第37話 冒険者集団「銀狼隊」

どうしてケモノ王国の王女であるリルが冒険者集団を組んでいるのかというと、彼女は他国で潜入活動を行う時、冒険者として行動している。勿論、偽名ではあるが正式に自国の冒険者ギルドに加入し、他の二人と数名の配下と共に冒険者として行動を行っている。


表向きは他国に赴くときは彼女達はケモノ王国の冒険者として振舞い、3人の名前の「リル」「チイ」「ネコミン」も偽名である。


リル達は地元の人間に怪しまれない程度に冒険者としての活動も行い、同時に情報収集も欠かさない。昼間に3人が廃墟街へ赴いた理由も依頼を引き受けて廃墟街の調査を行うためだった。


ちなみに冒険者には階級が存在し、彼女達の場合は5段階の内の3番目に位置する「白銀級」の冒険者である。兵士は「銀狼隊」の冒険者集団のリーダーであるリルを確認すると、宿屋の主人を下がらせて警備兵の隊長を務める男が自分達が訪れた目的を話す。



「我々はヒトノ帝国の皇帝陛下の命令を受け、この王都に存在する全ての冒険者の元へ赴き、調査の協力を頼んでいます。どうか、ご同行下さい」

「理由も話さずに付いて来いというのか?見ての通り、私は仕事の疲れを癒すためにここへ戻って来たんだ。理由もなく付いて来いと言われても納得は出来ないな」

「貴様!!冒険者の分際で!!」

「私はケモノ王国の冒険者だ。ヒトノ帝国では冒険者がどのように扱われているのかは知らないが、君たちの部下ではないんだよ?」

「うっ……」



リルの言葉に若い兵士が怒鳴りつけるが、そんな相手に対して彼女は睨みつけると兵士は言い返せずに引き返す。彼女の言葉も最もだと思った隊長は仕方なく声を潜めて収集の理由を話す。



「……実は、皇帝陛下が先ほど帝城へお戻りになられました。そして陛下は大迷宮へ向かったアリシア皇女が予定を過ぎているのにまだ城に戻られていない事を知り、即刻冒険者を集めてアリシア皇女の捜索を行うように命じています」

「アリシア皇女が……!?大迷宮で行方不明になったというのか?」

「いえ、我々も詳細は把握していません……ですが、予定では昨日の夜には戻られる予定なのに未だにアリシア皇女が大迷宮から出てきません。仮に探索が長引いていたとしても、今までは連絡役の騎士を派遣していました。しかし、今回は何の連絡も届いてません」

「つまり、予定よりも1日も過ぎているという事か……それは心配だな」



この国の中でも大迷宮は危険な場所であり、そんな場所に足を踏み入れた娘が未だに戻ってこない事に皇帝は不安を抱き、常日頃から大迷宮に挑んでいる冒険者を雇って彼女の捜索を願い出たという。


冒険者達は普段から大迷宮へはよく足を踏み入れているため、兵士を送り込むよりも彼等に調査を依頼した方が確実だと判断したのだろう。


アリシア皇女が行方不明になったと聞いてリルも表情を険しくさせ、彼女はアリシアの事をこの国で唯一のまともな人物だと認識していた。実際にこれまでのケモノ王国とヒトノ帝国の交易の際、アリシアとリルは何度か交流しており、お互いの立場が王女と皇女という事で何かと気が合い、友人のように接していた。



(アリシアが行方不明?一体何が……いや、それよりもどうする?)



リルはアリシアが大迷宮から戻ってこないという話に思い悩み、自分はどうするべきか迷う。出来る事ならば友人として彼女を救いたいとは思うが、立場上はリルは表立って彼女の救援に向かう事は難しい。リルは偽名と変装をして冒険者として行動しているため、もしも大々的に大迷宮の捜索に協力するとなれば正体を見破られる可能性も出てくる。


仮に捜索隊に参加してアリシアを救い出す事に成功しても、聡明な彼女ならばリルの正体を見破る可能性は高く、そもそも皇女を救い出せば間違いなく皇帝が直々に表彰を行うだろう。しかし、もしも公の場にリルが出て正体がばれた場合は取り返しのつかない自体に陥る。下手をしたらケモノ王国の密偵として拘束され、人質として監禁される可能性も十分にあった。



(アリシアは救いたい、だが正体が知られれば……どうすればいい?)



アリシアの危機にリルは思い悩み、そんな彼女の気持ちを知らずに隊長は捜索に協力してくれるのならば冒険者ギルドへ赴くように促す。



「他の冒険者にも呼びかけないといけないので、我々はここで失礼する。もしも捜索隊に加わりたいのであれば冒険者ギルドの方へ向かってほしい。では、失礼した!!」



用件を伝え終えると兵士達は早急にその場を離れ、別の冒険者が宿泊している宿屋へ向かう。その様子を見送ったリルは悩んだ末、他の者達に相談を行う事にした――






――部屋に戻ったリルは兵士達の狙いがレイナではなかった事、そしてアリシアが率いる騎士団が未だに大迷宮から戻らず、王都に帰還した皇帝が心配して冒険者を集めて捜索隊を結成しようとしている旨を伝える。



「アリシアさんが行方不明?それ、本当なんですか!?」

「ああ、私もにわかには信じられないが、兵士がそう言っていた」

「何の連絡も送らずに帰還の予定日から1日が経過……何か事件に巻き込まれたのでしょうか?」

「現状では何とも言えない。だが、フラガラッハを所持しているアリシアが大迷宮の魔物にやられるとは思えないが……」



聖剣フラガラッハを所持しているアリシアが大迷宮内に出現した魔物に不覚を取ったとは考えにくく、何かの別の原因で彼女が大迷宮から戻れなくなったのではないかとリルは考察するが、現時点ではそれを確かめる術はない。思い悩むリルに対してネコミンは問う。



「リル様はどうするつもりなの?」

「私は……出来るならば彼女を救いたい」

「しかし、そうなると我々も捜索隊に参加しなければなりません。その場合、我々の正体が気付かれる恐れが……」

「分かっている。だから君達に聞きたい、私はどうしたらいいと思う?」

「助けに行きましょう」



リルの言葉にレイナは即答すると、3人は驚いた表情を浮かべたが、レイナはクローゼットを開いて隠していたアスカロンとフラガラッハを取り出す。



「アリシアさんはこの国に訪れたばかりの俺に優しくしてくれた人なんです。あの人だけが俺を勇者だと認めてくれた……見捨てる事は出来ない。俺は行きます!!」

「待て待て、気持ちは分かるがお前は冒険者じゃないだろう?そもそも捜索隊に参加する資格を持っていない」

「あっ……そういえばそうだった」



荷物を整えて宿を出て行こうとしたレイナをチイが慌てて引き止め、あくまでも捜索隊は王都の冒険者のみが集められており、レイナの場合は参加資格を持たない。しかし、世話になったアリシアの危機に何もしないなどレイナには出来ず、どうにか参加できる方法を考える。


そんなレイナの姿を見てリルも覚悟を決め、ここで折角会う事が出来た「勇者」をわざわざ手放すわけにはいかず、友人を見捨てて国へ引き返す事は出来ないと改めて思ったリルはレイナの肩を掴む。



「一つだけ方法がある。君が捜索隊へ参加できる手段が」

「本当ですか!?」

「ああ、但しこの方法は君にも少々覚悟が必要だ。アリシア皇女を救うため、私達に協力してくれるか?」

「はい!!俺に出来る事なら……」

「よし、分かった。それならまずは――」



レイナはリルの言われるがままに従い、アリシアを救い出すために行動をする。しかし、後々にレイナはこの時の自分の安易な判断に後悔する事になるとは、この時点では考えもしなかった。

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