第19話 買い物

――食事を終えた後、レア改め「レイナ」は外へ出向き、まずは服屋に訪れて衣服と下着の類を購入する。その際に女性従業員にしつこく絡まれ、着せ替え人形のように様々な衣服を身に着ける羽目になった。


結果から言えば動きやすさを重視した服を何着か購入する。ついでに現在の肉体のサイズも計ってもらい、下着も一緒に購入した。



『あ、すいません。弟の贈り物として男物用の服も欲しいんですけど……』



立ち去り際に男物用の衣服も一緒に購入を行うと、手持ちの金の殆どが尽きてしまい、残されたは銅貨が1枚と鉄貨が3枚程度だった。


一応は夜を迎えれば文字変換の能力が回復し、適当な道具を利用して金を作り出す事は出来る。ほとぼりが冷めるまでの間は大人しくしなければならず、レイナは宿屋へ向かう。



(予想以上に巡回する兵士の数が多いな。これだと、男の姿で行動すればすぐに見つかりそうだな……しばらくの間はこの姿で過ごさないと駄目かもしれない)



建物の壁に張り付けられた自分の手配書を確認してレイナはため息を吐き出し、これでは男の姿では外へ出歩く事も出来ず、大人しく宿屋に引きこもるしかなかった。


だが、帰り道の途中で兵士でないにも関わらず武器や防具を装備している人間をよく見かけ、彼等の大半は胸元にバッジを嵌めていた。



(もしかしてあの人達が冒険者という奴か?けど、バッジの色が違う人も居る。バッジの色合いで階級を示しているのかな……)



大抵の人間のバッジは「茶色」だが、中には「銀色」や「金色」のバッジを身に着けている人間も存在し、中には人間離れした姿かたちをした者も存在した。


身長が3メートルを超える大男、金髪の髪の毛に耳元が以上に長く伸びた女性、他にも身長が120センチ程度しか存在せず、顎髭を胸の部分まで伸ばした老人の姿も見かけた。


この世界には人間以外にも様々な人種が存在するらしく、恐らくRPGでは定番の「エルフ」や「ドワーフ」や「巨人」なども実在するのだろう。地球ではあり得ない人々の姿を見てレイナは改めてここが異世界だと思い知らされる。



(この様子だと獣耳を生やした人間とかも居そうだな……ん?あの店は武器屋かな?)



大きな剣と盾が重なったような看板を掲げている建物を発見したレイナは覗き込むと、先ほどから見かけるバッジを取り付けた人間の姿が多くみられ、予想通りに武器や防具の類が販売されていた。



(武器はちょっと見て見たいけど、この姿だと場違いかな……いや、若い女の人も結構居るな)



見せの中にはレイナと同年代と思われる女性の姿もちらほらと見えたが、現時点では資金に余裕もないので仕方なく店を後にして立ち去ろうとした。


しかし、レイナは店の出入口付近に存在するショーケースに見覚えのある武器がある事に気づき、驚いた彼女はショーケースに近付いて武器を覗き込む。。



(これは……まさか、フラガラッハ!?どうしてここに……)



ショーケースの中にはアリシア皇女が所持しているフラガラッハと瓜二つの長剣が存在し、どうしてこの店にフラガラッハが存在するのかと驚いたが、即座にレイナは解析を発動させて様子を調べる。



『フラガラッハ(模造)――伝説の聖剣フラガラッハの模造品。性能は大きく劣り、特別な能力は付与されていない。装飾用の剣』



表示された文字を確認してどうやら客引きのために飾られている模造品だと判明した。レイナは安心した表情を浮かべ、同時にフラガラッハ以外にも色々な剣が飾られていることを知る。


今は資金に余裕はないが、念のためにどんな武器や防具が売却されているのかを確認するべきかと考え、店内に入り込む。



「いらっしゃい……おや、随分な美人さんがやってきたな」

「え、あ、どうも……」

「護身用の武器が欲しいのなら壁際の棚にありますよ」



店の中に入って早々に背がやたらと低い男性に話しかけられ、恐らくは「ドワーフ」と思われる種族らしく、店の中に入って来たレイナに朗らか笑みを浮かべる。周囲の者達もレイナを見て少しだけ注目するが、すぐに気を取り直して店の中の商品に視線を戻す。


あまり長居すると目立つと判断したレイナはショーケースに並べられている武器を確認し、どうやらフラガラッハ以外にもいくつかの剣と盾が設置されている事を知る。



『アスカロン(模造)――伝説の聖剣アスカロンの模造品。性能は大きく劣り、特別な能力は付与されていない。装飾用の剣』

『デュランダル(模造)――伝説の聖剣デュランダルの模造品。性能は大きく劣り、特別な能力は付与されていない。装飾用の剣』

『カラドボルグ(模造)――伝説の聖剣カラドボルグの模造品。性能は大きく劣り、特別な能力は付与されていない。装飾用の剣』

『エクスカリバー(模造)――伝説の大聖剣エクスカリバーの模造品。性能は大きく劣り、特別な能力は付与されていない。装飾用の剣』

『アイギス(模造)――伝説の盾アイギスの模造品。性能は大きく劣り、特別な能力は付与されていない。装飾用の盾』

『アイアス(模造)――伝説の盾アイアスの模造品。性能は大きく劣り、特別な能力は付与されていない。装飾用の盾』



どうやらショーケースに並べられている品物は全て模造品らしく、本物は存在しなかった。神話で出てくる武器や盾の名前が使われている辺り、どうやらこの世界召喚された初代勇者が作り出した代物だと考えられた。



(なるほど、これがこの世界で伝説になっている武器と盾か……)



レイナはこの際にしっかりと名前を覚えておくと、店主と思われる男性に頭を下げて店の外へ出ようとした時、背後から誰かに肩を掴まれる。



「すまない、そこの君。少し顔を見せてくれないか?」

「えっ?」



唐突に何者かに呼び止められたレイナは反射的に振り返ると、そこには随分と身長が高い女性が存在した。かなりの美人で銀髪の髪の毛を腰元まで伸ばし、美しく凛々しさを感じさせる綺麗な顔立ちの女性だった。体型の方もまるでモデルのようにスタイルが良く、アリシア皇女と似たようなデザインの鎧を身に着けていた。


女性は何故か右手にだけ手袋を装着しており、レイナの肩を掴みながらしばらくの間は顔を見つめ、やがて口元に笑みを浮かべてレイナに謝罪を行う。



「いや、すまない。君が美人だったからよく顔を見たくてね。引き止めてしまって悪かったね」

「は、はあ……きょ、恐縮です?」

「では、失礼」



レイナに謝罪の言葉を掛けると女性はそのまま店から立ち去り、去り際の彼女の手に手配書が握り締められている事に気付いたレイナは、まさか自分の正体を見破られたのかと思ったが、今のレイナは男の時の面影が少し残ってはいるが、完全な別人へ変化を果たしている。



(あの人、誰だろう……あれ?でも、さっきの声……何処かで聞いたような気がする)



女性の後姿を見送りながらレイナは先ほどの女性の声に聞き覚えがある気がしたが、これ以上に顔を合わせるのは不味いと判断したレイナは早急に宿屋へ戻る事にした――





――それからしばらく時間が経過した後、時刻は深夜を迎えて文字変換の能力が回復したのを確認したレイナはステータス画面を開き、今後の方針を考える。



「よし、まずはしばらくの生活費を稼がないとな……まずは当面の生活費をなんとかしないといけないか」



昼間に日用品買物を行った事でかなりの金額を消耗し、さらに宿の風呂を使う場合は宿代とは別料金を支払わなければならず、それを知らずに入ってしまったレイナは殆ど所持金がなくなってしまう。この世界では風呂は貴重らしく、普通の人間は毎日は風呂は入れないらしい。

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