作戦決行

 



 私達は翌日、夜を待ち、グリーデンが潜伏しているであろう家をレイとラデンの二人の部隊が包囲するのを遠目から眺めていた。


 夜を選んだのは、奴の視界を狭める為だ。戦場においては、私達は夜襲を仕掛ける事が多かった。


 私達はそういった点で夜目がきく、なので、今回の作戦には夜をラデンに進言させてもらった。


 そんな中、私の隣でスナイパーライフルを構えているシドは疑うようにこう問いかけてくる。



「なぁ、この作戦、本当に上手くいくのかよ?」

「……多分ね」

「グリーデンのやつ、多分、部隊には勘づいてると思うぞ」



 特殊工作部隊と帝国の諜報部隊を見ながら、シドはため息をついた。


 グリーデンはエンパイア・アンセムであり、長年、諜報部隊を率いていた経歴のある化け物だ。


 当然、この事を想定してないはずがない、おそらくはその事には気付いているだろう。


 そして、そんな事は私達は既にお見通しだ。


 こう言ってはなんだが、彼らは囮でしかない、しかも、グリーデンはきっとこの事に勘づいてるいて、あの家には既に潜伏していないだろう。


 あの家には既に錬金術による罠が張り巡らされていて、それを別の場所から観察している筈だ。



「……部隊が動くぞ」

「あぁ、じゃあ、私もいくよ」



 隣にいるシドにそう告げた私は地面に向かい、バレッタを撃ち込み、建物から飛ぶと藁のクッションの上に着地して静かに闇夜の中へと消えていく。


 私も軍の時には隠密に破壊活動を行なっていた事も、敵の将を何人か暗殺した経験もある。


 だから、闇に紛れて行動するのは得意だ。きっとそれは、レイもシドも一緒だとは思うけどね。


 私達は作戦中は無線をしているのだが、無線は音が漏れない様に、錬金術で作った特殊なイヤホンを使用して連絡をしている。


 さて、私は無線でスナイパーライフルを覗いてるシドと連絡を取りながら、奴に動きがあれば彼女からすぐに連絡がいくような流れにしている。


 他にも何人かレイの特殊工作部隊とラデンの諜報部隊が双眼鏡を使い四方から家の周辺や、観察出来るところを捜索させ、グリーデンが姿を現すかどうかを見渡せるようにしてある。


 このシドと部隊からのグリーデンを発見した時の連絡はレイとラデン、シドにもすぐに連絡が飛び込んでくる様な形にしている。


 向こうはこちらの裏を掻いてくる。さらにその裏を掻いて不意を突いてやらないと、グリーデンをどうこうするのは不可能に近い。


 私が配置についたところで、レイとラデンの二人から部隊にゴーサインが出される。



「……部隊が突入したぞ!」



 グリーデンの家に銃を構えて突撃する部隊。


 突入する部隊には先にトラップに警戒しろとは言ってある。さて、どうなるかはこれからだが。


 すると、すぐに家から炸裂音と共に巨大な鋼鉄の針が家を突き破るのが見えた。



「……シドッ」

「あぁ、わかってる今探してる最中だ……」



 他の部隊からも連絡は無い、まだ、あいつは姿を見せてない様子だ。


 一番、最悪なのはどこかの家内から観察出来る場合だろう。一応、そのケースを想定して、私達はそこをしらみつぶしに探しながら、無線から連絡がくるのを待ってる最中である。


 姿を現したグリーデンの奴に対して、シドが屋根上からスナイパーライフルで狙撃する。


 ちなみにだが、シドのスナイパーライフルの腕は共和国内で一番だ。


 これで三桁の屍を築き上げたと言っても過言では無い。


 さて、そんなシドの狙撃が待ち構えている事をグリーデンは察していないとは考え辛い、となれば、やはりこの時点で動き出してないとなると目星をつけている家内に潜伏している可能性があるだろう。


 あのグリーデンの家の様子を家内から観察出来るポイントは絞れば四つしかない。


 そうなれば、後は必然的に四分の三の確率で奴がいるところに一発で誰か辿り着けるはずだ。


 そして、その四分の三、当たりくじを引いたのは…。



「おやぁ? ……まさかここに居るのを読まれるとはねぇ」

「グリーデンッ!」

「うおっとッ⁉︎ 気が早いんだからもう」



 レイが放ったメモリアの弾が壁に当たり、凄まじい音と共に氷結晶が家の壁を突き破り発現した。


 その凄まじい音とレイが発現させた氷結晶により、奴がいる現在地が発覚する。


 それを双眼鏡で確認した諜報部隊の隊員はすぐに全体にグリーデンの居場所を告げた。



「座標六・六の地点にレイ将軍の錬金術による氷結晶を確認!」

「わかったッ! 六・六だな!」



 すぐさま、その地点にスナイパーライフルを向けるシド。


 既にそこではレイとグリーデンによる激しい戦闘が行われていた。


 私やラデンもその連絡を聞いてすぐに援護に向かう。比較的にそこまで遠くない距離だから、屋上を伝っていけば、そこまで時間は掛からないだろう。



「いやぁ、流石はイージス・ハンド……、手強いねぇ」

「どうした? もう終わりか!」

「あー……。これだから最近の若い奴ってのはさぁッ!」



 そう言って、紙一重でレイの氷結晶の錬金術を躱すグリーデン。


 だが、前の様に余裕がある様に見えてそうではない、まさか、家への罠を読んだ上に居場所まで割り出されているとは思っても見なかったからだ。


 まさか、裏では三人の自分と同じような錬金術が協力して行動していたとは思っても見なかったのだろう。


 それはそうだ、グリーデンの家に突入させた部隊には皆、共和国諜報部隊の制服を着せていたのだから。


 このことから共和国諜報部隊しか動いていないと思っていたグリーデンが私達の策にしてやられた訳である。



「このままじゃ、ちとやべえな……。

 一回体制を立て直すか」



 そして、レイからの猛攻に家の窓ガラスを突き破り、一度避難するグリーデン。


 地面に着地した彼は、すかさず、その場から離れて体制を整えてレイを迎え撃とうとする。


 だが、その時だった、直感的に危機を感じとったグリーデンは自分の身体を守る様にして直ぐに鉄の壁をバレッタで発現させた。


 その直後、凄まじい勢いで炎がその鉄の壁を襲う。



「はは……マジかよ……。テメェもか」



 そのグリーデンの視線の先には、刃状のバレッタを構えるラデンの姿があった。


 グリーデンとの間合いを一気に詰めるとさらに追い討ちをかける様にラデンはバレッタを振り下ろし、襲いかかる。


 流石に錬金術が間に合わないと見たグリーデンは身体を回転させる様にその攻撃を避けるが、間髪入れずにラデンは連撃を浴びせる。



「ちぃ!」

「こっちがお留守だよ」



 そして、グリーデンがラデンの連撃に気を取られた次の瞬間。


 突如として、グリーデンの真横から私が飛び出して、彼の顔面に向けて綺麗な回し蹴りを直撃させる。


 グリーデンの身体はその蹴りの吹き飛び壁に叩きつけられた。



「ガッ!」

「これで先日のお返しは出来たかな?」



 私はそう言うと、グリーデンの前で笑みを浮かべたままそう告げた。


 三対一の図、余裕をかましていたグリーデンもこれには思わず苦笑いを浮かべていた。まさか、こんな風な展開になるとは予想もしていなかったからだ。


 そして、私はそんなグリーデンに対して、ゆっくりとこう告げ始める。



「皆のお膳立てはこれくらいで良いかな?」

「お膳立てだぁ?」

「そう、お膳立て。

 ……だって、君は私に個人的な恨みがあるんだろう?」



 そう言って、私は挑発する様に未だ壁に張り付いたままのグリーデンにかかってこいよと手招きする。


 このまま三人で畳み込めば、正直、グリーデンの殺害どころか捕縛も簡単に出来ることは明白だ。だが、同時にグリーデンが逃走する可能性も無いことはない。


 多分、長年の諜報の経歴からして、この場から逃げる手立てらグリーデンならすぐに思いつくだろう。


 だが、キネスは挑発し敢えてこうすることで、グリーデンをこの場に釘付けにしようと考えた。



「私一人でその喧嘩を買ってあげるって言ってるんだ。

 ……まさか、女一人に挑発されて大の男が逃げるなんて言わないよね?」

「あぁ……、言ってくれるなぁ、おい」

「私に一度負けてるんだ、グリーデン、リベンジマッチだぞ? 

 また怖くて逃げるなら逃げても良いけど」



 そう言いながらさらにグリーデンを煽る私。


 流石にここまで言われた上に、二度も私達から逃げ、さらに追い詰められているグリーデンには私のこの言葉は強烈に効いている筈だ。


 自分を女って言っちゃってるから、ぶっちゃけ言っていて地味に私にもダメージが入るんだけどね、これはこの際気にしたらダメだ。


 そして、乗ってきそうなグリーデンにとりあえず、最後に一言だけ、ダメ押しに強烈な言葉をお見舞いすることにした。



「その右足、私が吹き飛ばしてやったやつだよなぁグリーデン、義足なんだろう?


 正直、忘れてたよ、君の右足の事」

「今すぐそのピーピーうるせぇ口、すぐに黙らしてやるぜッ!」



 グリーデンは私の足元に向けてメモリアを発砲し、高速で回転する鉄の巨大ノゴギリを飛ばしてくる。


 私はそれを間一髪で躱して、すぐさまグリーデンに間合いを詰めると、右腕の義手で殴り飛ばしてやった。


 身体が吹き飛んだグリーデンはすぐに体制を整えると、次は一メートル程度の鉄の鉄球の群を発現させて、飛ばしてくる。



「これは流石のお前でも避けれねェだろう!」

「避けないからね」

「何ッ」



 私が前方の地面にバレッタを撃ち込むと分厚い木の壁が、それを阻むように鉄球を落とした。


 私はバレッタにメモリアを素早く装填すると、発現させた木の壁の上に飛び、見下ろすようにグリーデンを見つめる。


 彼の眼は相変わらず怒りに満ちた眼差しだ。自分以外の全てを破壊し尽くしてやりたいとどうしようもない怒りをはらんでいるように見える。



「君は私の商売仇なんでね、ふざけた家具をお客さんに売った分だけ悪いけど君をぶん殴らせてもらうよ」

「やれるもんならやってみろッ!」



 そう言って、黙らせるように私に向かい、鉄のギロチンを発現させて高速で飛ばしてくるグリーデン。


 私はその飛んでくるギロチンを木の壁にもう一発、メモリアを撃ち込む事で変形させ、ギロチンを弾き落とす。


 こうして、私とグリーデン、かつて戦場にてぶつかりあった錬金術師者同士の盛大な戦いの火蓋が切って落とされるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る