第20話 能力強化

「となると、またこれに頼る事になるのか」

『小石――何の変哲もない小石』

「さあ……どうなる?」



そこら辺で拾ってきた小石を持ち上げたレイナは解析で詳細画面を開き、今回は「財宝」という文字へと変換させ、机の上に置く。


小石が光り輝くと形を変形させ、やがて机の上には大量の金貨と銀貨、更には宝石の類が出現する。慌ててレイナは机の上から零れ落ちないように抑え込み、ひとまずは確認を行う。



「うわっ、凄い!!本当に何でもありだなこの能力……これだけでも一生暮らせそうだな。でも、これってやっぱり偽造……いや、深くは考えないでおこう」



大量の金貨を手にしたレイナは額に汗を流し、とりあえずは他の人間に見つからないように隠す必要があり、何か入れ物はないかと探す。


ゲームや漫画などでは主人公が異空間に物体を収納するような能力を持っていたりするが、生憎とこの世界にはそのような万能な能力は存在しないらしく、能力一覧にも見当たらなかった。


生み出した財宝は金貨、銀貨、宝石の3つに分けてそれぞれを別の袋の中にしまい込み、クローゼットの中に隠す。部屋の中に使用人が入ってきて掃除を行う場合も想定し、小袋の中身を漁られないようにクローゼットには南京錠を施して鍵はレイナが持っておく。後で従業員に事情を話しておけば問題はなく、これで当面の生活には困らない。



「アリシア皇女が戻ってくれば俺が無実である事を証明してくれるはず……その時は覚悟しろよ、あのクズ大臣め」



ウサンの事を思い出すだけでレイナは腹が立ち、勝手に自分を殺人犯に仕立て上げようとした彼に対してレイナは憤るが、アリシア皇女が帰還するまで黙って待つしかない。


だが、それまでの間に何もせずに悠長に過ごすのも何なのでレイナはステータス画面を開き、この際に余った時間は自分のステータスの強化を行う事にした。



「SPは余っているから他の能力も覚えられるな。この際に色々と覚えておこう」



文字変換の能力を利用すればSPは何度でも増加させる事が出来るため、この際にレイナは覚えられる能力を全て習得し、貧弱な自分のステータスを強化を計る。



(能力の中には身体能力を強化する技能もある事は確認済みだし、それにレベルも上げておきたいな。アリシア皇女が戻るまでに俺も強くならないと……)



仮に誤解が解けて城へ戻れたとしてもダガンの訓練を受ける日々が待ち構え、それに魔物と戦う日も訪れるだろう。


その時までにレイナは出来る限り強くならねばならず、役立ちそうな能力を優先的に習得を行う。先日の「握力」や「跳躍」の技能のように役立ちそうな能力を選んで習得を実行した。



「お、この二つは良さそう。覚えておこう」

『経験値増加――経験値が1.5倍に増加』

『必要経験値減少――レベルアップに必要な経験値が10%減少』



経験値を増加する技能と、レベルを上昇させる際に必要な経験値の量を減少させる技能を発見したレイナはすぐに習得を行う。すると視界の端に画面が表示されている事に気付く。



『SPを使用して「能力強化」を行えます。強化しますか?』

「ん?何だこれ……能力強化?」



説明文を確認すると、どうやら既に覚えている技能を強化する事が出来るらしく、該当する技能は5つ存在した。現時点でレイナが強化できるのは「攻撃強化」「防御力強化」「速度強化」「経験値増加」「必要経験値減少」の5つが強化可能な状態だった。


能力強化を行えば既存の技能の性能がさらに上昇するらしく、こちらの場合はSPの消費量も「10」らしく、試しにレイナは「攻撃強化」の能力強化を行う。



「こうすればいいのかな……どうだ?」

『怪力――攻撃力が3倍化』

「おお、上手くいった。あ、しかもまだ強化できるみたいだ……って、SP消費量が30!?」



攻撃力が一気に3倍まで上昇し、更に能力強化を行えることが判明した。但し、次の強化に必要なSPの消費量も増加し、今度は「30」も消費しなければならない。



「これを強化するとSPが使い切るな……よし、他の技能を強化させてから文字変換でSPを増加させるか」



続いてレイナは「防御力強化」と「速度強化」を能力強化を行い、それぞれを「俊足」と「硬皮」という技能に変化させる。


どちらも「怪力」と同様にそれぞれの能力を3倍化するらしく、これでSPが「10」になったレイナは文字変換の能力を発動させて更なる強化を行う。



「よし、怪力をまた強化してみるか。どうなるんだろう……」

『剛力――攻撃力を4倍化』

「おお!!」



剛力はこれ以上の強化は出来ないようだが、それでも十分な性能を誇り、一気に攻撃力が4倍と化したレイナは歓喜の声を上げる。


続けて俊足と硬皮の強化も行おうとしたが、その前に「経験値増加」と「必要経験値減少」の強化も行う。



「よし、どうだ!?」

『経験値倍加――入手する経験値が倍増』

『必要経験値削減――レベルアップに必要な経験値を30%減少』



画面に表示された文字を見てレイナは嬉しい声を上げ、一気に今後のレベル上げが楽になりそうな感じになった。


だが、この二つの能力はこれ以上の強化は行えないらしく、能力強化の画面が消えてしまう。どうやら能力の限界を極めたらしい。



「流石にこの二つはもう強化出来ないのか。よし、SPをまた増加させよう……おっと、その前に別の新しい能力を覚えておくか」



残りのSPが「20」になり、レイナは文字変換の能力でSPを増加させる前に適当な能力を覚えようとすると、能力一覧の中で気になる技能を発見する。



「お、これってもしかして魔法の耐性を強化させる能力か?」

『魔法耐性上昇――レベルアップ時の魔法耐性の上昇率が高まる』



覚えれば一気に強化されるわけではなく、レベルアップするときの能力値の上昇率が高くなる技能らしく、レイナは早速覚えて文字変換でSPを増加させ、最後の能力強化を行う。



『金剛――防御力が4倍化』

『神速――速度が4倍加』

「やった!!」



夜中にも関わらずレイナは思わず大声を上げてしまい、慌てて声を抑えながらも画面に表示された文字を見て笑顔を浮かべた。


これで単純に考えればレイナの能力値は魔法耐性を除いて4倍加した事になり、更に新しい画面が表示された。



『条件を満たしました。固有能力「瞬動術」を獲得しました』

「ん?なんだ、瞬動術?」



今まで固有能力の項目には「解析」しか存在しなかったが、唐突に「瞬動術」という能力が発現し、不思議に思ったレイナは確認を行う。



『瞬動術――神速と跳躍を組み合わせた高速移動術』

「へえ、特定の技能を覚えると固有能力にもなるのか……名前の響きから察するに一瞬で移動を行う術なのかな?」



解析以外に覚えた初めての固有能力にレイナは興味を示し、試しに明日の朝に人気がない場所で試す事を考える。


この調子でどんどんとSPを増加させながらレアは新しい能力を覚えていこうとした時、視界に見た事もない画面が表示された。



「技能の習得限界を迎えました。現段階のレベルではこれ以上の習得は行えません。習得限界数が解除されるレベルは「15」です」

「えっ!?ちょっと待って、技能って無制限に覚えられるわけじゃなかったの!?」



画面に表示された文字を見てレイナは驚愕し、現時点のレベルではもう技能を覚えられない事を知って衝撃を受ける。まさか習得できる技能に制限数が存在するとは思わず、残念そうに画面を閉じた。


新しい能力を覚えるためにはレベルを上昇させなければならず、そうなると魔物と戦う必要があった。しかし、訓練では体力作りしか行っていないレイナは戦闘技術は備わっておらず、今の時点で魔物に対抗出来るのか不安な点はある。だが、技能を色々と覚えた事でステータスも確実に強化され、更にレイナには奥の手がある。



「……よし、明日街の外へ行ってみよう」



王都の周辺は草原が広がっており、魔物が生息しているという話はダガンから聞いており、レイナは覚悟を決めて明日は王都を抜け出す事を決めた。


恐らくは「レア」が城から抜け出した事で帝都の警備兵が検問を行っている可能性もあるが、その場合は城内から脱出したときのように技能を駆使して抜け出せば問題はない。


街の外にどんな魔物が生息しているのかは分からず、念のために情報収集を行う必要があり、明日の朝に目を覚ましたらレイナは宿屋の人間に話を聞いてみる事にして今日は休むことにした――

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