第15話 スキルの習得

「眠れ」

「はっ?お前、何を言ってぇっ……!?」



レアがステータス画面の状態の項目を「健康」から「気絶」に変換させた瞬間、兵士は振り返ろうとしたが、突然に意識が遠くなって倒れ込む。


運がいい事に牢に身体を預ける形で倒れ込み、兵士の腰に装着されていた鍵が鉄格子越しでも回収できる位置に移動した。


兵士が気絶したのを確認してレアは握り拳を作り、同時に状態の項目を変換させた場合、現実でも必ずしも同じ状態に陥ることを確信した。死の淵に追い込まれていたレアや雛も回復した辺り、想像以上に使い勝手が良い。



「よし、次はこの縄だな。適当な文字に変換させて……待てよ?」



続いてレアは自分の手足を拘束している縄を解除しようとしたが、不意に頭の中に以前にSPを習得しようとした時に確認した「能力一覧」の画面を思い出す。


SPを消費すると覚えられる能力スキルの中に拘束を抜け出す関連の能力がある事を思い出したレアはステータス画面を開き、確認を行う。



「あった……これを覚えれば抜け出せるかな?」

『縄抜け――縄や鎖で身体を拘束された状態のみに使用可能。関節を外し、拘束から抜け出す事が出来る』



未収得の能力の一覧の中からこの状況下に打って付けの能力を見つけ出したレアは悩み、現在のステータス画面を確認する。


残念ながら能力を習得するのに必要なSPは「10」に対し、現時点のレアのSPは「9」しか存在しない。数値が一桁の状態では文字変換の能力でも9以上の数に増やす事は出来ず、思い悩む。



「……あの方法、試すか」



覚悟を決めたレアはステータス画面に指先を構え、ゆっくりと「レベル」の項目へと近づける。そして覚悟を決めて文字変換の能力を発動させると、レアのレベルが「2」に変換した瞬間に肉体に激痛が走った。



「ぐううっ……!?」



身体中の骨が軋み、筋肉が痙攣を起こしたかのような激痛が襲いかかるが、それでもレアは意識を保ち、生き残るためにステータス画面を確認する。


SPの項目を確認すると、レベルが上昇した事で数値が「10」に変換している事を視認すると、震える腕を伸ばしてSPの数値を書き換えた。



「このぉっ!!」



全身の激痛に耐えながらレアはSPの数値を「91」に変換させた後、即座にレベルを「1」へと戻す。その結果、肉体の激痛が消え去り、床に倒れ込む。これで文字数は使い切ってしまったが、もうしばらく時間が経過すれば日付は変更した時点で文字数は元に戻る。



「……やった、出来た!!」



レアは痛む身体を耐えながらステータス画面を確認すると、SPの数値が「90」と表示されている事を確認して笑みを浮かべる。


レベルを上昇させてSPを「10」にした後、続けて文字変換で「91」という数字に書き換え、あとはレベルを戻せば「1」だけSPが元に戻って残りの数値は「90」となる。


激痛によって身体はまともに動けないが、どうにか大量のSPの確保に成功したレアは身体を起き上げ、日付が更新されるまでは能力一覧を確認して脱出に役立ちそうな能力を次々と習得していく。ここで注意しなければならないのは調子に乗って全てのSPを消耗する事であり、最低でも10だけでも残しておけば良い。


ちなみに最初は「99」という数字に書き換えようとしたレアだが、あまりの激痛で最後の一の単位の数字を書き換えるのが難しく、結局は数字の中で最も書きやすい「1」を書き込んでしまう。



(本当なら次の文字変換で99に変更させた後、またレベルを上昇させて数値を三桁まで増やしたい所だけど……またあの痛みに耐えきれる自信はないし、そもそもSPの数値が三桁まで上昇するとは限らない以上は無理は出来ないか……)



この世界のレベルの上限はどの程度なのかはレアは知らないが、仮にレベルが「99」で打ち止めの場合、SPの方も99が限界という事になる。それ以上の数値が存在するのかは分からず、仮にSPの限界値が99の場合だったらレアの考えたは破綻してしまう。


あまりに欲張らずにレアは現時点で覚えられる能力の確認を行い、まずは「縄抜け」と呼ばれる能力を習得して効果を試す。SPの使用するのはレアも初めてだが、まるで最初から使い方を知っていたかのように習得に成功する。



『技能「縄抜け」を習得しました』

「なるほど、覚えたい能力がある場合は強く念じるだけで習得できるのか」



ステータス画面を更新され、無事に「技能」の項目に「縄抜け」の能力が追加された事を確認すると、レアはまずは両手と両足を拘束している縄から抜け出そうと踏ん張る。


すると、勝手に肉体が動いて手首と足首の関節が外れ、手品のように簡単に縄から抜け出すと関節が戻った。



「いでぇっ!?くそっ……関節を外したときの痛みは感じるのか」



縄抜けの能力は関節を外したときと戻したときの痛みまでは消す事は出来ないらしく、両手と両足を痛めてしまう。だが、やっと自由を取り戻したレアは続いて脱出に役立ちそうな能力を次々と覚えていく。



(この際に役立ちそうな能力は全部覚えるか……まずはここから逃げ出さないとな)



牢獄を抜け出したとしても他の兵士や使用人に見つかれば命はなく、レベルが1で最低の能力値であるレアでは他の人間に見つかった時に戦闘に陥っても勝ち目はない。なので出来る限り人目を避け、城から抜け出す際に役立ちそうな能力を吟味して習得を行う――





――30分後、遂に日付が更新されたらしく、文字変換の能力が発動可能になったレアは状態の項目を「健康」に変換させ、身体の傷と疲れを癒す。そして気絶した兵士から鍵を奪い取り、牢獄からの脱出に成功した。



「よし、あとは抜け出すだけだな……」



牢獄から抜け出したレアは兵士の様子を伺い、本当なら身包みを剥いで装備を奪い、城の兵士に変装すれば簡単に抜け出せるのではないかと思ったが、よりにもよってレアの見張りをしていた兵士の身長は180センチを超え、体格も違い過ぎていた。


せいぜい身長が160センチ程度で痩せているレアが兵士の装備を身に着けても服も鎧も体型が合わず、他の人間に怪しまれるのは間違いない。



「一応は他の奴に助けを求められないように檻に閉じ込めておくか……」



気絶した兵士を代わりレアは牢の中へ運び込み、施錠を行う、その後はすぐにレアは早速覚えた「技能」を発動させた。



「暗視」



まずは暗闇の中でも周囲の状況を把握できる「暗視」と呼ばれる技能をレアは発動させると、先ほどまでは薄暗く感じられた牢獄の風景が細部まで確認できるようになった。


時間帯は深夜を迎えているため、この技能は間違いなく役立ち、続けて他の人間に気付かれないために覚えた技能を発動させる。



「気配遮断、無音歩行」



自分の気配を完全に消し去る「気配遮断」さらに移動時の際に足音が鳴らなくなる「無音歩行」の技能を発動させると、試しにレアは牢獄の中を駆け出す。すると本当に足音が消え去り、全力疾走を行おうと兵士に気付かれることはない。



「隠密」



続けて今度は存在感を極限まで消し去る「隠密」を発動させると、レア自身は特に変化は感じられないが、他の人間には今のレアの姿は半透明になったように認識されにくい状態へ変化していた。これならば遠目で誰かに見られようと気付かれる恐れはなくなり、脱出の準備を整う。



(よし、準備は整った……念のためにステータスを確認しておくか)



自分が覚えた技能を再確認するためにレアはステータス画面を開くと、能力の確認を行う。




―――ステータス―――


称号:解析の勇者


性別:男性


年齢:15才


状態:健康


レベル:1


SP:10


―――――――――――


技能


・翻訳――あらゆる文字・言語を翻訳できる


・縄抜け――縄や鎖で身体を拘束された状態のみに使用可能。関節を外し、拘束から抜け出す


・暗視――暗闇の中でも周囲の光景を把握できる


・気配遮断――完全に気配を消し去る


・無音歩行――徒歩での移動の際、足音を鳴らさない


・隠密――存在感を消し去り、他物の目から見えにくくなる


・腕力強化――攻撃力が倍加


・防御力強化――防御力が倍加


・脚力強化――速度が倍加



―――――――――――






ステータス画面を確認したレアは頷き、攻撃力と防御力と速度の数値も無事に強化されている事を確かめると、本格的に脱出へ向けて行動を開始した。

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