第54話 ゴーレムとの攻防

「ゴォオオッ……!!」

「……強い」

「これが第四階層の魔物なのか……」

「聖剣でも切れないなんて……」



レイナ達は完全に再生を果たしたゴーレムと向き合い、無意識に後退る。これまでどんな物体を切り裂いてきたアスカロンでさえも完全には切断できない程の高度を誇るゴーレムにレイナは冷や汗が止まらず、遂に聖剣を使用しても一撃では倒せない敵と相対した。


しかし、ここで退くわけにはいかずにレイナは胴体が無理でも腕や足ならば切り落とす事が出来るのではないかと考え、踏み込もうとした時、先にリルが前に出ると全員に離れているように指示する。



「ここは僕に任せろ」

「リル様!?まさか、魔法剣を?」

「ああ、流石に使わないとこの敵には出し惜しみは出来なさそうだ」

「魔法剣?」



リルは自分の長剣に手を伸ばすと、意識を集中させるように刃の部分に右手を翳し、やがて掌から青色の光を放つ。


すると刀身がみるみると凍り付き、やがて全体に氷の塊で形成された一回り程大きな刃が出来上がった。刀身に纏わせた「氷の刃」を構えると、彼女は目つきを鋭くさせてゴーレムと向き合う。



「氷装剣」

「ゴオオッ!!」



嫌な予感を覚えたのか、氷の刃を生み出したリルに対してゴーレムは右腕で殴りつけようとしてきた。だが、それを予測していたかの如く、リルは剣を構えると正面から突き刺す。



「凍り付け!!」

「ゴアッ!?」



氷の刃を纏った長剣がゴーレムの繰り出した右腕に突き刺さった瞬間、貫かれた箇所から冷気が迸り、徐々に体内からゴーレムの肉体を氷結化させていく。


危険を悟ったゴーレムはどうにか右腕を引き抜こうとしたが、貫かれた刃は引き抜かれる様子はなく、やがて全身が凍り付いく。



「ゴアアッ……!?」

「凍結完了……これで動く事は出来ない」

「す、凄い……」

「流石はリル様!!」

「略してさすリル」



リルが長剣を引き抜くと、そこには氷像と化して完全に動けなくなったゴーレムが残り、全身が凍り付いた状態なので動く事は無い。剣を引き抜いたリルはゴーレムに対して近付くと、胴体部分に目掛けて刃を振り下ろす。



「はあっ!!」



彼女の振り下ろした剣の一撃によって氷像は全体に亀裂が走り、やがて粉々になって砕け散る。先ほどまではレイナの聖剣でさえも完全な破壊は出来なかったゴーレムの肉体があっさりと崩壊し、地面へ崩れ落ちた。


その様子を確認したリルは残骸の中からゴーレムの弱点であると同時に力の源である「核」を拾い上げる。


ゴーレムは特殊な魔石や鉱石を体内に宿し、こちらのゴーレムの体内には土気色の球体型の水晶が入っていた。それを確認すると彼女は水晶をハンカチで包み込み、カバンを持っているレイナに差しだす。



「悪いがそのカバンの中に預かってもらえるか?」

「あ、はい……これがゴーレムの「核」という奴ですか?」

「ああ、どうやら地属性の魔石を宿していたらしい」

「地属性?」

「七大属性の一つで重力を司る属性だ。ちなみに他の属性は風、火、水、雷、聖、闇の属性が存在する。その辺の知識もちゃんと勉強しないといけないね」

「あ、はい……ありがとうございます」



リルの説明を受けてレイナはこの世界の魔法には「7つの属性」が存在する事を初めて知った。レイナは魔法が使えなかったので最初に召喚された時は魔法に関する知識は一切教えられていなかった。


最初にこの世界に召喚されたばかりの頃に魔法を発動させる光景を目にしたが、魔術師達が所持していた杖に取りつけられていた水晶のような物が「魔石」と呼ばれる物だとレイナは改めて知った。



「ふうっ……魔法剣は疲れるな、それにこの剣だと上手く扱えない。こんな事なら愛刀を持ってくるべきだったな」

「あの、さっきの凄かったですね。あれも魔法なんですか?」

「正確には魔法剣だ。魔法の力を物体に宿す「付与魔法」と呼ばれる魔法の一種で魔術師が扱う「砲撃魔法」とは異なるんだ」

「リル様の魔法剣は切りつけた箇所を氷結化させるんだ。しかもリル様は生み出した氷の硬度を自由に変化させることが出来る。だからゴーレムであろうと氷結化させれば簡単に破壊することも出来る!!」

「な、なるほど……」



まるで自慢するようにリルの魔法剣の事を説明するチイにレイナは戸惑いながらも納得し、リルが一撃でゴーレムを破壊した理由を悟る。どうやら彼女は氷結化させた物体の硬度を変化させる能力を持つらしく、もしも廃墟街で遭遇した時に魔法剣を使われていたらレイナも危なかったかもしれない。


それはともかく、どうにかゴーレムの破壊に成功したレイナ達は消えてしまった兵士を探すために行動を開始する。兵士が逃げた方向は地上へ続く階段が存在するため、先に逃げ出してしまった可能性は高いが、一応は確認を行う。



「さっきの人、大丈夫ですかね」

「問題はないと思うが……一応は確認しておくか」

「全く、一人で逃げ出すとは……」

「錯乱してたから仕方ない」



通路を抜けて階段の前へ戻ったレイナ達は男性の姿を探そうとしたとき、曲がり角でネコミンは鼻を鳴らし、目を見開く。彼女は先頭を歩いていたレイナに声を掛ける。



「血の臭い!!止まって!!」

「えっ……」



だが、声を掛けられた時点でレイナは既に通路を曲がりかけており、階段付近の様子を見てしまう。そしてレイナの視界に先ほどの男性と思われる無惨にも頭が潰された状態で横たわる死体を発見した。



(なんだ、これ……!?)



人間の死体を目にしたレイナは目を見開き、一体何が起きたのか理解するのに遅れてしまった。死体にはあちこちに血がこびり付いており、恐らくは抵抗を試みたのかその手には折れた刃の剣が握り締められていた。そして死体の前には人影が存在した。


やっと死体の前に誰かが立ち尽くしている事に気付いたレイナは顔を見上げると、そこには先ほど遭遇したゴーレムを一回りほど小さく、全体が細身でより人間に近い姿か形をした「石像」のような魔物が存在する事に気付く。


最初に相対したゴーレムと比べても体格が小さい反面、さらに人間に近い体躯を誇る「ゴーレム」が現れた事にレイナは気付く。



(こいつがさっき、あの人が言っていた……!?)



安全地帯の前に陣取るゴーレムを見てレイナは焦り、既に相手はレイナの存在に気付いていたのか顔を向ける。


最初のゴーレムは「人面」を想像させる皺があっただけに対し、こちらのゴーレムは本物の石像のように顔が彫られたかのようにしっかりと顔面を構成していた。だが、その顔の形は人間というよりもゴブリンやホブゴブリンに近い形をしていた。




「シャアアッ!!」

「うわっ!?」




奇怪な鳴き声を上げながら新たに出現したゴーレムはレイナの元へ駆け出し、牙と爪を構えて跳躍を行う。


その素早さは先ほどのゴーレムの比ではなく、咄嗟にレイナはアスカロンを構えるが、ゴーレムは恐れもせずに刀身にかじりつく。



「ガアッ!!」

「くぅっ……こいつ!?」

「レイナ君、下がるんだ!!」



アスカロンの刃にかじりついたゴーレムにレイナはどうにか振り払おうとしたが、単純な腕力はゴーレムの方が上回り、逆に押し返されて通路の壁際まで追い込まれる。


その光景を確認したリル達が駆けつけるが、彼女達が辿り着く前に先にゴーレムは右腕を振り下ろしてレイナの胴体に放つ。



「アガァッ!!」

「ぐはぁっ!?」

「レイナ君!?」

「そんなっ……!?」




――胴体にゴーレムの右腕が貫通し、内臓を抉られたレイナは血反吐を吐き散らし、そのまま壁に背中を預けてゆっくりと座り込む。


その様子を見てゴーレムは胴体から右手を引き抜くと、レイナの血液と臓物の一部が付着した掌を舐めとる。

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