第27話 ホブゴブリン
(ん?あれは……ゴブリンなのか?)
街道を歩く途中、レイナは前方の建物から随分と背が高いゴブリンが現れた事に気付き、急いで路地に身を隠す。
これまで遭遇したゴブリンは身長が1メートル程度だったのに対し、建物から現れた個体は成人男性並の高さを誇る。
通常のゴブリンよりも背が高く、体格も大きく、他のゴブリン達と違って筋肉質な体型をしていた。恐らくは人間の冒険者から奪った衣服と鎧を身に着け、背中には盾と槍も背負っていた。気になったレイナは解析を発動させてゴブリンを調べると、詳細画面が視界に表示される。
―――――――――――
種族:ホブゴブリン(ゴブリン上位種)
性別:雄
状態:警戒
特徴:ゴブリンが十分な栄養を摂取し、成長した個体。普通のゴブリンよりも力も知能も高く、人語も理解する
―――――――――――
魔物に解析を使用した場合、人間のステータスとは異なる画面が表示され、種族や性別なども判明する。どうやら通常のゴブリンよりも厄介な相手らしく、レイナは気付かれないように様子を伺う。
「グギィッ!!」
「ギィッ……」
「ギィイッ……」
ホブゴブリンが建物の中に鳴き声を上げると、通常種のゴブリンも姿を現し、眠たそうに欠伸を行う。そんなゴブリン達に対してホブゴブリンは同種であるにも関わらず、容赦なく拳骨を食らわせる。
「グギィッ!!」
「ギィアッ!?」
「ギギィッ!?」
叱りつけられたゴブリン達は必死に頭を下げて許しを請い、そのゴブリン達を見てホブゴブリンは鼻息を鳴らすと、槍で行先を示して移動するように命じる。
ゴブリン達は慌ててそれに従い走り去ると、残されたホブゴブリンは衣服の中をまさぐって干し肉のような物を取り出して食べ始めた。
ホブゴブリンは他のゴブリンを部下として従させている辺り、知能の高さとゴブリンの間でも人間社会のように上下関係が存在する事を知ったレイナはアスカロンに手を伸ばす。ゴブリンの上位種ならば得られる経験値も高い可能性はあり、ホブゴブリンが視線を外している間にレイナは「気配遮断」「無音歩行」の技能を発動させて背後に接近を行う。
無音歩行を発動している間は足音が鳴らず、気配遮断のお陰で完全に気配を絶った状態でレイナはアスカロンを振り翳そうとした時、先ほど離れたはずの2体のゴブリンの鳴き声が街道に響く。
「ギギィッ!?」
「ギィイイイッ!!」
「ッ!?」
「なっ、くそっ!!」
どうやらホブゴブリンに命じられて廃墟の中から武器になりそうな物を探してきたらしく、2体のゴブリンの手元には角材が握り締められていた。
2体はホブゴブリンの背後から接近しているレイナに気付くと慌てて注意を行い、それに気付いたホブゴブリンは驚いた表情で振り返り、レイナの存在に気付く。
「このっ!!」
「グギィッ……!?」
咄嗟にホブゴブリンは背中の盾を取り出し、両手でレイナが振り翳したアスカロンを防ごうとしたが、煉瓦製の壁すらも簡単に切り裂くレイナのアスカロンを木造製の盾で防げるはずもなく、そのまま刃は盾を切り裂いてホブゴブリンの胴体も切り裂く。
「グギィイイイッ!?」
「まだ生きてるのか!?」
大きな盾で身を隠したせいか攻撃範囲を見誤り、レイナのアスカロンはホブゴブリンの胸元を軽く切り裂いただけで絶命には至らなかった。
ホブゴブリンは血を流しながらも後退し、槍を取り出して反撃しようとしたが、咄嗟にレイナは片手でフラガラッハを引き抜き、今度は確実に胸元を突き刺す。
「はああっ!!」
「グギャアアッ!?」
「「ギギィッ!?」」
フラガラッハの刃が確実にホブゴブリンの心臓を貫くと、ホブゴブリンは力を失ったように倒れ込み、その様子を見ていたゴブリン達は角材を手放す。
武器を引き抜いたレイナは額の汗を拭って残りの2体のゴブリンに視線を向けると、どちらも恐怖の表情を浮かべて逃走した。
「ギ、ギギィイイッ!!」
「あ、逃げた……まあ、いいか」
どうにか危機を乗り越えたレイナは両手に装備したアスカロンとフラガラッハを視線に向け、どうやら先ほどホブゴブリンを倒したときにレベルが上がったらしく、身体能力も強化したのか先ほどよりも二つの剣の重量が軽くなった気がした。
レイナは片手でもアスカロンならば十分にホブゴブリンが相手だとしても倒せる事が判明し、今後は両手で剣を扱って戦うべきかを考える。
(大分レベルも上がったし、剛力のお陰で攻撃力が4倍に上昇して腕力も上がっているのか……それにフラガラッハの効果で更に攻撃力が3倍も増しているんだから、どっちの剣も片手で扱っても問題ないな)
ホブゴブリンを倒した事でレイナのレベルは「6」に上昇し、最初の頃と比べると重く感じていた武器も今では片手で軽々と持ち上げられた。
試しにアスカロンを片手の状態で廃墟の壁を切りつけても問題は感じられず、今後は両手で武器を扱う場面も訪れるかもしれなかった。
(それにしてもホブゴブリンか……人間のように衣服を身に着けて行動している辺り、本当に人と戦っている気分になってきた。ここから先は要注意だな……)
この先にもホブゴブリンが生息しているかもしれず、先ほどのように攻撃を仕掛けるときは他の敵にも注意するように心がけてレイナは街道を歩く――
――数分後、しばらくはゴブリンの姿を見かけなかったが、レイナの視界に大きな建物が入った。恐らくはこの街の教会だと思われるが、その周囲には複数のホブゴブリンの姿が存在し、見張り役を行うかの様に出入口の扉に集まっていた。
ホブゴブリンに見つからないように「隠密」の技能を発動させたレイナは教会の様子を伺うと、扉の方から新しいホブゴブリンが現れ、外を見張っていたホブゴブリンと入れ替わる。
どうやら教会を住処にしているようだが、ホブゴブリン同士が結託しているのを知ったレイナは建物に身を隠す。
(あいつらを倒せばかなり経験値を貰えると思うけど、普通のゴブリンよりも厄介そうだな……)
ホブゴブリンの中には剣や槍だけではなく、弓矢を装備している個体も存在し、それを確認したレイナはどうするべきか悩む。
正面から挑めば数体のホブゴブリンと戦闘になり、取り囲まれる恐れがある。また、時間をかけすぎると教会内部に潜む他のホブゴブリンも現れる可能性を考慮し、迂闊には踏み込めない。
(アスカロンとフラガラッハがある限りは負けないと思うけど、どうすればいいかな……文字変換の能力を使うか?)
レイナはブレスレットに視線を向け、こちらを素材として利用して文字変換の能力で新しい聖剣を生み出すか考える。本日はまだ「8文字」まで変換できるのでレイナは新しい武器を作り出すべきか考えた。
(ブレスレットを素材にするとすれば「カラドボルグ」が作り出せるな。話を聞く限りだと電撃系の攻撃を行えるようだし、便利な能力も付与されているかもしれない。よし、なら早速……ん?)
廃墟の中でレイナはブレスレットを外そうとした時、不意に足元に何かが転がっている事に気付く。視線を向けるとグラスが転がっている事を知り、拾い上げる。
「グラス?この建物に暮らしていた人のかな?よく割れずに残っていたな……」
硝子製のグラスを見てレイナはこんな廃墟の中で無事に残っていた事に驚くが、今はこんな物を気にしている暇はない。
手にしたグラスを床に置き、レイナはホブゴブリン達に自分の存在を気付かれる前にブレスレットを取り外そうとした時、ある事を思いつく。
(こんな物より、さっさとブレスレットを使って何か作らないと……グラス?)
レイナは自分が手放したがグラスが「三文字」の言葉である事を思い出し、地球に存在するある物を思いつく。これを使用すれば上手くホブゴブリンを一掃できるかもしれず、そう考えたレイナは試しにグラスに解析を発動させる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます