作戦会議

 



 さて、私はシドが戻ってくるまでいつも通り店の営業をしていた訳なんだけど、二人がよく働いてくれたおかげで店の売り上げも上々といった感じだ。


 やはり、美少女が二人も店で働いていると新規のお客さんなんかも足を運んでくれるみたいだしね?


 この調子で私のお店の家具がドンドン売れていけば新しい店を構えるのも無理な話では無くなってくると思う。


 すると、しばらくして、店の扉を開く音が聞こえてきた。


 もう、店は閉めたからシドが帰ってきたのかな? 



「戻ったぞ、キネ」

「おかえりー……。……って、その方は?」



 私は帰ってきたシドに首を傾げながらそう問いかける。


 彼女の背後には見覚えのない短刀を携えた白髪を背後に束ねた可愛らしい女性が控えるように立っている。


 すると、女性は私の言葉に反応する様にシドの前に出ると私の前で頭を下げながら名乗りはじめる。



「どうもはじめまして、クロース・キネス様。

 私はエンパイア・アンセムの一人で、帝国の諜報部隊に所属しております、ラデン・メルオットと申します」

「エンパイア・アンセム……グリーデンと同じの」

「あれとは全然違いますが、まあ、かつての同志みたいなものですね」



 私はそう淡々と自己紹介をしてくるラデンちゃんをジッと見つめる。


 確かに、グリーデンのような狂気は感じないし、どちらかというと礼儀正しく、常識人のような雰囲気を感じた。


 とりあえず、彼女をシドが連れてきたという事は何かしら訳があるのだろう、ひとまず、店の中で話した方が良さそうだ。



「とりあえず中に入りたまえよ、こんなとこで立ち話もなんだからね」

「そうだな」

「……では、お言葉に甘えて、失礼します」



 二人は私の言葉に頷き、そう言って、店の中へと入る。


 テーブルに案内して、二人が椅子に座るのを確認した私はタバコを懐から取り出すと火をつけて、煙を吐き出す。


 なんにしろ、帝国嫌いのシドが彼女をここに連れてきたのには何かしら理由があるはずだ。まずは、それを聞かない事には何も始まらない。



「それで? なんで彼女を連れてきたんだい?」

「どうやら、グリーデンの奴を追ってるみたいだったようでな、今日、アーデから奴の所在についてタレコミを貰ったんでそれを聞きたいんだとさ」

「はい、シドさんの言う通りです。

 私達もグリーデンを現在追っていましてその情報の共有ができればと伺った次第です」

「……なるほどね」



 私はラデンの話に納得したように頷く。


 帝国もグリーデンを追っているのか、それに関しては少しばかり気になる話ではあるが、そのことを話すにはもう一人、この場に呼んでおかないといけない人物がいるだろう。


 私は店にある電話を向かい、その人物に連絡を取りはじめる。


 それから、私達は一旦、その人物が来るまで少しばかり待つことにした。


 それからしばらくして、店を開く音と共に銀髪の女性が店に入ってくる。



「来たぞ、グリーデンの奴の所在がわかったというのは本当か?」

「あぁ、アーデから聞いてきた」



 シドは店に入ってきた銀髪の女性レイに受け取ったメモを指に挟み、それをヒラヒラさせながら告げる。


 すると、レイはシドの横にいる女の子に気づき、私にこう問いかけてきた。



「キネ、こちらは…」

「こいつについても私から話す、まずは椅子に座れよ」



 そうぶっきらぼうに答えるシドにレイは、わかった、と一言だけ答えると私の隣の席にゆっくりと腰を下ろす。


 さて、これで全員揃ったわけだが、ようやく情報を共有できる場が整った訳だ。


 それから、まず最初に口を開いたのはシドからだった。



「じゃあ、まず私から話すぞアーデから聞いた話なんだが」



 そこからは、シドやラデンがこれまで共有している話や情報をレイと私は全て聞かされた。


 グリーデンが本来、この街で起こそうとしている目的、軍を退役したと偽り、この街に滞在しているという事、そして奴が潜伏している住所と場所。


 それと、旧帝国の思惑と野望について。


 グリーデンの起こすテロを利用して、共和国と旧帝国との戦争にまで発展させようとする陰謀。


 話を聞いていたレイと私はその二人の話に静かに耳を傾ける。


 旧帝国の最終的な目的が共和国との戦争だと聞かされた時には正直、頭を抱えそうになりそうだった。


 そんなことになれば、また共和国の人が亡くなる事になるだろう。


 ラデンはそういった最悪な事態を少しでも阻止しようとすべく、この街に来たのだと素直に私達にそう話してきた。



「まさか、そんな思惑が絡んでいたとはな」

「……どうにか私達も貴方達と同じくこの事態を早急に解決したいと思っております」



 神妙な面持ちで私達にそう告げるラデン。


 確かにラデンや私達の思いは同じだし、ここは協力して事に当たるのが一番、解決に近づくやり方だろう。


 共和国の特殊工作部隊を率いるレイもそのことを理解していたのか、スッとラデンの前に手を差し伸ばすと笑みを浮かべたままこう告げる。



「話はわかった、エンパイア・アンセムの貴女の力を是非、私達に貸して欲しい」

「こちらこそ、ご協力感謝いたします」



 差し伸ばされたレイの手を握るラデン、共和国と帝国がこうして協力して事態の解決に当たろうとするなんて光景は戦時中なら考えられなかった事だろう。


 そうと決まれば、後はグリーデンの奴をどうにかするだけだ。


 ひとまず、私は今、グリーデンが潜伏しているであろう場所をテーブルに地図を広げて確認しながら、ゆっくりと話をしはじめる。



「それで? 作戦はどうする?」

「それでしたら、私に考えがあります」

「聞かせてくれ」



 レイにその考えを話すように促され、頷くラデン。


 そして、そこから念密な作戦をラデンの考えをもとに私達は話し合いをしながら詰めていく事にした。


 ラデンはグリーデンの錬金術に関しても詳しいし、それなりの情報を持っている。


 だからこそ、帝国から直々に今回の命令を受けたんだろうし、それなら、それを元に立てた作戦なら上手くいく可能性もグッと上がるはずだ。


 これまでの交戦が二回、その二回とも奴からの襲撃で私達は奴を取り逃している。


 だからこそ、今回は確実に奴を仕留める必要があった。


 それから、夜通しグリーデンについての作戦会議をした私達はその夜、全員、私の店で寝る事になった。


 作戦決行はおそらくは明日になるだろう。


 皆が寝静まった頃、店の屋上で私は片手にコーヒーを持ちつつ静かにタバコに火をつけ、煙を吐いていた


 私が吐いた煙は上にいき、やがて、自然に消えていく。


 そんなことをしていると、私の背後から声が掛かってきた。



「クロース・キネスさん、お時間が良ければ、少し、お話をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」



 私はその声に反応し、視線を背後へと向ける。


 そこには、ラデンが何か言いたげにこちらを真っ直ぐに見つめるようにして立っていた。

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