第39話 大迷宮の仕組み
「これは……古王迷宮の各階層の地図か」
「古王迷宮……?」
「この王都に存在する大迷宮の名前だ!!ここにいる冒険者全員が知っての通り、この古王の迷宮は第一から第五階層まで存在する!!そして現在、黄金級と金級を除いた冒険者が立ち寄る事が許されているのは第三階層までだ!!」
机の上には4枚の地図が並べられ、どの地図もかなり大きな見取り図であり、しかも空白の部分も多々あった。
この4枚の地図が現在冒険者達が把握している大迷宮の階層の地図であり、第五階層を除いた全ての階層の地図らしい。
「現在のギルドが把握している各階層の地図だ!!各自、自分で制作した地図を持っているかもしれんが、これがギルドが調査員を派遣して作り上げた地図だと思ってくれ」
「ちっ……嫌にいなるほど精巧だな。こっちは大金を支払ってわざわざ地図製作(マッピング)の技能を持つ奴を雇って作り上げたのによ」
「この地図の複製があるなら貰えませんかね?」
「金さえ払えば作ってやろう!!だが、今は皇女様を救う事だけに集中しろ!!」
ギルドマスターは第四階層の地図を指差し、アリシア皇女が最後に訪れたと思われる階層を示す。第四階層は他の三つの階層の地図の中でも最も空白の部分が多く、せいぜい半径50メートル程度の範囲内の地図しか記されていなかった。
「大迷宮で探索を行っていた冒険者の話によると、最後にアリシア皇女を発見したのはこの第四階層の入口だ!!アリシア皇女は騎士団を引き連れて第四階層へ続く階段を降りてから消息を絶った!!」
「第四階層ですか……それはまた、厄介な場所に行きましたわね」
「ちっ、危険区域か。面倒だな」
「第四階層の地図はどうしてこんなに空白があるんですか?」
「それは第四階層が未だに完全に踏破されていないからだな!!この階層へは過去に何百人の冒険者が挑んだが、生きて帰ってこられたのは一握りだ!!殆どの人間が第四階層へ挑み、そのまま帰ってこない!!それほどまでに危険な場所なのだ!!」
「現在まで第四階層で確認された全ての魔物が第一級危険種として指定されている。だから第四階層への立ち入りは基本的には金級以上の冒険者しか禁止されているんだ。さらに最下層の第五階層に至ってはここ100年の間は誰も踏み入れたことがないらしい」
「それはどうかな~?黄金級の人達ならもしかしたら皆に黙って第五階層まで入ってたりして~」
「その可能性はあり得なくもないな。あいつら、裏で何をしているのか分からねえからな」
現時点で第四階層へ入る事が出来るのは金級以上の冒険者のため、現時点ではこの場に存在する誰もが第四階層へ立ち入った事はない。
最も立ち入りが禁止されているといっても別に出入口で誰かが見張っているわけでもないので、内密に第四階層に挑んだ冒険者も存在してもおかしくはない。
アリシアは冒険者ではないが、大迷宮を管理しているのはヒトノ帝国のため、彼女と騎士団だけは特例として第四階層へ挑むことが許可されている。
聖剣フラガラッハを所持しているアリシアでなければ騎士団も入る事は許されなかっただろうが、彼女は幾度となく第四階層へ潜り、貴重な物資を回収して帰還を果たしている。しかし、今回に限っては一向に戻ってくる様子がないという。
「アリシア皇女は第四階層へ向かったのは第四階層に出現するある魔物の素材の回収のためだ!!」
「素材だと?一体何の魔物だ?」
「ゴーレムだ!!お前等も名前ぐらいは知っているだろう?鋼鉄よりも硬い岩石で構成された人型の魔物だ!!頑丈で力も強く、しかも危険を察すると逃走したり、他の仲間を呼ぶ程度の知能もある強敵だ!!しかし、奴等を倒せば岩石の体内に秘められている貴重な鉱石や魔石を入手できる!!」
「鉱石?」
「ミスリルと呼ばれる金属の鉱石だ!!鋼鉄の数倍以上の強度を誇り、さらに魔法に対する強い耐性を誇る!!それでいながら加工は難しくはなく、様々な武器や防具の素材として利用される!!鉱山で発掘も出来るが、大迷宮に生息するゴーレムから採取できるミスリルの方が質が高い!!」
「それに手に入るのは鉱石だけではありません。ゴーレムの体内には「魔水晶」と呼ばれる純度が高い魔石が存在し、この魔水晶がゴーレムの肉体を構成する「核」です。体内の魔水晶を破壊すればゴーレムは死亡しますが、魔水晶が無傷の場合は何度でも肉体を再生させます。もしも魔水晶を破壊せずに取り出す事が出来ればギルドで高く買い取らせていただきます」
「そ、そうですか……あの、途中で脱出する方法とかはないんですか?」
「ない!!それと各階層繋がる階段は階層ごとに位置が異なる!!だから冒険者は徒歩で第四階層まで移動しなければならん!!」
アリシアが大迷宮に挑んだのは「ゴーレム」と呼ばれる魔物の素材が目当てらしく、彼女は騎士団を同行させて第四階層まで挑んだ所は確認されているが、それ以降の彼女の姿を見た者はおらず、連絡も途絶えたという。
第一階層から第四階層まで移動するだけでも時間が掛かり、しかも古王迷宮の場合は探索の途中で外へ抜け出す転移系の魔道具は封じられる仕掛けが施されていた。
レイナの想像以上に大迷宮という場所が危険な場所だと判明し、未だにゴブリン程度の相手しか倒していないレイナは自分が本当に大迷宮に挑んで生き残る事ができるのか不安を抱くが、ここまで来た以上は弱音は吐けずに黙って捜索の方法を聞く事にした。
「まず、我々は第一階層から最短距離で第四階層の出入口まで向かう!!その後は各冒険者集団ごとに分かれて第四階層の捜索を行う!!」
「あれ~皆で行かないの~?」
「当然だ!!何しろ古王迷宮は迷路で構成されているからな!!道幅はせいぜい3メートル程度、しかも魔物が現れた時に大人数で動いていれば通路が狭い環境ではお互いの邪魔となる!!それに人数が多ければ魔物に見つかる可能性も高まるからな!!」
「ちょっと待て、それなら報酬はどうなるんだ?アリシア皇女を救い出した冒険者集団のひとりじめか?」
「安心しろ!!報酬に関しては捜索隊に参加する全ての冒険者に金貨10枚、さらにアリシア皇女を救い出した人間には金貨が100枚贈呈される!!」
『おおっ!!』
アリシアを救い出せば金貨が100枚という言葉に冒険者達は騒ぎ出し、同時にお互いに対抗意識を強める。
何としても他の冒険者集団より先にアリシアを見つけ出し、自分達の手柄にしようと考える者も居るだろう。しかし、レイナは報酬などどうでもよく、なんとしてもアリシアを救い出す事を誓う。
(この世界で最初に味方になってくれた人だ……何としても助けたい。そして俺の無実を証明してもらうんだ……!!)
レイナはフラガラッハを所有していたためにアリシアの殺害の疑惑を持たれたが、もしも彼女が帰還して命が無事である事が判明すればレイナを処刑に追いやろうとしたウサンの鼻を明かせる事ができる。
もしかしたら自分勝手な判断で勇者を殺そうとしたウサンの浅はかさが露呈し、何らかの罪を被せる事ができるかもしれない。
最もレイナの考えはあくまでもアリシアが未だに生きている場合を想定しての話であり、既に彼女が死んでいた場合はどうしようもできない。だが、僅かでも生きている可能性があるのならばレイナは彼女を絶対に見つけ出して救う事を決める。
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