第13話 侵入者を追って
「ぶはぁっ!!し、死ぬかと思ったぁっ!!」
どうにか死亡寸前でステータス画面の状態を変更させた事により、死の淵から蘇ったレアは立ち上がると、胸元の傷を確認して驚いた表情を浮かべる。
どうやら状態を「健康」に変換すると致命傷でさえも一瞬で完治するらしく、しかも流した血液さえも消え去っていた。
胸元の服は短剣で切り裂かれた痕跡は残っているが、傷口の方は完全に消え去っており、先ほどまでの身体の疲労も吹っ飛んでいた。安心する一方、レアは自分の作り出したフラガラッハが奪われた事を思い出す。
(しまった!!剣を奪われた……いや、それよりもあいつが言っていた言葉、まさか!?)
侵入者が呟いていた言葉から侵入者の目的は「勇者」で間違いなく、レアを刺した後に次は「女」を狙うと言っていた。
この事から考えられるのは侵入者の次の標的は「卯月 雛」であると思い、レアはすぐに廊下へ飛び出す。だが、既に侵入者の姿は見えず、運が悪い事に他の兵士や使用人も見えない。
(卯月さんの部屋は……確か、二階のはずだ!!)
他の勇者たちは大きな個室を割り当てられている事を思い出したレアは二階の階段へ向けて駆け出し、雛が侵入者に襲われる前に救い出すために走る。階段へ辿り着くと、そこには異様な光景が広がっていた。
「ううっ……」
「あ、足がっ……」
「く、くそっ……」
「なっ……大丈夫ですか!?」
階段には倒れ伏した兵士達の姿が存在し、全員が負傷した状態で倒れていた。慌ててレアは彼等の容体を確認すると、どうやら致命傷を負った人間はいなかた。
だが、自力で動く事は出来ない程に傷つけられているらしく、状況から考えるに先ほどの侵入者の仕業としか考えられず、更に上の階から悲鳴が上がる。
「すいません!!すぐに戻りますから!!」
負傷した兵士を介抱する暇もなくレアは階段を駆け上り、二階の廊下へと辿り着く。既に廊下にも数人の兵士が地面に倒れ伏していた。
どうやらこちらは気絶しているのか目を覚ます様子はない。レアは廊下の角で人影を発見し、侵入者だと判断したレアは急いで雛の部屋へ向かう。
(確か、大木田君と佐藤君の話だと角を曲がればすぐに辿り着けるはず……ここか!?)
廊下の角を曲がると、既に開け放たれた扉を発見したレアは駆け込み、侵入者が雛の部屋へ入り込んだと判断して中の様子を伺う。すると部屋の奥からガラスが割れるような音が鳴り響き、慌ててレアは駆けつける。
「卯月さん……!?」
――部屋の中へ入り込んだ瞬間、レアは血の臭いを感じ取り、急いで奥へ向かうとそこには壁際に背中を預けた状態で動かない雛の姿が存在し、傍には血で濡れたフラガラッハが落ちていた。その様子を確認したレアは目を見開き、雛の元へ向かう。
「卯月さん!!しっかりして!!卯月さっ……卯月!!」
「…………」
雛に声を掛けても返事は戻らず、彼女の胸元には深々と突き刺さった短剣が存在した。それを確認したレアは自分の胸元を突き刺した短剣と同じものだと悟り、やはり彼女は侵入者に襲われた事を悟る。
ベッドの傍に存在する部屋の窓が破壊されている事から、どうやら犯人は窓を破壊して逃げ出したらしく、レアは窓の外を覗き込むと丁度裏庭の風景が確認できた。だが、侵入者らしき人影は見当たらず、兵士と使用人が数人見えるだけで侵入者の姿は見えない。
「こ、これは……どういう事だ!?」
「あそこの窓が急に割れて……あっ!?誰か居ます!!」
「あれは勇者様の……どうしてヒナ様の部屋に!?」
裏庭に立っていた兵士と使用人も雛の部屋の窓が割れた事に気付いたらしく、窓から外を覗くレアの顔を確認する。
何か嫌な予感がしたレアはすぐに窓から離れると、即座に雛を治療するために彼女の胸元に突き刺さっている短剣に手を伸ばす。
「雛さん、痛いかもしれないけど我慢して……このっ!!」
「っ……!?」
短剣を引き抜くと雛は僅かに反応を示し、まだ生きている事を確認したレアは彼女の治療を行うために解析の能力を発動させる。ここでレアは人間に解析を使用した場合、その人間のステータス画面が表示される事に気付く。
―――卯月 雛―――
称号:魔法の勇者
性別:女性
年齢:15才
状態:瀕死
レベル:10
SP:10
――――――――――
雛のステータス画面が表示され、それを見たレアは安堵の息を吐き、即座に文字変換の能力を発動させて「瀕死」の項目を「健康」へと変化させようと手を伸ばす。だが、その時に背後から大勢の人間の足音が聞こえ、部屋の中にウサンと兵士達が入り込む。
「ヒナ殿!!ご無事か……お、お前はっ!?」
「えっ?」
文字変換の能力を発動させる直前、レアが雛から引き抜いた血塗れの短剣を握り締めた姿をウサンとその他の兵士達は確認してしまう。直後に雛の胸元の傷口が塞がり始めるが、彼女の胸元の服は大きく切り裂かれ、傍には血で染まったフラガラッハが落ちていた。
状況的に見ても気絶している雛の目の前で血塗れの武器を手にしているレアの姿を見てウサンは顔色を青くさせ、彼は兵士に命じてレアを捕縛するように命じる。
「こ、こいつを捕らえろっ!!賊だ!!こいつが犯人だ!!」
「えっ!?いや、違うっ!!俺がやったんじゃないっ!!」
「だ、大臣……本当に捕まえるのですか?相手は勇者様……」
「何を言っておる!?この状況を見ろ、こ奴がヒナ殿を襲った事は間違いない!!早く捕まえるのだ!!」
「違う!!話を聞いてください!!俺じゃなっ……」
自分が雛を襲ったわけではない事を証明するためにレアは近づこうとしたが、その際に自分がまだ血に染まった短剣を握り締めている事に気付かなかった。
血塗れの短剣を握りしめるレアを見てウサン今度は自分を殺すつもりかと恐怖を抱き、握り締めた杖を構えて魔法を発動させる。
「黙れ、儂に近づくなっ……ボルト!!」
「ぐあっ!?」
ウサンの杖先から電流が迸り、そのままレアの肉体に向けた瞬間に電撃が放たれ、彼の身体に高圧電流が流し込まれる。レアはそのまま地面へ倒れ込み、その様子を確認したウサンは兵士に命じてレアを捕縛するように命じた。
「こいつを牢に運び込め!!いや、その前にヒナ殿を医療室に運べ!!早くしろ、何としてもヒナ殿を死なせるな!!」
「は、はいっ!!」
「ま、待って……ちが、うんだ……!?」
意識が途切れる寸前、レアは自分が無実である事を主張したが、この状況では誰もレアの事を信じられるはずがなく、そのまま彼は意識を失ってしまう――
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