第34話 レイナの正体

「ウサンが裏で動いている証拠は?」

「残念ながら持ち帰る事は出来なかった。だが、奴も馬鹿ではない。仮に証拠を見つけたとしても皇帝にこの件を告発したとしても、奴を失脚させるまで追い込む事は出来ないだろう」

「どうして?」

「この国の実権は皇帝ではなく、ウサンが握っている。奴は表向きは皇帝に忠誠を誓っているが、現在の帝国の政治は奴が取り仕切っているんだ」

「え、あの禿頭大臣そんなにやばい奴だったの!?」

「そう、実は凄い禿頭だった」

「いや、それだと別の意味合いに聞こえるぞネコミン」



ウサンが想像以上の大物だと知らされたレイナは驚き、知らなかったとはいえ、自分がとんでもなく厄介な相手に嫌われていた事を知る。ウサンが魔王軍と呼ばれる組織を手引きして勇者召喚を行い、帝国の戦力の増強を計っているとしたら他国にとっては大きな脅威と成り得る。


だからこリルは王女と立場でありながら薬草の移送の使者として帝国に忍び込み、勇者の暗殺を謀ったという。



「私達は国のために死ぬ覚悟は出来ている。だから入念に計画を練り、そして実行に移ったが……どうやら君のお陰で計画は失敗したというわけだ」

「話は分かったけど、勇者達はあくまでも巻き込まれた人間でしょう。どんな事情があろうと彼等が殺される理由にはならないし、もしもまだ命を狙うのなら絶対に許さない」

「分かった……こちらとしても君を敵に回すのは止めた方が良さそうだ」



ケモノ王国を救うためにリル達は勇者を暗殺計画を立てたが、結果的にはレイナに阻止された事になる。最もその事に関してレイナが恨まれる筋合いはなく、レイナはあくまでもクラスメイトを救おうとしただけであった。


だが、勇者を殺したところでもう一度勇者召喚を行えば意味がないのではないかとレイナは考え、試しに質問を行う。



「仮に勇者を殺したとしても、帝国がまた勇者召喚を行うとは思わなかったの?」

「いや、それは出来ない。何故ならヒトノ帝国は所有している「転移石」はもう余裕がないはずだ」

「転移石?確か、それって勇者を召喚するのに必要な魔石だっけ?」

「そういう事だ。ヒトノ帝国は幾度も勇者召喚を行った事が原因でもう転移石に余裕はない。現在の時代ではもう転移石の素材となる鉱石は発掘できない。だからこそヒトノ帝国はもう勇者を召喚する事は出来ない」

「そういえばそんな事も言っていたような……あれは半分は当たっていたのか」

「ん?どういう意味だ?」

「いや、こっちの話です……気にしないでください」



勇者が召喚された際、皇帝は召喚に必要な「転移石」と呼ばれる魔石がもう残っていない事、そして帝国と敵対している「魔王軍」と呼ばれる存在ならば所有しているかもしれないと話していた。


だが、仮にリル達の話が事実だとした場合、魔王軍を裏で操っているのはウサンだとしたら転移石を魔王軍が所有しているという話も信憑性は薄い。


現在のヒトノ帝国が転移石を所有していない場合、新たな勇者を召喚するどころか勇者たちも地球へ戻る事は出来ず、どちらにしろヒトノ帝国は勇者達を利用するだけ利用して地球へ戻すつもりがなかった事になる。皇帝がこの事実を知っていたかは分からないが、首謀者であるウサンは最初から勇者達を利用するためだけに呼び出したのは間違いなかった。



「あの禿ぇっ……今度会ったら、頭から赤色のペンキをかけてタコにしてやる!!」

「それはちょっと見て見たい気もするが、止めておいた方が良い。あの男は用心深い、もしも自分の命が狙われていると知ったらどんな手段を使っても敵を排除しようとする」

「ところで、さっきから気になっていたんだがお前は何者だ?私達の事ばかりではなく、そろそろお前の正体も教えてくれ」

「……気になる」



自分達の事ばかり語らせて肝心の正体を明かそうとしないレイナに対し、いい加減に気になったチイが直球に質問すると、他の二人も頷く。


3人の言葉にレイナは頭を掻き、自分の事をどう説明するのか思い悩む。正直に言えば話したところで信じて貰えるかは分からず、だからといって黙っていればこのまま素直に帰してくれるとも思えない。



(馬鹿正直に俺も召喚された勇者の一人で、現在は城を脱走して女に成りすまして生活してる……なんて言えば信じてくれるかな?)



レイナは考えた末、彼女達が自分達の素性を話したのならば自分もそれに応えるべきかと判断し、素直に自分の事を話す事にした――






――レイナが3人に自分の事情を全て話し終えた頃、時刻は夕方を迎た。彼女達は三者三葉の反応を示し、最初にチイが声を荒げる。



「そんなわけがあるか!!お前が男で勇者で今は城を追放されたから性別を偽って暮らしているだと!?」

「にわかには信じがたいが……しかし」

「驚いた」

「う~ん……やっぱり、そういう反応ですよね」



チイは話を聞いても信じず、リルは半信半疑、ネコミンの場合はどうやら信じたらしく、面白そうにレイナのこれまでの経緯を聞いて拍手を行う。そんな彼女を見てリルはチイを宥めた。



「ふむ……ネコミン、今の彼女の……いや、彼の話は本当なのか?」

「今の話の中では嘘を吐いてないと思う。この人から嘘の臭いはしなかった」

「そんな馬鹿な……じゃあ、この女の話は本当なのか?」

「嘘の……臭い?」



ネコミンの言葉にレイナは不思議に思うとリルは彼女の頭を撫でながら、ネコミンの特技を説明する。



「このネコミンは生まれた時から少々特別な鼻を持っている。人一倍に嗅覚が優れているというわけではないが、特定の臭いを嗅ぎ分ける事が出来るんだ。例えば、彼女は人が嘘を吐くときに発する臭いを嗅ぎ分ける事が出来る」

「つまり、嘘を見抜くことが出来ると?」

「正確にはその人間が嘘を吐いていると自覚して言葉を発したらかぎ分ける事が出来る。もしも、その人間が自分が嘘を吐いていないと思い込んでいたら臭いは出てこないらしい。つまり、結果的に嘘の言葉を言ったとしても、その人間が嘘だと自覚していなければネコミンの鼻には反応しない」

「貴女の身の上話、嘘の臭いはしなかった。だから私は信じる」

「私は信じないからな!!こんな牛のような胸をしている癖に元は男だなんて……くそう!!」

「はうっ!?む、胸を鷲掴まないでよ!?あんっ……」

「へ、変な声を出すな!!こっちも変な気分になるだろうがっ!!」



チイは涙目でレイナの豊満な胸元を掴み、本当の女である自分よりも大きい事に彼女は苛立ちを隠さずに引きちぎらん勢いで掴む。


慌ててリルがレイナからチイを引き剥がし、彼女を後ろから抱き着いて慰め、ネコミンも慰めるように肩に手を置く。



「大丈夫だチイ、君はまだ成長期だ……希望は残っている」

「元気出す」

「御二人に言われても嬉しくありません!!なんですか、ここは巨乳の園ですか!?」



自分以外が平均を遥か上回る胸の大きい者達に囲まれたチイは自暴自棄になったように不貞腐れ、壁に向けて犬型の獣人の癖に猫のように爪を掻きまわす。その様子を見てリルはため息を吐きながらレイナに振り返った。



「すまないな、彼女の事はしばらく放っておいてくれ……それにしてもまさか、あの時の男の子がこんな姿になるとは……大きくなったね、よしよし」

「そんな、久しぶりにあった親戚みたいな反応されても困るんですけど……って、普通は尻じゃなくて頭を撫ででますよね!?」

「リルは女の子なのに女の子の身体が好き、だから諦めて」



リルは自然な形でレイナの尻を撫でまわし、男と知りながらもセクハラを行うリルにレイナは戦慄するが、お互いに正体を晒した事で先ほどまでの一種即発のような雰囲気はなくなった。


双方とも秘密を打ち明けた事で気が少し楽になり、本当の意味で打ち解けあう。レイナも最初に3人に抱いていた警戒心も薄まり、とりあえずは彼女達なりも事情があった事を知って一先ずは自分を殺そうとした事に関しては許すとまではいかないが、今だけは気にしない事にする。



「ネコミンがここまで言うのであれば私も君の話を信じよう。しかし、やっと合点がいった。どうして急に勇者の一人が指名手配されたのか気になっていたが、まさか侵入者とアリシア皇女の暗殺疑惑が掛かっていたとは……苦労したようだね」

「本当ですよ……けど、アリシア皇女が戻ってくるまでの辛抱ですから」

「いや……それは難しいと思うぞ」

「え?」



レイナの言葉を聞いてリルは腕を組み、仮にアリシア皇女が戻ったとしてもレイナの身の安全は保障されない可能性が高い事を伝える。

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