戦場の錬金術師

  





 私とグリーデンは一対一で向かい合っている。


 この区域は既にグリーデンを捕らえるための作戦遂行の為に封鎖してあるので、周りを気にする必要もない。


 なので、思う存分、錬金術が扱えるというわけだ。



「そんな涼しい顔いつまで持つんだろうなぁ! キネスゥ」

「いやー、涼しくはないかなぁ、むしろ熱くなってきたよ」



 そう言いながら、グリーデンがバレッタから放つ無数の刃をすかさず避けながら苦笑いを浮かべる私。


 やっぱり、そう易々とはいかないか、わかっていた事だけども。


 グリーデンの攻撃は的確だった、私の行動を先読みしたようにメモリアを放ってくる為、息継ぐ暇もない。


 とはいえ、私もいつまでもやられてばっかりというわけにはいかないからね、どこかで転機を見つけて攻勢に出なきゃ行けないだろう。



「オラァ! どうしたどうしたァ!」

「…………」



 私は静かに次々と繰り出されてくるグリーデンの錬金術を観察する。


 確かに、無駄がない攻撃だ、だが、打開策はない事も無さそうだ。


 私はバレッタを真下に撃ち込むと素早くグリーデンの攻撃を避ける。それを何度か繰り返し、様子を窺う。


 そして、暫くして準備が整った頃に私はグリーデンの顔に視線を向けた。



(……そろそろ仕掛けるか)



 私はバレッタに弾を装填すると、それをグリーデンに向かい発砲する。


 だが、グリーデンはそれをすかさず防御する様に鉄の壁を出現させた。まあ、それは読まれてるのはわかってる。


 私は奴の気を引きつけた内にバレッタに残っていた弾丸の残り二つをグリーデンの足元に向かい発砲。弾は見事に地面に着弾した。



「…… release(解放)」

「……ッ⁉︎ なんだと!」



 次の瞬間、グリーデンの足元にツルが巻きつき、身体の動きをその場で固定した。


 流石のグリーデンもこれには度肝を抜かされたようで、焦ったような表情を浮かべている。


 頭に血が上っていて、私に対する観察を怠っていたみたいだからね、二発のメモリアが足元に撃ち込まれていた事にも気付いていなかったみたいだ。


 そして、先程からグリーデンの攻撃を避けながら、地面に植え付けるようにして撃っていたメモリアも同時に発現する。


 足元に目が行っていて、反応が遅れてしまったようだが、奴がいる場所には四方八方から凄まじい勢いで巨大な樹木な何本も勢いよく地面から生えるようにして飛来している。


 鉄の壁もぶち破り、勢いのそれの中の一本はグリーデンの身体を捉えると、後方にある建物の壁をそのまま打ち抜くようにして突き破っていった。



「……凄い」

「キネの奴、本領発揮だな」



 バレッタを手に持ったまま、静かに戦況を見つめるラデンとレイの二人はそれぞれ言葉を溢す。


 確かに隙はないが、奴が感情的になってくれていたおかげで私の小細工に気づかないでくれていた事が幸いした。


 流石に今の一撃はモロに腹に直撃を食らっていたし、効いたに違いないだろう。


 まあ、奴を見ていると、錬金術を使っている最中はその場から動かなかったからね、単純に私はそこに気が付き、不意を突いただけだ。


 とはいえ、読まれてるかもしれないと踏んでさらにもう一つ手を加えておこうかとも考えていたけれども、その必要も無さそうだな。


 ダメージを負ったグリーデンは、ゆっくりと樹木が壊した建物から出てくると口元の血を拭いながら、私を睨みつけてくる。



「……今のは効いたぜ、おい」

「だろうね、自分でやっておいてあれだけど、私もあれは食らいたくないもの」

「……ふざけた女だッ!」



 そう言いながら、バレッタを構えたグリーデンは私の足元にメモリアを撃ち込んでくる。


 そして、間髪入れずにそのメモリアが発現し、地面から生えるようにして槍が私に向かって飛んでくる。


 私はそれを片手でバク転して避けると、バク転の最中にバレッタをグリーデンに構えて引き金を引く。


 グリーデンはそれを身体を横転させ避けると、再び、次から次へとメモリアを発現させて鉄の刃や鉄球、鉄鋼を私に向けて撃ち込んでくる。



「もう容赦しねーぞオイ!」



 凄まじい轟音と共に私の背後の建物が倒壊していくが、グリーデンは攻撃をやめる気配が無い。


 私はグリーデンとの間合いにメモリアを撃ち込み、樹木の壁を発現させて、攻撃を防ぐ。


 そうしている内にグリーデンの攻撃が激しさを増す中で、奴のギロチンの刃の一つが私の頬を掠る。


 危ない、一歩でも遅れようものなら私の首が飛んでても不思議じゃなかったな。


 そんな、私とグリーデンのやり取りを見ながら、ラデンはレイにこんな話をし始める。



「……錬金術師にはそれぞれ特化した分野がありますが、あの二人の戦いを見てると改めてその凄さを感じます」

「そうだな、キネも余裕ありそうに見えるけど、今回は結構苦戦してると思う」



 ラデンの言葉にレイも同調する様に頷いた。


 錬金術師として、特化している分野というのはそれぞれ、日頃から得意としている錬金術があるという事だ。


 ラデンなら火炎、レイは氷結、そして、グリーデンは鋼鉄といった具合にメモリアから発現させる物に得意分野がある。


 私は仕事上、木や自然の物を発現させる事を得意としている。


 とはいえ、皆、その得意分野に特化しているだけで別に他の錬金術を使えないというわけではない。


 戦闘時などでバレッタとメモリアを通して威力を発揮する錬金術がそれだというだけだ。


 それに、戦場に出ている錬金術師は人殺しの為にその錬金術に磨きをかける必要があるので必然的にその得意分野の錬金術の腕は人殺しや相手を殺傷する能力に関して急速に上がっていく。


 この場合はレイ、ラデン、私、グリーデンは特にそうだろう、戦場にて多くの人間を錬金術を使って葬ってきた。


 戦いを注意深く観察していると特にその戦場で敵を倒すという分野において私とグリーデンは突出してると二人には改めてそう感じさせられた。



「……キネの奴にこの事を言ったら怒られるだろうけどな」

「望んで無さそうですからね、あの人は」



 私のそんな類稀な錬金術を目の前にして、ラデンとレイはそれぞれ呟くようにそう口にする。


 そう、私は本来、自分の錬金術をこんな風に使いたく無い人間だ。錬金術は本来、人の幸せを作る物であって人殺しの為の技術などでは無い。


 だからこそ、私の仕事を冒涜するように人の骸で家具を作るなんて暴挙を犯したグリーデンはここでどうにかしなければならない。


 私は覚悟を決めて、真っ直ぐにグリーデンを見据える。



「どうした! もう終わりかァ!」

「まだまだこれからだろう、何言ってんだよ」



 私はそう言いながら、バレッタの弾丸をグリーデンに放ちながら笑みを浮かべる。


 とは言ったものの、正直言ってこれは強がりだ。


 もう結構キツかったりする、先程から荒れ狂うように飛来してくるグリーデンの錬金術を流すように避けてはいるが、全て躱し切れてはいない。


 その証拠に、鉄の刃が擦り服が切れて身体からは出血している箇所もある。


 長らく戦場に出てないと、やはり勘は鈍るものだ。日頃からそれなりで仕事で鍛えられたかなと思っていたけど、そんなに甘く無い。


 それに相手はエンパイア・アンセムのグリーデンだ。経験も豊富だし、何より、既に私との戦闘に慣れてきている感じがする。


 その証拠にグリーデンは先程とは違い移動しながら私のメモリアを避け続けているし、警戒しながら攻撃を返してきていた。


 順応するのが早いなやっぱり、一筋縄ではいかないか。


 こうも移動しながらメモリアを次から次へと発現させられると非常にやりづらいなやっぱり。


 仕方ない、使いたくは無かったけど奥の手を使うか。



「……はぁ……はぁ」

「流石に息切れしてきたみたいだな? ブランクかぁ?」



 グリーデンは肩で息をしはじめる私に笑みを浮かべながらそう問いかけてくる。


 まあ、見抜かれてるようだが、実際にはそんなところだ。


 戦場から離れて錬金術や軍人との戦いに暫く身を置いていなければ仕方ないとも言える。


 グリーデンと私の違いは、グリーデンは未だに軍人として戦場に出て戦っているが、私は今は退役してその身を戦場に置いていないという点だ。


 私にも当然、ブランクがあってしかるべきだし、久しぶりにこんな奴とやり合うなんて想定もしてなかったからね。


 けど、負けるつもりは毛頭無い、これだけは息を切らしていようがはっきり言える。



「さてと……。

 それじゃそろそろ本気出そうかな……、なんてね」

「何を今更言ってやがる」

「まあ、黙って見ときなよ……。三下くん」



 私は深呼吸して、呼吸を整える。


 そして、バレッタにとあるメモリアを込めた私はそれを自分の左腕に向かって、なんの躊躇なく撃ち込んだ。


 グリーデンはその私の行動に度肝を抜かれたような表情を浮かべる。


 私がまさか、自分の身体にメモリアを撃ち込むとは予想もしていなかったからだ。


 それを見ていたレイは目を見開き、まさか、と身を乗り出すようにして私が取った行動に驚いた表情を浮かべていた。



「おい! キネッ! やめろッ!」

「え?」

「それを使うとは聞いてないぞっ」



 私を呼び止めるようにレイは声を上げたが、既に私の腕に撃ち込んでた後なので既に手遅れだ。


 ちなみに私が左腕に撃ち込んだのはメモリアでは無い。


 ある錬金術の調合でできた、特殊な液体が含まれた薬剤が入った弾丸だ。


 これは、私が帝国から受けた人体実験によって得た産物であり、もう戦争以外では使うまいと決めていたもの。


 その液体を身体に入れた途端、私の身体には早速、変化が起きていた。


 私の金髪だった髪色は変色を起こし、黒い髪色に変わっていく、そして、その蒼く透き通った瞳の色も赤く変色し、獣の様な眼光に変化していった。



「さて、それじゃあとっととケリをつけさせて貰おうかな」



 そう言いながら、私は首の骨をコキリッと軽く鳴らす。


 久しぶりにこの状態になったけれども、人体実験でなったものだから本来なら使いたくなかったんだけどね。


 私は身構え、動揺しているグリーデンを真っ直ぐに見据えると一気に地面に足を踏み込み、駆け出した。


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