古王迷宮編

第38話 冒険者ギルド

――それから30分後、準備を整えた「銀狼隊」は王都の冒険者ギルドへ向かう。冒険者ギルドの建物は王都の中央部に存在し、既に建物の前には街に滞在していた冒険者達や兵士が集まっていた。


レイナ達はフードを身に着けた状態で扉の前に移動すると、先ほど宿屋に訪れた兵士の隊長の姿が存在した。



「すまない、少し遅れてしまった」

「おお、銀狼隊の皆さんも来てくれたのですね!!ささ、もうすぐ会議が始まります!!どうぞこちらへ!!」

「おい、見ろよ……あれが銀狼隊か」

「噂通りに美人揃いだな……ん?でも、数が一人多くないか?」

「あの黒髪の子が一番可愛いな」

「…………」



銀狼隊の名前を兵士が口にすると、建物の前に集まっていた他の冒険者達が視線を向けて驚いた表情を浮かべる。


彼等の反応から察するに銀狼隊は帝国でも知名度がそれなりにあるらしく、レイナは3人に紛れて建物の中に入る際、一度だけ振り返って冒険者達の様子を伺う。



(この人達はどうして建物の中に入らないんだろう?あれ……皆、同じバッジを付けてるな)



建物の前に集まっている冒険者達は全員が「茶色のバッジ」を身に着けている事に気付き、彼等が身に着けているバッジが銅製である事をレイナは見抜く。そこでレイナは先ほどリル達から教わった冒険者の階級を思い出す。




――冒険者には5段階の階級が存在し、下から「銅級」「銀級」「白銀級」「金級」「黄金級」の5つに分かれている


。全ての冒険者にはバッジが渡され、身に着けるバッジの「品質」によって階級が見分ける事が出来るシステムになっていた。銅製のバッジを身に着けている冒険者は銅級冒険者、銀製のバッジは銀級冒険者という風に見分ける事が出来る。


建物の外へ待機している冒険者達は全員が銅製のバッジを身に着けており、どうやら冒険者の中でも新人の人間が大半を占めていた。


レイナは建物の中に入る事が許されているのは銀級以上の冒険者ではないかと考え、実際に中に入って先に入っていた者達の様子を伺うと、予想通りというべきか全員が銅製のバッジは身に着けておらず、ほぼ全員が銀製のバッジを装着していた。



(この人達が冒険者なのか……前に合った3人組とは雰囲気が違うな)



廃墟街でレイナが遭遇した3人組の冒険者と比べ、建物内に存在する冒険者達は顔つきや雰囲気、それに身に着け散る装備が違った。廃墟街でレイナが遭遇したのはあくまでもの新人冒険者でしかなく、建物に集まっている者達は依頼を果たして功績を上げて昇格を果たした立派な冒険者達である。



(あまりじろじろと見るんじゃない、そんな態度をしていると他の人間に舐められるぞ。ほら、早く進め)

(あ、はい……ごめんなさい)

(でも、気持ちは分かる。私もチイも冒険者を初めて見た時は似たような反応をしてたと思う)



チイが足を止めたレイナに注意するが、ネコミンはレイナの気持ちを理解したのか頷く。チイはまだレイナに対して警戒心が残っているが、ネコミンの方は割とレイナに親近感を抱いている様子だった。


二人に促されてレイナは先を歩くリルの後に続くと、隊長は2階に存在する会議室の表札が張り付けられた扉の前まで案内すると、中に人間に声を掛ける。



冒険者集団パーティ「銀狼隊」の皆様がお着きになりました!!中へ入ってもよろしいですか?」

『おう、やっと来たか!!早く入れ!!』



中から男性の野太い声が響き、扉が開かれると既に会議室の中には十数名の人間が存在した。正確に言えば「人間」ではない種族の人物も存在し、大きな長机に並んで座っていた。



「失礼する、遅れてすまない」

「いえいえ~お気になさらずに~」

「私達も先ほど来たばかりです」

「ちっ……来やがったか、これで報酬がまた減っちまう」

「がっはっはっ!!銀狼隊、お前達なら来ると思ったぞ!!さあ、早く座れ!!」



会議室には様々な人種が入りみだり、その中にはリル達と同じく獣人族の集団も存在した。他にも「エルフ」や「ドワーフ」さらに巨大な金魚鉢の中に身体を休める「人魚」まで含まれており、極め付けに普通の人間よりも体長が2倍近くも存在する巨大な大男が会議室の正面に居座っていた。


会議室の正面に座る大男が冒険者ギルドの長らしく、他の者達がバッジを身に着けているのに対して大男だけは何も身に着けていない。彼は銀狼隊の姿を見ると笑い声をあげて座るように促そうとしたが、その中で見覚えのない顔がいる事に気付く。



「ん?ちょっと待て、そこの黒髪の女は誰だ?見たことがない顔だが、お前も銀狼隊の団員メンバーなのか?」

「えっと……」

「彼女は私の友人だ。冒険者ではないが、こう見えても優秀な剣士だ」

「ほう、剣士か!!それは心強いな!!」

「おい、待てよ!!部外者を連れて来たってのか!?言っておくが、今回の捜索の依頼は冒険者限定だ!!そいつに払う報酬はねえぞ!?」



リルがレイナを紹介すると大男は関心を抱いた表情を浮かべ、一方で獣人族の青年が抗議を申し立てる。そんな彼に対して隣に座るエルフの男性も同じように口を挟む。



「私も同意見だ。いくら腕が立とうと、冒険者ではない人間を大迷宮へ連れて行く気か?足手まといだ、即刻帰らせるべきだ」

「彼女なら大丈夫だ。それに治癒魔導士ではないが、彼女も回復魔法を扱えるといったらどうする?」

「何だと……それは本当か?」

「回復魔法だと……」

「おお~すご~い」



レイナが回復魔法が扱えると説明した途端に冒険者達の目つきが変わり、そんな彼等の反応にレイナは戸惑うが、チイがこっそりと説明する。



(治癒魔導士の冒険者は非常に希少なんだ。回復役が一人いるかどうかで冒険の進行度が大きく変わる、いちいち高価な回復薬を購入する必要が少なくなるからな)

(え、でも回復魔法といっても俺の場合は色々と制限があるんですけど……)

(いいからここはリルに任せる。大丈夫、リルなら何とかする)



回復魔法が扱えると知った途端に冒険者達の反応は代わり、リルはレイナの肩に手を組んで彼女が今回の捜索隊でどれほど役に立つのかを教える。



「このレイナ君は私の友人で剣の腕は立つ。それに1日に行える回数は限られているが、回復魔法も扱う事もできる」

「……本当か?」

「こんな場で嘘を吐くほど僕の顔は分厚くないよ」



リルは真顔で答えると会議室の全員が黙り込み、その一方でレイナの方はリルの言葉に内心冷や冷やするが、彼女は決して嘘は吐いていない。実際にレイナの文字変換の能力を利用すれば回復魔法のように怪我を治す事が出来るし、剣の腕に関しては少々怪しいが、フラガラッハとアスカロンを使用すれば剣の達人の如く戦う事は不可能ではない。


反対した獣人の青年もエルフの男性も渋々とだが引きさがり、その様子を確認した大男は頷くと、全員を椅子に座らせて今回の会議の本題へ入る。内容は勿論、大迷宮へ姿を消したアリシア皇女と彼女の引き連れた騎士団の救出のため、捜索隊の結成を宣言した。



「では、今から会議を行う!!知っての通り、現在の王都には黄金級の冒険者達は遠征していて誰一人戻っていない!!即ち、ここに集まったお前達がこの冒険者ギルド「玄武」の精鋭だ!!」

「はん、精鋭ね……余所者も何人かいるけどな」

「…………」

「え~それってどういう意味~?」



獣人の青年の言葉にリルは無視するが、金魚鉢に入った人魚の女性は不服そうに頬を膨らませる。そんな彼等を見て大男は叱りつけた。



「今は冒険者同士で言い争っている場合ではない!!余所者など関係ない、今は一人でも多くの優れた冒険者が必要なのだ!!」

「ギルドマスター、本題へ入ってください。我々はどうすればよろしいのですか?」



エルフの男性がギルドマスターに尋ねると、彼は頷いて傍に控えていた職員に指示を出し、長机の前に複数枚の地図を並べさせる。


それを確認したレイナは不思議そうに眺めていると、リルが地図の正体を見抜く。

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