第44話 古王迷宮 〈第一階層〉
「では、早速だが我々の分の回復薬と食料を受け取らせてもらうぞ!!」
「分かりました。すぐに用意してくれ」
「ですがダガン大将軍、食料はともかく回復薬の方も我々には余裕が……」
「いいから早く持ってくるんだ!!アリシア皇女様を救えるのはもう彼等しかいないんだぞ!?」
「し、失礼しました!!」
ダガンの言葉に先ほど冒険者を非難した将軍が異議を唱えるが、そんな彼に対してダガンは怒鳴りつけると慌てて兵士達に用意をさせる。
レイナ達の元にも食料と水が入った袋と回復薬の小瓶を兵士が渡そうとしたとき、レイナが受け取ろうとする前にガロが口を挟む。
「おい、そいつの分はやらなくていいぞ」
「え?」
「ど、どういう事でしょうか?」
ガロの言葉に袋を受けとろうとしたレイナは戸惑い、兵士も不思議そうな顔をすると、彼は鼻で笑いながら説明する。
「そいつは冒険者じゃねえ。ただの同行者だ。そんな奴に貴重な回復薬を渡すのか?」
「同行者?」
「ガロ、余計な口を挟むな!!捜索隊の全員分の食料と回復薬を渡す事は事前に決まっていた事だ!!」
「大丈夫だ。彼女の分は私の分を与える、後で何か言われるのも面倒だからね。悪いが要らないよ」
「は、はあ……」
ギルドマスターがガロを叱りつけるが、それをリルが庇い、兵士に下がらせるように伝える。ガロが自分の言葉にリルが賛成した事を驚くが、すぐに気を取り直したようにレイナに振り返る。
「お前、治癒魔導士なんだろ?だったら自分や仲間の怪我ぐらいは治してやれよ」
「……はい、分かりました」
「ちっ、言い返しもしねえのかよ。つまらねえ女だな」
「ガロ、いい加減にしなよ~相変わらず美人さんにはきついんだから」
「うるせえっ!!てめえの金魚鉢の中にピラニアを入れるぞ!!」
「や、止めて~」
レイナに冷たく当たるガロに他の冒険者も流石に呆れてしまい、事態は一刻も争うというのにこんな状況で痴話げんかを始める彼等に他の者はため息を吐く。
一方でリルの方はレイナに振り返り、カバンの件を他の者に知られないように注意を行う。もしも他の冒険者にレイナの鞄の秘密が知られれば余計な事態を招く事を告げる。
「ここでもしも君が荷物をカバンの中に入れるときに他の人間に異変を気付かれたら厄介な事になる。それにあの大将軍とは知り合いのようだから、移動中は私達の傍を離れないようにしてくれ」
「移動中?」
「ダガン大将軍も数人の配下を連れて同行する予定だ。彼はこの国の中でも有名な武人だからな……戦力的には金級の冒険者にも劣らない。同行するのは当然だな」
「ダガンさんも一緒に……」
「レイナ、あまりじろじろと見ると怪しまれる」
リル達の言葉にレイナはダガンに視線を向けると、彼はギルドマスターと何事か話し合い、やがて準備が整ったのか建物の入り口に集まるように指示を出す。
「では、これより我々は古王迷宮へ挑む!!まずは第一階層を30分以内に突破し、第二階層へ目指す!!第一階層の安全地帯を途中で通過するが休憩はしない!!道中の魔物は極力戦闘を避けて移動するぞ!!」
『おおっ!!』
遂に大迷宮へ挑むという事でレイナは緊張するが、そんな彼女の右手をネコミンが掴み、リルが肩に手を伸ばして落ち着かせる。
「大丈夫、私達も一緒だから怖くない」
「ネコミンの言う通りさ。困ったときは僕達を頼るといい」
「ふん……正直、私はお前の事を完全には信用していない。だが、廃墟街で見せた剣の腕は期待しているぞ」
「あ、はい……頑張ります!!」
三人の言葉にレイナは頷き、今更ながらに今回は自分一人ではない事を自覚する。これまでは魔物が生息する地域へは一人で赴いていたが、今回は頼れる仲間が存在し、それに他の優秀な冒険者達も同行している事を自覚して少しは落ち着く。
建物の出入口の扉が開かれると、そこは漆黒の空間が広がっており、最初はレナは暗闇に覆われているのかと思ったが、なにやら黒塗りの壁のような物で阻まれている事を知る。先頭に立つダガンとゴンが漆黒の壁に手を伸ばすと、まるで水の中に潜り込むかの様に二人の腕が飲み込まれた。
「か、壁の中に腕が……!?」
「転移魔法の一種だ。あの漆黒の壁を通過すると別の場所へ移動する。最初の出入口は全員の行き先は一緒だが、階層内には別の場所へ転移する壁も存在する。我々はこの壁を「転移壁」と呼んでいるんだ」
「転移壁……」
「では、これより出発する!!各自、遅れないように付いてくるように!!」
ゴオンの言葉に冒険者達は次々と転移壁の中に入り込み、やがてレイナの番になると覚悟を決めて瞼を閉じて移動する。
壁の中を移動するときは水中の中に放り込まれたような感覚に襲われたが、それも数秒ほど経過すると身体の感覚が戻り、リルの言葉を耳にして目を開く。
「通過したよ。もう目を開けても大丈夫だ」
「えっ……」
――レイナが最初に目を開いて入って来た物は巨大な煉瓦の壁であり、振り返ると煉瓦で構成された床、天井も確認する。
どうやら本当に自分が別の場所へ移動した事を確認したレイナは周囲を見渡すと、事前の情報通りに「迷宮」という言葉が相応しい複雑な構造の迷路が広がっていた。
他の冒険者達はレイナと異なって何度も行き来している場所なので特に反応する事もなく、最後に訪れたダガンとゴオンを迎え入れて指示を仰ぐ。
「よし、全員居るな!!ではこれより地図を頼りに出発するぞ!!しっかりと俺の後に付いて来い!!」
「ギルドマスター……あまり大声を出すと魔物に見つかってしまいます」
「おっと、それはすまなかったな!!」
「別に問題はないだろう。この階層を支配しているのはゴブリン種だけだ。そう警戒心を強める必要もあるまい……」
「ゴブリン種……?」
イヤンの言葉にレイナは聞き返すと、彼は面倒くさそうに大迷宮に出現する魔物の法則を話す。
「ちっ……この古王迷宮は階層ごとに出現する魔物は一種類に限られる。この階層に出現するのはゴブリンの通常種か、上位種のホブゴブリンだけだ。ここにいる全員なら100匹のゴブリンが現れようと問題にもならない」
「そうなんですか、教えてくれありがとうございます」
「……ああ」
「あれれ~イヤン、照れてるの?」
丁寧にレイナが礼を告げるとイヤンは首を逸らし、それを見ていたマイはにやにやと笑みを浮かべながらからかうが、そんな彼女にイヤンは睨みつける。
「イヤンの言う通り、この階層に生息する魔物は我々の敵ではない!!だが、いちいち戦闘に巻き込まれれば時間を無為に失ってしまう!!全員、急ぎ足で向かうぞ!!ん?この先に分かれ道などあったか……?」
「ゴオンさん、その地図は逆さまでは……」
「おっと、これはいかん!!危うく反対方向を向かう所だったな!!がっはっはっ!!」
「笑いごとじゃねえぞおい!!」
地図を逆向きに構えて危うく反対方向へ移動しようとしたゴオンに対してガロは怒鳴りつけるが、一方で銀狼隊は目立たないように最後尾に移動を行い、出来る限り先頭を歩くダガンと距離を作る。
今のレイナの姿ならばダガンに正体を気付かれる恐れは低いとはいえ、用心して彼とは出来る限り接触を避けるように気を付けた。
「それでは皆さん、僕に付いてきてください!!ここからの移動は極力音を立てないように気を付けて下さい!!」
今度こそ地図を読み間違えないようにダガンが代わりに先導を行い、捜索隊は出発を行う。事前にダガンは少し前に兵士達と共に大迷宮をへ移動していたため道順は覚えているため、地図の確認は最低限行って周囲を警戒しながら移動を行う。
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