第53話 アリシアの行方
男性から事情を聞いたリルはアリシアと騎士団が階段付近に出現した魔物に敗れたという話を聞き、正直に言えば信じられなかった。
聖剣を所持するアリシアでさえも敵わない魔物がこの第四階層に存在するのかと知ると、全員に緊張が走る。
「その魔物の特徴は?普通のゴーレムとは違うのか?」
「ち、違う……我々がこれまでに戦ったゴーレムとは明らかに姿形が違った。アリシア様は必死に我等を守ろうとしたが、次々と騎士団の仲間達は殺され、俺も逃げるのに精一杯だった……どうにかここまで辿り着いたが、戻ったらあの化物達と鉢合わせしたらと思うと怖くて動けなかったんだ」
アリシアは他の騎士達を守るために尽力したが、相手は単独ではなく複数存在したらしく、結局生き残った騎士もアリシアと分断して彼女の居場所を知らないという。
だが、話を聞いていてレイナは一つ疑問を抱き、この場所で激しい戦闘があったというのならばどうして騎士団の死体が存在しないのかを質問した。
「あの……死んだ人達はどうなったんですか?ここまで来る途中に騎士団の人の死体は見かけませんでしたけど……」
「何を言っているんだ……大迷宮で死んだんだぞ?肉体なんか1時間もしない内に飲み込まれるに決まっているだろう」
「え?」
「レイナ君、大迷宮内で死亡した生物は跡形もなく消え去ってしまうんだ。それは魔物であろうと人間であろうと関係ない、ここで死んだ生物は大迷宮に取り込まれて何時の間にか消えてしまう。大迷宮とはそんな場所なんだ」
リルの説明によると大迷宮で死亡した生物は何時の間にか消えてなくなってしまうらしく、いったいどのような原理なのかは不明だが、消えた死体の事を人々は大迷宮に取り込まれたと考えている。
冒険者の間では大迷宮に吸収された死体は再び生まれ変わり、大迷宮に出現する新しい魔物へと作り替えられているのではないかという。
死体が身に着けていた装備に関しても同様に消えてなくなるため、もしも大迷宮内で既にアリシアが死亡していた場合は探す手段がなくなってしまう。だからこそ早急に捜索隊を結成し、彼女を救うために冒険者達が派遣されたのだが、生き残った騎士の話によると彼女がまだ生きている可能性は低い。
「た、頼む……アリシア様を救ってくれ、俺の事はもういい。だが、あの人を失えばこの国は終わってしまう!!どうか、頼む……!!」
「……自分の事よりもアリシア皇女の心配をするか、良い部下を持ったな」
「安心しろ、階段はすぐそこだ。どうにか階段まで移動することが出来れば魔物に襲われる事はない。それに我々が通った時にはその魔物とやらは遭遇していない。今ならば問題なく上の階層へ戻ることが出来るだろう」
「後は任せる」
「大丈夫です、きっとアリシアさんを見つけて見せます!!」
「あ、ああっ……」
レイナ達は自分よりもアリシアの事を心配する男性を元気づけ、まずは彼を安全な場所に避難させるために階段へ引き返そうとした。だが、レイナが男性に肩を貸そうとした時、地面に軽い振動が走った。
「うわっ……何だ?」
「こ、この振動は……まずい、逃げるんだ!!ゴーレムが現れるぞ!!」
「ゴーレムだと?いったい何処から……」
「地面だ!!奴等は地面の中から姿を現すんだ!!」
「地面……地中か!?」
男性の言葉にレイナ達は地面に視線を向けると、何時の間にか砂地の地面にアリジゴクのような物が形成されており、やがて土気色の大きな腕が飛び出してレイナの足首を掴む。
「うわっ!?」
「レイナ君!!」
「くそ、ゴーレムか!?」
地中から出現した腕に足首を掴まれたレイナは咄嗟に引き剥がそうとしたが、恐ろしい力で握りしめてくるので振り払えなかった。
岩石で構成された腕に掴まれてレイナは逃げ出す事が出来ず、やがて徐々に地中の中から体長が2メートルは超える巨大な人型の物体が出現する。
「ゴォオオッ……!!」
「これが……ゴーレム!?」
「ひいいっ!?」
出現したのは人型、というよりは「力士」を想像させる体型をした全身が岩石で覆われた生物が出現し、人間の顔面に当たる箇所には人面のような皺が広がっており、目元の部分の窪みには人間の瞳を想像させる赤色の光が灯っていた。
第二階層で出くわしたオークよりも体格が大きいゴーレムに足首を掴まれたレイナはそのまま持ち上げられ、必死に抵抗を試みるが逆さまの状態では上手く力も出せず、迷宮の壁へ叩きつけられそうになった。
「ゴオオッ!!」
「うわぁっ!?」
「させるか!!」
レイナが壁に叩きつけられる前にリル達は動き、チイが真っ先に両手に短剣を構えてゴーレムの目元の部分に刃を放ち、リルはレイナの足首を掴む腕に長剣を繰り出す。
「輪牙!!」
「刺突!!」
「ゴォアッ……!?」
「いてっ!?」
顔面と右腕を切りつけられてゴーレムは怯み、その際に足首を掴む力が緩み、レイナは解放される。それを見た男性は悲鳴をあげて立ち上がり、出入口が存在する階段の方へ向かう。
「に、逃げろっ……早く逃げるんだっ!!」
「逃げたいのは山々だが……逃がしてくれる気はなさそうだ」
「いててっ……うわっ!?」
「ぼうっとするな!!剣を抜け!!」
「ゴァアアッ!!」
男性が逃げたの事に気付くと、ゴーレムは怒りの咆哮を上げてレイナ達と向き合い、彼女達だけでも逃がさないとばかりに両腕を広げる。位置的にレイナ達は出入口の階段に繋がる通路を塞がれてしまい、逃げるとしてもゴーレムを潜り抜けなければならない。
レイナはチイに引っ張られて立ち上がり、彼女に促されて慌ててアスカロンとフラガラッハを引き抜く。聖剣を抜いた事でレイナもやっと落ち着き、まずはゴーレムの様子を伺う。
(こんな硬そうな奴に剣で立ち向かえるのか……いや、考えても仕方ない。どうせ斬ることしか出来ないんだ!!)
全体が頑丈そうな岩石で構成されているゴーレムにレイナ意を決して聖剣を振り翳し、まずは切断力が誇るアスカロンをゴーレムの胴体へ向けて繰り出す。
「はああっ!!」
「ゴガァッ!?」
レイナが繰り出した剣に対してゴーレムは防御する暇もなく受けてしまい、アスカロンの刃が胴体に食い込む。
だが、肉体の半分ほど食い込んだあたりで刃が止まってしまい、ゴーレムに刃が食い込んだ状態でレイナの力では剣がこれ以上に動かす事が出来なかった。
「くっ……硬い!?」
「ゴォオオオッ!!」
「頭を下げるんだ!!」
「うわっ!?」
リルの指示を受けてレイナは咄嗟に頭を下げると、胴体にアスカロンが食い込んだ状態にも関わらずにゴーレムは右腕を突き出し、レイナの頭を吹き飛ばそうとした。
ゴーレムの繰り出した掌底は迷宮の壁に叩きつけられ、激しい衝撃が走る。もしもリルの指示を受けていなければ今頃はレイナの頭部は壁に押し潰されており、レイナは背筋が震える。
「このっ……抜けろっ!!」
「ゴオッ……!?」
ゴーレムの胴体を蹴りつけてどうにか食い込んだアスカロンを引き抜くと、レイナは冷や汗を流しながらリル達の元まで移動し、胴体に傷を受けながらも平然とするゴーレムの姿を見て身体が震える。
どうやらゴーレムには痛覚が存在しないのか、例え胴体を切りつけられようと構わずに攻撃を行おうとする姿勢にレイナは今まで一番厄介な相手だと思い知らされた。
しかも再生機能まで備わっているのか、ゴーレムは自分の胴体の傷口に地面の砂を掴み取ると、傷口の部分に擦りつける。それだけで胴体の半分近くまで切り裂かれた大きな傷跡が塞ぎ始め、やがて10秒もしない内に完全に元に戻ってしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます