第55話 亜種〈ガーゴイル〉
「くそ、よくもっ!!」
「チイ、駄目っ……下手に仕掛けるのはまずい」
「二人は下がっていろ、私がやる」
レイナに致命傷を与えた異形のゴーレムに対してチイは両手の短剣を構えるが、それをネコミンが引き留める。
リルが前に出ると怒りを滲ませた表情を浮かべて「氷装剣」を発動させる。刀身を氷の刃へと変化させ、レイナの前に佇むゴーレムに切りかかる。
「はああっ!!」
「シャウッ!?」
切りかかって来たリルに対してゴーレムは跳躍を行い、その場を離れた。退避したゴーレムは警戒心を露わにしてリルから距離を取り、その様子を見てリルはゴーレムが自分の「氷装剣」の存在を恐れていると知る。
どうやら知能に関しても通常のゴーレムより高く、氷装剣に触れれば他のゴーレムと同様に自分の身が危険に晒されると判断したのだろう。だが、ゴーレムが退いたお陰でレイナから引き剥がす事には成功し、リルは様子を伺う。
「レイナ君、無事か?」
「……平気です、治しました」
自分のステータス画面を開き、状態の項目を「健康」という文字に変換させたレイナの身体が光り輝くと、完全に傷跡が消え去ってしまう。更にここまでの道中での疲労も消失し、どうにか立て直す事に成功したレイナはアスカロンとフラガラッハを握り締めてリルの隣に立つ。
リル達は深手を負っていたはずのレイナが何事もなかったように立ち上がったことを思い出すが、黒猫亭にてリルが火傷を治して貰った時の事を思い出し、レイナが自分の能力で怪我を治したのだと悟る。
一方でゴーレムの方も深手を負わせたはずのレイナが立ち上がった事に訝し気な表情を浮かべ、警戒するように距離を保つ。
「お、おい、本当に大丈夫なのか?」
「レイナ、無茶は駄目」
「平気です。それよりこいつ、凄く硬い……動きもコボルトより早い」
「ああ、恐らくだがこいつは普通のゴーレムではない。恐らく、こいつはゴーレムの「亜種」だ」
「亜種?」
魔物の中には「上位種」と呼ばれる個体が存在する事は知っているが、リルの語る「亜種」という言葉を初めて聞いたレイナは疑問を抱くと、彼女は簡単に説明を行う。
「亜種というのは上位種よりも希少で厄介な特徴を持つ魔物の事だ。突然変異で生まれた個体と考えればいい、通常種や上位種とは違った独自の進化を果たした魔物ともいわれている。こいつは恐らくゴーレムの亜種と言われている「ガーゴイル」だ」
「ガーゴイル……石像の化物でしたっけ?」
「シャアッ……!!」
地球でもそれなりに知名度が存在する名前が出て来た事にレイナは驚き、確かに先ほどゴーレムと比べて目の前の化物は鳴き声も体格も動作も異なっていた。
しかも通常のゴーレムは人間を捕食しないのに対し、こちらのガーゴイルはレイナを傷つけた際に付着した血液を舐めとる辺り、もしかしたら他の生物を捕食する特徴を持つ可能性もあった。
敵がガーゴイルと判明した事でリル達はゴーレムと戦ったときよりも警戒心を強め、レイナに至っては無意識に身体を震えてしまう。もしも先ほどの攻防でガーゴイルが腹部ではなく、心臓や頭部を握りつぶしていたらレイナの命はなかっただろう。しかも動きも素早い上に腕力も強く、いくら聖剣を所持しているからといって無策に突っ込んでは返り討ちに遭う。
(今日の内に使える文字変換の文字数は3文字……アリシアさんが怪我をしていた場合、最低でも2文字は残しておかないといけない)
仮にアリシアがまだ生きていた場合、彼女が重傷を負っていた場合も考えてレイナはこれ以上に文字変換の能力の使用は避けたかった。しかし、目の前に存在するガーゴイルを見てレイナは文字変換の能力を使うべきか悩む。
(文字数は2文字残っていればどうにかなるんだ……となると、1文字でこいつを倒せる武器か道具を作り出せば……けど、どうすればいいんだ?)
レイナの脳裏に廃墟街で使用した「手榴弾」の事を思い出し、ホブゴブリンの群れと建物を1つを爆破させた事を思い出す。
どうやらこの世界では使用する武器にも技能や武器に搭載されている能力の影響を受けるらしく、今現在のレイナは「剛力(攻撃力×4倍)」と「攻撃力3倍増」の効果のお陰でありとあらゆる武器が強化される。
(使える文字は1文字、それでこいつを倒せる武器となると……)
色々と考えた結果、レイナは決心してリル達に時間を稼ぐように頼む。彼女達もガーゴイルを相手にどのように動けばいいのか分からず、レイナの指示に従う。
「すいません、少しで良いのでこいつを近づけさせないように出来ますか?」
「何か考えがあるのか?分かった、何とかしよう」
「ここまで来た以上、お前の事を信じるぞ」
「頑張って……時間は稼ぐ」
「シャアアッ!!」
レイナを守るように3人は移動すると、不審な気配を感じ取ったのかガーゴイルが奇声を上げて襲いかかる。それに対してリル達も同時に動き、別々に分かれて三方向からガーゴイルを取り囲む。
「ネコミン!!私達が時間を稼ぐ、その間に魔法の準備を整えろ!!」
「分かった、合図を出すから気を付けて」
「よし、こっちだ化物め!!」
「シャウッ!?」
リルとチイが切りかかり、その間にネコミンは杖を構えると彼女は意識を集中させ、髪の毛に隠していた猫耳を出現させる。
ネコミンは「魔術師」であり、しかもゴーレムが苦手とする水属性の魔法も扱えた。彼女は杖に取りつけられた青色の宝石を想像させる「水属性の魔石」を光り輝かせ、魔法の準備を行う。
「……二人とも、離れて!!」
「よし!!」
「やれ!!」
ネコミンが声を掛けると二人は彼女の魔法の射線上から移動を行う。それを確認したガーゴイルは振り返ると、自分に向けて青色の魔法陣を出現させたネコミンの姿を確認し、彼女は魔法陣の中から消防車のホースの如く放水を行う。
「ウォーター!!」
「シャアアッ!?」
放出された魔法の水に対してガーゴイルは空中に飛んで回避を行い、ネコミンの放った水は通路の壁に衝突して水飛沫が周囲に拡散する。
直撃は避けたガーゴイルだが、飛び散った水分までは避けきれず、身体の各所に付着する。すると水で濡れた箇所が変色し、まるで泥のように変化して身体からこぼれ落ちる。
「シャアアッ……!?」
「効いた!!やはり、こいつもゴーレムと同じように水が弱点のようです!!」
「亜種とはいえ、ゴーレムと弱点は同じという事か……畳み掛けるぞ!!」
明かに動きが鈍くなったガーゴイルに対してリル達はレイナが何かを仕掛ける前に攻撃を行い、地上に降りた瞬間を狙う。リルは氷装剣で今度こそ止めを刺そうとしたが、ガーゴイルは砂地の地面に倒れ込むと先ほどのゴーレムと同様に砂を吸収し、崩れた箇所の再生を行う。
再生能力も強化されているのかガーゴイルは瞬時に肉体から剥がれ落ちた箇所を再生させると、目元を光らせて近付いてきた3人を振り払い、天井へ向けて跳躍した。
「シャアアッ!!」
「ぐぅっ!?」
「うわっ!?」
「にゃうっ!?」
突き飛ばされた3人は地面に尻もちをつき、その隙に天井に張り付いたガーゴイルは先ほどから動く様子がないレイナに視線を向け、真っ先に飛び掛かった。
先ほどの戦闘で彼女が最も弱いと判断したガーゴイルは空中からレイナに噛みつこうとしたが、既にレイナは足元に落ちていた「石」を利用して文字変換で新しい「武器」を生み出していた。
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