第26話 聖剣アスカロン
装備を整えたレイナは抜け道を通り、廃墟街に辿り着くと、ゴブリンと遭遇する前に装備の確認を行う。
腰にはフラガラッハを装着し、武器屋の店主に勧められた「退魔のローブ」という特別製のローブを身に着け、ついでに両手にブレスレットを装着する。
「よし、良い買い物が出来たな……防具も一応は揃えられたし、いい材料も手に入れた」
ブレスレットを購入した理由は「文字変換」の材料に好都合だと判断し、これを使えば万が一にも武器を失っても六文字の聖剣を作り出す事が出来るからだった。
さらに今回は新しい武器として「聖剣アスカロン」の模造品も持ち帰り、早速この聖剣を利用してレイナは実験を行うため、まずは解析を発動させて詳細画面を開く。
「解析」
『アスカロン(模造)――伝説の聖剣アスカロンの模造品。性能は大きく劣り、特別な能力は付与されていない。装飾用の剣』
「よし、この模造の部分を……本物と書き換えたらどうなるのかな?」
画面に指先を向けたレイナは「模造」の部分を「本物」と打ち込んだ瞬間、聖剣アスカロンの模造刀がが光り輝き、やがて磨き抜かれたような剣へと変わり果てる。刀身は赤く、刃の表面には竜を想像させる紋様が刻まれ、更に柄の部分には大きな赤色の宝石が埋め込まれていた。
重さに関してはフラガラッハと大差はないが、性能面が気になったレイナは解析を発動させると、案の定というべきか模造から本物へと変化を果たした事詳細画面が更新されていた。
――アスカロン――
能力
・切断力上昇
・経験値増大
・不壊
詳細:300年ほど前に初代勇者によって製作され、大迷宮に封印されていた聖剣。現在の所有者は「霧崎レア」
――――――――
「画面が切り替わった。それに「(模造)」という文字もなくなってる。成功したのか……けど、「切断力上昇」「経験値増大」「不壊」か。フラガラッハとはやっぱり性能が違うんだな。あれ、でもこっちの方はヒトノ帝国の事は書かれていない……という事はまだ誰も見つけていないのかな?」
フラガラッハの説明文とは異なる部分も多く、どうやらオリジナルのアスカロンは未だに大迷宮に封印されて見つかっていない可能性があった。
アスカロンを掴んだレイナは剣の重量的にも片手では扱いにくい武器だと判断し、試しに近くの建物の壁に向けて剣を振り下ろす。
「だあっ!!」
煉瓦製の壁に向けてアスカロンを振り下ろした瞬間、刃はまるでバターでも切り裂くかの様に壁を切り裂く。
そのあまりの鋭い切れ味にレイナは慌てて剣を引き抜くと、綺麗な切り傷だけが壁に刻まれていた。あまりの切れ味の凄さにこれほどの剣ならば竜を殺せる力を持っていてもおかしくはない。
「うわ、凄い!!フラガラッハも相当だけど、こいつはもっと凄いな……」
アスカロンの性能を確かめたレイナはこれで「経験値増量」と「経験値増大」の能力が重複されるはずのため、早速ゴブリンの姿を探す。これまでの傾向から街の中心部に向かうとゴブリンの数が増え、武装したゴブリンをちらほらと見かけている。
今のレイナの装備ならば武装したゴブリンだろうと後れを取る事は無く、まるで散歩でもするように呑気に街道を移動して中心部へ向かう。油断大敵だが、これだけの装備を整えれば初日に訪れた時よりも心の余裕が生まれるのは仕方がない。
(早く城に戻れないかな?そうすればウサン大臣の悪行もばらせるし、皆のために武器を用意出来るのに……あ、でも所有者しか聖剣は使えないんだっけ?)
聖剣は所有者しか力を引き出せないとウサンから言われた事を思い出し、三人の勇者は全員が3文字の名前なので仮に文字変換の能力を使用して所有者の名前を変更しようとしても、レイナの本名は「霧崎レア」なので4文字の名前にしか替える事しか出来ない。
これほどの素晴らしい性能を誇るのに勇者の中で扱えるのがレイナだけの場合、当然だが城に戻れば優遇されるのはレイナだろう。そうなれば影で自分を馬鹿にしていた使用人や兵士を見返す事が出来るのだろうかとレイナは考えていると、丁度いいときに道角で1匹のゴブリンと遭遇する。
「ギギィッ!?」
「あ、ゴブリンだ……せいっ!!」
「ギャウッ!?」
最初は姿を見ただけで緊張した相手だが、即座にレイナは姿を発見するとアスカロンを引き抜き、ゴブリンを切り裂く。切断力が優れている分、相手を切り裂く際にそれほどの力はいらず、フラガラッハよりも扱いやすい。
但し、切断する際にあまりの手応えの無さに本当に切ったのか不安を抱いたレイナは振り返ると、そこには胴体を切り裂かれたゴブリンの死体が存在した。
「ふうっ……アスカロンは本当に凄いな。あ、でもフラガラッハを装備しているからこれだけ強いのかな?」
フラガラッハを装備している間は「攻撃力3倍増」の効果が発揮するため、そのお陰でアスカロンが強化されている可能性も高い。
聖剣同士を装備すれば単体でも凄まじい能力を持つ聖剣がより強化され、この調子ならばゴブリン以外のどんな魔物であろうと倒せそうな気がした。
「ステータスは……お、レベル5に上がってる。経験値増量と経験値増大のお陰かな?」
レイナは既に「経験値倍加」「必要経験値削減」を覚えていることもあり、更に二つの聖剣の効果もあって一気に大量の経験値を得られるようになっている。
これならば今日中にもっとレベルが上げる事が出来るのではないかと考えた時、建物の屋根の上から別のゴブリンの鳴き声が響く。
「ギィイイッ!!」
「うわっ!?」
敵を倒して完全に油断していたレイナの背中にゴブリンが飛び乗り、そのまま首を絞めつけてきた。慌ててレイナは引き剥がそうとした時、誤ってアスカロンを落としてしまう。
それを確認したゴブリンはレイナの首を手放すと、口元に笑みを浮かべて彼よりも先にアスカロンに手を伸ばす。
「ギギィッ!!」
「しまった!?」
先にゴブリンがアスカロンの柄を掴み、そのまま剣を持ち上げようとした瞬間、刀身の竜のような紋様の瞳の部分が光り輝くと、柄を握り締めていたゴブリンの全身が発火する。
「ギィアアアアッ!?」
「何だっ!?」
唐突に全身が燃え始めたゴブリンにレイナは驚愕すると、一瞬にしてゴブリンは灰とかして崩れ去り、残されたのは地面に落ちたアスカロンだけだった。驚いた様子でレイナはアスカロンの柄を指先で触れると、特に何も起きない事を考えてアスカロンを鞘に戻す。
どうして急にゴブリンが発火したのか気になったレイナはウサンの言葉を思い出す。聖剣は所有者にしか扱えないという言葉を思い出し、もしかしたら聖剣の所有者ではない存在が触れた場合は今のゴブリンのように「拒否」されるのではないかと考えた。
「ま、まさか……所有者以外の存在が使おうとすると、こんな事が起きるのか?」
今後は敵に武器を奪われる心配はなくなる一方、戦闘終了後とはいえ、自分自身が油断しすぎていた事を反省したレイナは「気配感知」の技能だけは常に発動させる事を心掛け、先に進む。
(怪我したら大変だったな……そういえばこの世界にも確か「回復薬」というのがあるんだったよな)
最初の頃にダガンの訓練で倒れた時、レイナは医療室の治癒魔導士から「回復薬」という薬がある事を聞いていたが、その回復薬の詳細までは聞かされておらず、街に戻ったら確かめる必要があった。
今更ながらに戦闘準備だけを整えてけがを負ったときの対処法を怠っていた事にレイナは自分の不注意さを嘆く。
最もレイナの場合は瀕死の状態に追い込まれようと文字変換の能力があれば自力で復活出来るため、怪我を負ったとしても自力で治す事は出来る。なので無意識に回復手段を後回しにしていたのかもしれない。
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