第25話 模造品
「ん~……今日もいい天気だな」
外に出たレイナは日の光を浴びながら身体を伸ばし、その際に大きな胸元が揺れ動く。通行人は彼女の胸に視線を向け、男性はにやけ、女性は悔し気な表情を浮かべる。
そんな周囲の反応に気付かずにレイナは廃墟街へと続く秘密の通路が存在する建物へ向かおうした時、途中で前に立ち寄ったことがある武器屋へと辿り着く。
(あ、そういえばここで前に聖剣の模造品を見かけたんだよな。お金はあるんだし、ついでに装備を整えようかな……)
以前に訪れた時は自分が場違いな気がして立ち去ってしまったが、これからは魔物と戦うために装備を整える必要があり、この際にレイナは店の中へ立ち寄ると店主と思われる背の小さな男性が出迎える。
相変わらず身長が低く、それでいて地面に届くのではないかという程の長い顎髭を生やしており、恐らくは人間ではなくドワーフと呼ばれる種族で間違いないだろう。
「いらっしゃい。おや、あんたは前にも来た事があるな」
「覚えてたんですか?」
「別嬪さんの顔は忘れねえよ。今日はどんな用事だい?」
自分の顔を覚えていた店主にレイナは驚くが、丁度良かったのでレイナはショーケースに並べられている聖剣の模造品に対して質問を行う。
「この硝子の中に入っているの、聖剣の模造品ですよね?」
「ああ、これを出しておくと客がよく来るんだよ。まあ、事前に言っておくが全部偽物だがな」
「本物は見た事あるんですか?」
「アリシア皇女がここへ立ち寄った時にフラガラッハの方は見せてもらったよ。だが、他の聖剣は伝承されている話を参考に想像して作っただけだ」
店主によると聖剣フラガラッハだけはアリシアから見せてもらったらしいが、他の聖剣に関しては見た事はないらしく、武器の性能に関しても知らないという。
だが、伝承である程度の聖剣の特徴は現在の時代にも伝わっているらしく、レイナの質問に色々と答えてくれた。
「この聖剣デュランダル、かなり大きいですね」
「そいつは最硬の聖剣と言われている。紛らわしいが、最も硬いという意味で「最硬」だ。何でも本物は200キロを軽く超える超重量級の大剣らしい」
「200キロ!?それは重そうですね……なら、このエクスカリバーは?」
「こいつは世界最強の剣と言われている「大聖剣」だ。全ての聖剣の中でも最高位に位置する武器で、初代勇者が作り出した武器の中でも最強を誇る聖剣だと言われている。何でも光の刃を生み出す剣らしい」
「それは強そうだな……」
「だが、この大聖剣を扱えたのは後にも先にも初代勇者だけだ。これまでに召喚された勇者が使おうとしても、すぐに体力と魔力が根こそぎ奪われるせいで、全ての聖剣の中でも使用頻度は意外と少ない。だが、必ず使用された戦場では毎回勝利をもたらしたらしい」
「へえ……」
デュランダルとエクスカリバーの話を聞いたレイナは現在の自分では扱いこなせなさそうだと悟り、他の二つの聖剣を尋ねた。
「このカラドボルグはどういう剣なんですか?」
「そいつは世界で一番最初に作り出された聖剣だ。何でもエクスカリバーの原型らしいが、こいつの場合は金色の雷光を生み出すらしい。初代勇者が最も愛用した聖剣だ」
「雷光か……なら、このアスカロンは?」
「こいつは竜殺しと呼ばれる聖剣だ。実際に竜種を何体も屠った素晴らしい名剣らしいぜ?」
「竜殺し……」
レイナは店主の言葉を聞いてアスカロンに強い興味を抱き、そんな彼女の反応を見て店主は首をかしげるが、レイナは彼にショーケースを指差して模造品の聖剣を受け取れないのかを尋ねる。
「すいません、このアスカロンという聖剣だけ貰う事は出来ますか?」
「あん?おい、これはあくまでも客引きように作り出した剣だぞ?普通の武器と違って戦闘には使い物にならないし、ただの鑑賞用に作り出した偽物だ」
「それでもいいんです。お金は多めに払いますから貰えませんか?」
両手を合わせてレイナは頼み込み、その際に彼女の巨乳が揺れ動き、それを見た店主は目を見開く。これほどの美女に頼み込まれると男の性として断りにくい。
仕方なく店主はレイナに聖剣アスカロンの模造品の販売を決意するが、ここで悪戯心が芽生えた店主は意地悪そうな表情を浮かべて相場よりも高めの値段を突きつける。
「そうだな、こいつの材料代と作り出すのに掛かった時間を考慮して……だいたい、金貨10枚でどうだ?なんてな、はっはっはっ!!」
「金貨10枚……はい、払います」
「はあっ!?」
レイナはあっさりと店主の言葉に頷くと、カバンの中から袋を取り出し、金貨10枚を取り出して差し出す。咄嗟に反応して受け取ってしまった店主は唖然とした表情を浮かべ、レイナは微笑む。
「じゃあ、お願いします」
「あ、ああ……」
金貨を受け取った店主は本物かどうかを確かめるように眺め、間違いなく本物の金貨である事を確認すると、今更冗談でしたとは言い出せないのでショーケースを開く。
客引き用の代物とはいえ、本物に見劣りしないように精巧に作り出された剣である事は間違いなく、店主は鞘も用意してレイナに渡す。聖剣アスカロンの模造品を受け取ったレイナは満足げに頷き、店主に礼を告げるとついでに防具も販売しているのかを問う。
「あ、すいません。ここは防具も売ってますか?」
「防具?それなら店の奥に行けばあるが……嬢ちゃんの場合、ちょっと問題があるな」
「問題?」
「鎧とかだと、そのでかい胸が入らなないかもしれないからな」
「胸……なるほど」
店主は冷やかすようにレイナの大きな胸を指さすと、彼女は怒るどころか確認するように胸を鷲掴み、納得したように頷く。
胸の大きさを指摘すれば恥ずかしがるか、それとも怒るかと思っていた店長だったが、素直に納得してしまったレイナに対して逆に店主の方が焦ってしまう。彼は慌てて誤魔化すようにレイナでも装着できる防具を教える。
「あ、ああ……嬢ちゃんでも問題なく装備できるとしたら、ローブの中に頑丈で破れにくい奴があるぜ?」
「そうですか、ならそのローブを貰えますか?出来れば何か能力が付いている奴がいいんですけど……」
「それなら退魔のローブだな。魔法耐性上昇という能力が付与されている」
「魔法耐性上昇……ちなみにその能力を覚えていた場合、効果は重複されますか?」
「当然だ。そんな事も知らないのか?」
「すいません、ちょっと世俗に疎くて……」
レイナの言葉に店主は考え込み、あっさりと金貨を渡してきたり、値段が高めの商品でも躊躇なく購入し、それでいながら装備の能力と自身が覚えている能力が重複化される事も知らないレイナに店主はある予想を抱く。
(なるほど、この嬢ちゃんは貴族や商家の娘さんだな。よほど大切に育てられたのか少し世間知らずのようだな……装飾用の剣を欲しがる辺り、家に持ち帰って飾りにでもするつもりか?)
店主はレイナが何処ぞの金持ちの娘さんだと判断し、金を受け取った以上は言われた通りに品物を用意する。金さえ受け取れば誰であろうと品物を引き渡すのがこの武器屋の店主の信念であり、彼は客のえり好みをしない。
無論、あからさまに怪しい人間ならば話は別だが、レイナの場合は怪しいというよりも不思議な女性だった。
(俺が5年ぐらい若ければな……)
レイナの胸をチラ見しながらも店主は彼女の要望通りの品物を全て渡すと、ついでにレイナはアクセサリーが並んでいる棚に視線を向け、ブレスレットを発見する。
「すいません、その銀色のブレスレットもいくつか貰えますか?」
「ん?ああ、これか?欲しいならやるよ、どうせそんなに高くないしな」
「ありがとうございます!!」
アクセサリーを欲しがる辺り、女性らしさも持ち合わせているのかと考えながら店主は渡す。こちらの品物は色々と買ってくれたので無料で提供すると、レイナは店主に礼を告げて店を立ち去った――
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