第43話 大迷宮の出入口

武器を装備するとレイナ達は元の場所に戻ると、待ち合わせの時刻よりも少しだけ早く全員が集まったらしく、冒険者ギルドのギルドマスターのゴオンも既に待機していた。



「おお、やっと来たか銀狼隊!!待ちくたびれたぞ!!」

「いや、僕達が先に来てたんだけどね……これで全員が揃ったのかい?」

「うむ!!では、古王迷宮へ向かうぞ!!」

「歩いていくの~?面倒だな~」

「はっ!!てめえは歩くんじゃなくて浮かんで行くんだろうが!!」

「なんだと~氷漬けにするぞ~?」

「こらこら、出発前に喧嘩をするんじゃない!!全員、俺に付いて来い!!」




――大迷宮の出入口が存在するのは帝都の中央部からやや北の方角に存在し、巨大な煉瓦で構成された塔の地下に存在する。塔の周囲には一般人が立ち入れないように鉄柵が施され、中に入るには見張りをしている兵士の許可を得なければならない。


厳密的に大迷宮へ挑むことが許されているのは帝国の兵士と騎士団、それと冒険者のみで一般人の立ち入りは禁じられている。


但し、商人などは特別に許可されて敷地内へ入ることを許されており、建物の周囲にはいくつもの屋台や露天商が並んでいる。出発前に忘れ物をしたとしてもここで準備を整える事が出来るため、利用する人間は意外と多い。


だが、現在の時間帯は敷地内には屋台や露天商は立ち入りが禁止されており、帝国の兵士達が待機していた。大迷宮を取り囲む鉄柵の出入口には深刻な表情を浮かべた兵士達が待ち構え、捜索隊が到着すると彼等は打って変わって嬉々とした表情を浮かべて迎え入れてくれた。



「おおっ!!やっと来たか!!待っていたぞゴオン殿!!」

「既に中の方ではダガン大将軍が待ち構えております!!さあ、早く中へ!!」

「うむ、ご苦労!!後の事は我等に任せろ!!」



兵士達を安心させるようにゴオンを戦闘に冒険者達は中に入り込むと、その頼もしい姿を見て兵士達は安心した表情を浮かべる。


そんな彼等の反応から余程この国では冒険者という存在が信頼されているのだとレイナは思い知り、同時にダガンの名前を耳にして慌ててリルに相談を行う。



「リルさん、ちょっといいですか……」

「ん?どうかしたのかい?」

「その……将軍と会う時はどうすればいいですか?」

「ああ、そういう事か。大丈夫だ、国の将軍と言ってもそんなに緊張する必要はない。二人の後ろで隠れていればいい」

「何だ嬢ちゃん?相手が将軍だからってびびってるのか?」

「へっ、将軍だろうとなんだろうと俺達冒険者には関係ねえよ」



レイナの言いたい事を察してリルは他の人間に聞かれても問題ないように適当に誤魔化し、チイとネコミンに目配せしてレイナを隠す様に指示する。しかし、事情を知らない者達はレイナが将軍と会う事に緊張しているようにしか見えず、彼女の反応をからかう。


他の冒険者達はこれからこの国の大将軍に会うというのに全員が緊張した様子も見せず、むしろ面倒そうな表情を浮かべる人間もいた。その様子を見てレイナは少し不思議に思うが、その理由は迎えに来た兵士の対応ですぐに分かった。



「遅いぞ貴様等!!大将軍を待たせるな!!」

「うるせえくそがっ!!俺達はてめえらの手下じゃねえっ!!偉そうに抜かすんじゃねえっ!!」

「ぬぐっ……」



恐らくは将軍と思われる強面の男性が冒険者達の姿を見て怒鳴りつけるが、それに対してガロは言い返すと将軍は悔し気な表情を浮かべる。


すると怒鳴り声を聞きつけてきたのか塔の前で待機していたダガンが駆け寄り、冒険者達を怒鳴りつけた将軍を抑える。



「冒険者の皆さん、僕の部下が大変失礼な真似をしました。部下の代わりに謝罪します」

「がっはっはっ!!気にするなダガン大将軍!!ほれ、お前も謝らんかガロ!!」

「あいてっ!?くそ、この馬鹿力め……」

「ぐぬぬっ……!!」



ダガンは怒鳴りつけた将軍の代わり頭を下げ、それを見たゴオンは力尽くでガロの頭を掴んで強制的に頭を下がらせる。お互いの謝罪を終えるとゴオンとダガンは見つめあい、やがて笑顔を浮かべてお互いの右手を掴む。



「ギルドマスター!!お久しぶりですね!!」

「そうだなダガン!!お互いに別に遠くに離れて暮らしているわけでもないのにこうして顔を合わせるのは久しぶりだな!!」



どうやら二人とも知り合いだったらしく、お互いの力比べを行うかの様に筋肉を肥大化させて手を握り締める。


しかし、何時までも握り締めあうわけにもいかず、二人は手を離すと早速ゴオンの方から現在の状況を尋ねた。



「それで、状況はどうなっている?」

「……未だにアリシア皇女も同行していた騎士団も戻っていません。我々も捜索隊を結成して大迷宮へ潜り込もうとしましたが、第四階層に辿り着く前に魔物の襲撃を受けて退散しました」



既に帝国の兵士達もアリシア皇女を救い出すために大迷宮に部隊を送り込んでいたようだが、結果は最悪な形で終わってしまい、全員が第四階層に辿り着く前に負傷して戻って来たという。敷地内には包帯を巻いた兵士達が数多く横たわっており、その数は数十人は存在した。


ダガンも無傷ではなく頭に包帯を巻いており、彼は悔し気な表情を浮かべながら頭の傷を抑え、救出に向かった部隊の被害状況を報告する。



「捜索隊の人員はレベルが30を超えた人間を厳選し、僕を含めて50名が大迷宮へ挑みました。事前に冒険者ギルドから受け取った地図を頼りに第二階層まで問題なく移動する事に成功しましたが、第三階層にてオークの集団に襲われ、半数以上が負傷したので引き返す結果になりました」

「オークか……奴等は厄介だからな。しかし、お前がたかがオーク如きに怪我を負ったとは思えないが……」

「僕のこの怪我は部下を庇う時に出来た傷です。ですが、同行してくれた銀級冒険者の方々は迷宮内の安全地帯セーフエリアまで移動させる事には成功しました」

「おお、本当か!!それは助かるぞ!!」



二人の会話を聞いていたレイナは「安全地帯」という言葉に首を傾げ、いったいどういう意味なのかと隣に立っているチイに視線を向けると、彼女は意図を察して小声で説明を行う。



「安全地帯とは大迷宮内に存在する魔物が寄り付かない場所を示している。恐らく、大迷宮の製作者が事前に意図して築いた安全な場所だ。安全地帯にいる限り、魔物に襲われる事は無い場所だ」

「そんな場所があるんですか?」

「基本的には各階層に1つだけ安全地帯が存在する。しかし、場所に関しては階層ごとに位置が異なる。だいたい、階層の入口から出口までの半分程度の位置に存在するらしい」

「へえ……」

「だが、安全地帯と言っても必ずしも安全な場所とは言いきれないがな……」

「えっ?それって……」

「では、我々も捜索に参加させてもらうぞ!!」



チイの意味深な言葉にレイナは尋ね帰す前にゴオンの大声が響き渡り、彼は冒険者達に振り返ると第四階層に辿り着くまでの手順を再確認する。



「いいか、今から我々は第四階層まで共に行動する!!大人数で動けば魔物どもに見つかる可能性も高まるが、ここにいるお前達ならば第三階層までの魔物達など敵ではないだろう!!それに事前に先行させていた銀級冒険者達が安全地帯にて拠点を築き、補給物資の準備を整えている!!我々は第四階層まで最短の路を進み、最速で第四階層の出入口まで辿り着く事に集中しろ」

「いよいよ第四階層へ入れるのか……へっ、楽しみだな」

「黄金級と金級しか立ち寄る事を許されない区域か……腕が鳴る」

「えいえいお~」

「……呑気な奴等だ」



大半の冒険者達はアリシア皇女の救出よりも自分達が遂に出入りを禁じられていた第四階層へ挑むことが出来るという事に浮足立っており、その様子を銀狼隊の面子はため息を吐きながら見つめる。

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