破壊の黒






 私の豹変した姿にグリーデンは目を見開いていた。


 まるで、先程とは別人のような雰囲気を醸し出す彼女を前にしたグリーデンは唖然とした様子で声を溢す。



「おいおいおい……なんだぁその姿は……、嘘だろお前」

「嘘……というのは? 目の前にあるのが真実だろう」



 私はそう言いながら、ゆっくりと身構える。


 悪いが悠長に話して戦ってる時間が惜しい、早めに決めさせて貰わないとね。


 なんせ、これを使うのは戦場振りなんだ、私もそんなに余裕があるわけでは無い。



「それじゃいくよ」

「ぐっ! たかだか髪と目の色が変わったぐらいでほざいてんじゃねぇぞ!」



 グリーデンは私に向かい、メモリアを放ち、先程同様に次々と鉄の嵐をぶつけてくる。


 だが、私はそれに向かいバレッタに弾薬を装填すると躊躇なく放った。すると、その弾薬が振り返る鉄球の一つに接触した瞬間に凄まじい爆発が発生し、ほかの鉄骨や刃を軽々と吹き飛ばした。


 私はすかさず再装填すると、グリーデンの足元に向かってメモリアを放つ、そして、そのメモリアは着弾した瞬間、先程と同じように爆発を巻き起こした。



「ぐあっ⁉︎」



 グリーデンの身体は爆風によって軽々と後方に吹き飛ぶ。


 その姿を目の当たりにしていたラデンは唖然とした様子でその信じられない光景に度肝を抜かされた。


 私の特化しているのは木だった筈、にも関わらずまるでさっきとはうって変わり、バレッタから放たれるメモリアからは荒々しい爆発が連続して巻き起こっている。


 普通なら考えられない現象だ。



「……爆破ッ⁉︎ そんな馬鹿な!」



 その能力のとんでも無さもそうだが、威力も凄まじい。


 吹き飛んだグリーデンの様子からも、それが紛れもなく本物であるということがわかる。


 一体、何を自分の腕に打ち込めばあぁなるのか、ラデンには皆目見当もつかない。


 私は吹き飛んだグリーデンに一歩ずつ近づきながら、メモリアを再装填したバレッタを突きつけ、こう告げる。



「もう投降したらどうだ、もう片方の足まで失うことになるぞ」

「……舐めたこと言いやがって!」



 そう言いながら、血塗れのまま立ち上がってくるグリーデンは拳を振るい、流れるように蹴りをしてくるが、私は軽く流しながら彼の顔面に思い切り左拳を合わせてカウンターを入れる。


 彼がよろけたところで、次は容赦なく前蹴りをお見舞いし、再び吹き飛ばして、ふぅ、と一呼吸入れた。


 そして、ヨロヨロと血を流しながら立ち上がるグリーデンにこう告げ始める。



「帝国は私を歩く大量破壊兵器にしたかったらしくてね、お陰でこのザマさ……」

「ば、バケモンかよ……お前」

「よく言われるんだよねそれ」



 そう告げた私はグリーデンの頭部に向かいそのまま回し蹴りをお見舞いする。


 流石にグリーデンもここまでやられてくると、バレッタにメモリアを詰める事さえしんどそうになって来ているみたいだ。


 再び、私との距離を取るため、足元にメモリアを撃ち込み、槍を出現させてきた。


 私はそれを軽く背後に下がり、避ける。



「それじゃ、俺も出し惜しみ無しでやらせてもらうわ! 

 ……とっておきって奴をよぉ!」



 そう言って、バレッタのシリンダーを回転させるグリーデン。


 何をするつもりか気にはなるところだな、私は冷静に赤くなった眼差しをグリーデンを観察する。


 そして、シリンダーを回転させ終わったグリーデンは赤いバレッタの銃口を私に向けて、笑みを浮かべた。



「くたばりやがれっ!」



 次の瞬間、私の目の前には巨大なあらゆる鉄器の津波が押し寄せるように出現した。


 だが、それを目の当たりにした私は特に取り乱す事なく、メモリアを再装填したバレッタのシリンダーを回転させると、それをむかってくる鉄器の津波に向けて放った。


 それを見たグリーデンは勝利を確信したように笑みを浮かべる。



「馬鹿がッ! テメーの能力が爆破に変わったのはびっくりしたがそれくらいでコイツが止まるわけ……!」

「あ、そうそう……言っていなかったけどさ」

「あ?」



 私はメモリアを放ったバレッタを構えたままグリーデンの会話を遮るように話し始める。


 何か勘違いしているかもしれないが、私の能力は別に木の特化から爆破特化に変わったというわけでは無い。


 それだけなら、別に利便性がただ単に悪くなるだけだ。



「私、今、両方に特化してるんだよね」



 次の瞬間、撃ち込まれたメモリアが発現し、巨大な樹木が鉄器の津波を絡めとるように遮断した。


 それを目の当たりにしていたグリーデンも思わず目を見開く。


 ただでさえ、一つの分野に特化している錬金術師は強力な存在になり得るというのに、二つの分野の錬金術を今の段階で完全に私が使いこなしている。


 これは正直言って、グリーデンにとってみれば規格外の出来事だ。


 特に戦場で一度、戦闘を交えた事があるからこそ、グリーデンにはわかる。


 私という存在がどれだけ異質なのかという事が。


 それは、戦況を眺めているラデンも同様であった。



「そんな……! 二つの分野をあんな風に使いこなせるなんてありえないッ!」

「…………」



 だが、驚きの声を上げるラデンとは裏腹に戦況を見つめているレイは内心で冷や汗を流しながらそれを静かに見守っていた。


 確かにキネスの今の状態は間違いなく強い、だが、強力な力にはそれなりの代償があるというもの。


 ましてや、あれは帝国で受けた人体実験で受けた末に手に入れた能力だと言ってもいい。



「じゃあ、そろそろ終わりにしようかな」



 鉄器の津波を難なく樹木で絡めて堰き止めた私はその上からグリーデンを見下ろしながら肩を竦める。


 そして、バレッタを背後に向け、爆破のメモリアを発現させて一気に加速し、グリーデンとの間合いを詰めると義手の右腕に力を込めて渾身の一撃をお見舞いする。



「なぁぶはぁッ…⁉︎」



 流石にいきなり加速して間合いを詰められたグリーデンもこれには反応できず、身体が捻れる様にして吹き飛び、物凄い勢いで建物のレンガの壁をぶち破った後に静止した。


 私はグルグルと右腕を回しながら、吹き飛んだグリーデンの元に歩を進める。


 さて、まだ殴られ足りないようならもっと殴ってやろう。


 そう思って、グリーデンに近付いたのだが、奴は既にグッタリとノビきっていた。



「まあ、全然殴り足りないけど、これくらいにしといてやるか、気絶してる人間を殴り続ける趣味はないんでね」



 気絶しているグリーデンを確認しながらそう呟く私。


 そして、私は奴の服の襟元を片手で引っ掴むとズルズルとラデンやレイの元へと引きずっていく。


 何にせよ、これでこの街を騒がせていた元凶をとっ捕まえる事が出来たし、何も問題ないだろう。


 私が殴れなかった分はネロちゃんに残しておいてやる。


 きっと殴りたいほど、いっぱい言うことがあるだろうからね。


 私はバレッタで再び左腕に薬剤を調合した撃ち込む。


 すると、変化前と同様に目の色や髪色が元に戻っていき、いつも通りの姿に変わった。


 戦闘を終えた私の元にレイとラデンが息を切らせて、走ってやってくる。




「グリーデンは無力化した、もう問題ないよ」

「……お前ッ! またあんな無茶してッ!」



 近付いてきたレイは私に向かって怒鳴る様にそう告げてきた。


 確かに、今回はちょっとやりすぎたかなとは思うがそんなに怒る事はないだろう? 気絶させてグリーデンを捕えたんだ、大金星じゃないか。


 レイの怒鳴り声を遮るように耳を手で押さえていた私はジト目を向けながらこう告げる。



「今更何言ってるんだよ、早くケリは着けたから問題ないだろう?」

「そういう問題じゃない!」



 私は宥めるようにそう告げるが、レイの燃え上がった火に油を注ぐだけだった。


 最悪の場合はグリーデンをシドが狙撃する予定だったし、万事上手くいくようにちゃんと考えていたんだけどね。


 これでも、ちょっと暴れすぎたかなって、多少は反省はしているつもりだ、うん、少しだけだけどね。


 レイは心配そうな目で私を見つめながら、ゆっくりとこう語り始める。



「お前がもし……」

「……レイ、大丈夫だよ」



 私はそれ以上、語ろうとしたレイの言葉をそう言って遮る。


 自覚はしているつもりだし、せいぜい、10分程度しか使わないつもりだったからね、レイが考える最悪の事態だけは最初から避けるつもりだった。


 私はひとまず、二人に向かいこう告げる。



「とりあえず、作戦は成功したんだ。

 今日のところは…そういう事にしておこう」



 色々と言いたいことや聞きたいことがあるだろうが、何はともあれ、これで事は収まった。


 後はグリーデンをどうするべきか、そして、ネロちゃんにどうやって引き合わせるか、その事について今後考えるべきだろう。


 後にグリーデン事件と呼ばれるこの事件は数名の諜報員の犠牲と多くの家屋や建物の被害を経て、なんとか私達の手によって解決に導く事が出来たのだった。

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