第14話 冤罪
「――何時まで眠っている!!とっとと起きろっ!!」
「っ……!?」
気絶していたレアの肉体に冷水が浴びせられ、意識が覚醒する。レアは身体を起き上げようとしたが、自分の両手首と足首が縄で縛られている事に気付き、口元には猿轡を咥えさせられている事を知る。
一体何が起きているのかとレアは周囲の様子を確認すると、自分が牢獄のような部屋の中に閉じ込められている事に気付く。
「んんっ!?んぐぐっ……!!」
「ふん、やっと目を覚ましたか……この悪党め!!」
鉄格子越しに聞き覚えのある声を掛けられたレアは視線を向けると、そこにはウサンが憎々し気な表情を浮かべて立っていた。
そして彼の手にはレアが作り出した「フラガラッハ」が鞘越しに握り締められていた。レアは自分の身に何が起きているのかを問い質そうとしたが、口も塞がれているので上手く話せない。
「ふうっ……ふうっ……!!」
「ふん、自分の状況を理解し切れていないようだな!!ならば教えてやろう、お前は囚人だ!!それまでの間、ここで大人しく待機してもらうぞ!!」
「ふぐぅっ!?」
「おい、奴の猿轡を外せ。抵抗するようなら痛めつけても構わん」
「へいっ」
囚人という言葉にレアは目を見開き、どうして自分が処刑されなければならないのか抗議しようとするが、ウサンはそんな彼を見て檻の前に立っていた兵士に命令する。
大臣の言葉にたれ目の兵士は檻の中に入ると、レアの猿轡を解放して喋れるようにした。兵士はそのまま檻の中でレアを抑え込み、強制的にウサンの方へ顔を向けさせる。
「さあ、貴様には色々と答えてもらうぞ。何故、ヒナ殿と我が国の兵士達を殺そうとした?そして、どうしてお前がアリシア皇女が所有権を持つこの聖剣を持っている?全て吐け!!」
「違う、俺は誰も殺そうとなんかしていない!!話を聞いてください!!」
「黙れ!!貴様がヒナ殿の胸元に短剣を突き刺していたのを我々はこの目で見ているのだ!!」
レアはウサンの言葉を聞いて自分が雛を殺そうとした犯人と勘違いされている事に気付き、しかも侵入者が負傷させた他の兵士達も自分が傷つけたと勘違いされている事を知る。
必死にレアは否定するが、雛を救い出す際に彼女の胸元から短剣を引き抜いた場面を見ていたウサンと他の兵士達は、彼が雛を殺そうとしていたようにしか見えなかったのだ。
侵入者の行為が全てレアのせいだと思い込んだウサンと他の兵士達によってレアは拘束され、城内の牢獄へ閉じ込められたらしく、ウサンは兵士にレアを拘束させたまま聖剣を突き出す。
「この聖剣を何処で手に入れた!!これはアリシア皇女しか所有する事が許されていない聖剣だぞ!?一体どうやってアリシア皇女から盗み出した!!」
「それは盗んだんじゃない!!俺の加護の能力で……」
「黙れ!!しかも鑑定士に調べさせた所、聖剣の所有者の名前がお前になっている事は判明している!!つまり、アリシア皇女を殺して聖剣を奪ったのはお前しか考えられん!!」
「えっ……殺したって、何の話だ!?」
「しらばくれおって!!」
ウサンの言葉にレアは驚愕し、どうして自分がアリシア皇女を殺した事になっているのかを問うと、ウサンは牢獄の中に入り込んでレアの腹部を蹴りつける。
「ぐはっ!?」
「聖剣の力を解放できるのは聖剣の所有者のみだ!!聖剣の所有者が変わった場合、それは前の所有者の死を意味する!!聖剣の所有者が死なない限りは所有権が他人に移り変わるなど有り得ん!!つまり、貴様がアリシア皇女を殺して聖剣を奪ったのだろう!?さあ、正直に吐けっ!!」
「ち、ちがっ……!?」
聖剣の力を発揮できるのは聖剣の所有者しか出来ないという事を初めて知ったレアは戸惑い、どうやらウサンは鑑定士と呼ばれる職業の人間にレアの作り出した「フラガラッハ」の事を調べさせ、所有権がレアになっている事を知ったらしい。
所有者の名前が変更されていた事からウサンはレアが何らかの方法でアリシア皇女からフラガラッハを奪い去り、自分の物にしたと勘違いしていた。
何度もレアを痛めつけるために蹴りつけた後、荒い息を吐きながらウサンはレアの頭を掴み、尋問を行う。だが、何度問いかけられようとレアの答えは変わらず、自分は殺人鬼ではないし、聖剣も奪ったのではない事を告げる。
「俺は……誰も殺していない、傷つけようともしていない……聖剣も盗んでいない……!!」
「強情な奴め……!!もういい、数日後に皇帝陛下がケモノ国との会談からお戻り次第、貴様の処刑を進言する!!言っておくが、他の勇者の助けは期待するな!!既に他の勇者にはお前がヒナ殿を殺そうとしていた事を伝えているからな!!」
「……何だって?」
皇帝が別の国との会談のために帝都から離れているという事はレアも聞かされていたが、既にウサンは他の勇者たちにレアが雛を殺そうとしていたと話を伝えているという事にレアは目を見開く。
雛の事を大切に想っている瞬と茂ならばこの話を信じればレアを許すはずがなく、仮に雛の意識が戻って彼の無実を証明しなければ現時点で城内にレアの味方をしてくれる人間はいない事を意味する。
「いや、わざわざ皇帝陛下の手を煩わせるまでもない。貴様は明日の朝に処刑してやる、それが嫌ならばどうやってアリシア皇女から聖剣を奪った経緯を話す事だな。明日の朝まで時間をやろう、今日一晩で頭を冷やして罪を認めんだな!!」
「……くそ野郎がっ」
最後のレアの呟きは聞こえなかったのか、ウサンは鼻息を鳴らすと牢屋から抜け出し、レアを抑えていた兵士も彼を解放して牢から抜け出す。兵士は見張り役なのか牢の前で立ち止まると、面倒そうに呟く。
「たくっ……とんでもない事をしてくれたな。お前、絶対に殺されるぞ」
「俺は……無実だ」
「ふん、強情な奴だ。正直に白状する気になったら俺に話しかけろよ」
兵士はそのままレアに背中を見せて立ち尽くし、見張り役と言ってもレアの監視を行うつもりはないのか面倒そうに座り込む。
どうやらこちらの牢獄には他に捕まっている人間や兵士の姿は見当たらず、レアだけが檻の中に閉じ込められていた。
(くそっ……何でこんな事に)
レアは必死に雛を救い出すために侵入者を追跡し、雛の命を救おうとした。だが、ウサンの勘違いによって痛めつけられ、しかもありもしないアリシア皇女の殺害容疑まで掛けられてしまう。
先ほどのウサンの話が本当ならば他の勇者の救援も期待できず、とりあえずは身体を起き上げて文字変換の能力の確認を行う。
『文字数残数:6文字』
表示された文字数を確認してレアはまだ日付が変化していない事を知り、夕方ごろに気絶した事を考えても時刻は夜中である可能性は高いと判断する。もう少し待てば文字数が更新されるため、今の内にレアは「脱出」の準備を行う。
(このままだと明日の朝には処刑される……聖剣が俺が作り出したと言ってもあのくそ野郎が信じてくれるとは思えない。なら、逃げ出すしかない……!!)
レアは自分の文字変換の能力を利用して牢獄を脱出する事を決意すると、まずは邪魔な見張り役の兵士を排除するために解析の能力を発動させた。
―――ディーン―――
称号:剣士
性別:男性
年齢:31才
状態:健康
レベル:21
SP:1
――――――――――
兵士の名前は「ディーン」といういらしく、流石に見張り役の兵士だけはあってレベルもレアよりも高く、仮に牢を抜け出したとしても戦闘になればレアはでは勝ち目がない。
しかし、手首を縄で縛られても指先は自由に動ける事が幸いし、すぐにレアは「状態」の項目を文字変換の能力で別の文字へ書き換える。
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