカバンの中に放り込む。


弾丸を制作すればまた使えるかもしれないが、これ以上に文字変換の能力を使うとアリシアを発見した時に彼女の治療が行えなくなるので弾丸の製作は後回しにした。



(やっぱり、手榴弾の時と同じように地球の武器でも今の俺が使うと威力が何倍にも強化されるみたいだな。だけど、発砲音が大きいから獣人のリルさん達には迷惑を掛けるな。こんな事なら消音機能サプレッサーを搭載した拳銃でも作っておけば良かったかな……)



今後、もしも銃器を使う場面が訪れたらリル達の事を考慮して発砲音に気を付ける必要があり、アリシアを救い出してここから無事に逃げ延びる事が出来たらレイナは消音機能でも搭載されている銃器でも作るか本気で悩む。


レイナが考え込んでいる一方、リルの方はガーゴイルの破片の中から茶色の宝石のような石を拾い上げ、皆に見せつける。



「これを見てくれ、地属性の魔石だ。しかも純度が高そうだ」

「純度?」

「魔石の色合いでどれだけの魔力が込められているのかが分かるんだ。この色が濃い程に純度の高さを現してるんだ。これは高く売れそうだな……だが、今はアリシアを探す事に集中しないとね」



リルは回収した魔石をレイナに渡して彼女のカバンに預けると、ネコミンに視線を向けて彼女の鼻を頼りに捜索を行う事にした。

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