元婚約者との再会
戻った日常
グリーデン事件が解決してから一週間。
私はいつも通り、店を開けて営業をしていた。通常営業だね、要するに。
ネロちゃんもいつも通りに店を手伝ってくれてるし、サラ…いや、ケイもグリーデンの事件から私のお店を手伝ってくれるようになった。
彼女に理由を聞くと、身体を動かして働きたいんだってさ。
大貴族の娘なのにアクティブな娘だなと改めてそう思ったよ。
ネロちゃんもグリーデンとの再会から、少し明るくなった。
たまに笑顔を見せるんだが、そのギャップがたまらなく可愛いと男性客が何故か急上昇中だ。
残念ながら、ウチはそういうお店では無いんだけどなぁ。
それはそれとして、私としては気になっている点が一つある。
「それで、なんで君がウチに居るのかな?」
「………」
コーヒーを啜るラデンを前にして私は彼女にジト目を向けながらそう問いかける。
というかグリーデンの件は? 片付いていないだろうよ、なんでエンパイア・アンセムが私の目の前に居るのか理解できない。
確か、グリーデンと一緒に帝国に帰ったんじゃなかったっけ? 貴女。
すると、コーヒーを飲んでいたラデンはそれをテーブルに置くとゆっくりと私に話をしはじめる。
「サラ様の件もございますし、引き続き私は護衛として派遣されました。
グリーデンの件につきましては姉に引き継ぎをしてますから心配は無用です」
「いや帰れよ」
私がツッコミを入れる前にシドから混じりっけの無い直球の言葉がラデンにぶつけられた。
普通に考えれば近くに共和国の誇るイージス・ハンドが二人もいるんだから別にサラに護衛は要らないだろう。
それは、ラデンも理解している筈だし、何かしら私情があるのは間違いなかった。どういうつもりなんだ? この娘。
すると、ラデンはバンっと机を叩くとシドにこう反論しはじめる。
「帰れとは何ですかッ! 帰れとはッ! 私はですね、命の恩人であるキネスさんに恩返しできてないんです! 帝国軍人として、そんな事はあるまじき事ですよ!
……あといろいろと仕事が溜まってて帰りたくない」
「いや、どう見てもそっちが本音だろ」
「そーですよ! 悪いですか!」
「おい、開き直ったぞこいつ」
シドが指摘したラデンの言い分に対して私は、はぁ、と大きなため息を吐く。
あんまし人が来ても部屋がないのだけど…。また、増築しなくちゃいけなくなるじゃないか、できない事はないんだけどね。
リフォームは得意だし、まあ、なんなら敷地も広げる分には土地は私のものだから問題無いからいいんだけどさ、まさか、エンパイア・アンセムが居つくなんてシドも不機嫌になるのもわかるよ。
ちょっと前まで敵同士だったのに随分と太い神経をしてるなと私は思った。
「あーあ……全く。じゃあ君にも働いて貰うからね」
「もちろんです! なんでもこいですから!」
凛としていた筈のラデンがなんだか、最近、可愛く見えてきたよ。何というか、この、ギャップというのかな?
帝国軍人として働くときは凛としててキリッとしてたんだけどね、可愛いからいいんだけど。
それじゃ、同じ錬金術師という事で家具作りを手伝って貰おうかな。
すると、シドは席から立ち上がると身支度をし始め、どこかへ出かけ始める。
「お出かけかい?」
「あぁ、ちと、個人的な仕事が入っててな、今日は夕方くらいに帰ってくるよ」
そう言いながら、私の店の扉を開けつつ手をヒラヒラさせて答えるシド。
最近はグリーデンの仕事で手を取られてだからね、ちなみにシドの事務所の修繕が終わるまでは私の店の二階がシドの事務所になっている。
私も事務所の修繕は手伝ってあげないとね、レイは事件後、後処理のため、共和国の首都、バイエホルンに帰ってしまった。
ちなみに今更なんだが、私達の住む街はシュヴァインブルクという街だ。帝国との国境に黒い森を挟んである街という事で覚えてもらえたら良い。
さて、話は戻すんだが、私はラデンを連れて工房で早速新しい家具の設計について考える事にした。
「そろそろ寒くなるから暖かくなる家具が欲しいって皆思うと思うんだけど、なんか言いアイデアはないかな?」
「温かな家具ですか……」
「そう、足とか手とか暖まる家具さ」
私の言葉に、そうですね、と考え込むラデン。
前回、学んだんだが、他の錬金術師にアドバイスを貰えると新しい画期的な家具が作ることができるということに気がついた。
現にレイから貰ったアイデアで作った家具は反響が良くて飛ぶように売れた。なんでも、家にカジュアルさや透明感が増して使いやすいとか。
なので、たまにお客さんからオーダーメイドで頼まれたりする事もしばしばある。
だからこそ、帝国にいたラデンちゃんにしか思いつかない家具なんかもある筈なのだ。
「そうだ、テーブルに厚い布とか被せてみるなんてどうですか?」
「厚い布? えーと……それはどういう」
ラデンちゃんはペンを取り出すと白紙の紙に考えた図を描いていく。
そこにはテーブルから厚い布が広がるようにして展開している変わった絵が出来上がっていた。
何というか、私には想像がつかないような家具だな、とはいえ、確かにこれなら暖かそうだとは感じる。
「このテーブルの下に暖かな発熱するものを引っ付ければ、熱が篭って、この中が暖かくなると思うんですよね」
「へぇー……、なるほど」
「ふと思いついたんですよ、確か…東方の方の知り合いがこんな物を持っていた気がしまして」
私はそのラデンのアイデアが面白いと素直にそう感じた。
確かにこれなら、冬に出して、季節が過ぎれば取り外して普通のテーブルとして使える。
利便性もあるし、何よりこれなら暖炉だけではないものをお客さんに提供できる筈だ。
となれば、早速、試作品を作ってみる事にしようかな。
設計図を見た私はラデンにこの家具の名前について聞く事にした。
「ちなみにそれは何という名前だったんだい?」
「んーと……なんでしたっけ。
確か、コタシェ……だったでしょうか?」
「コタシェか……なるほど」
面白い名前だな、今後、これを普及させていけばまたうちの家具の評判が上がるに違いない。
やはり、普段から火炎を扱う錬金術師なだけある。正直、居てくれて助かったというのが本音だ。
もしかしたら、ラデンが居てくれたら他にもいろんな家具のアイデアが浮かぶかもしれない。
私はラデンの手を掴むと目をキラキラさせながらこう告げる。
「是非、ウチに居てください!」
「えっ? あ……は、はい!
微力ながら頑張らせてもらいます!」
手のひらがクルックルと言われても構わない。
私はこう見えて変わり身は早いんだ、自慢ではないけどね。うん、褒められるべき事でない事は理解してるよ。
そうなると、まずはテーブルに使う良質な木の素材を集めなきゃいけないな、後は保温性が高い素材を使った厚い布だね。
久々の仕事だから腕が鳴るな! なんだがワクワクしてきたよ。
そうと決まれば善は急げだね、とりあえずラデンちゃんを連れて素材を集めに行こうかな。
「ネロちゃん! ケイちゃん!
ちょっと店を空けるけど、後、任せても大丈夫かな?」
「はーい!」
「問題ない……大丈夫……」
私がそう問いかけると頼り甲斐のある返事が二人から返ってきた。
ネロちゃんも最近はメキメキと錬金術の腕を上げてきてるからね、流石はエンパイア・アンセムの娘だと感心するよ、もしかしたら凄い錬金術師に化けるかもしれないな。
さて、それじゃ、まずは手始めにコレクターに寄ってみようかな、ザックの様子も気になるしね。
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