アドバイス
私が頭を悩ませて仕事をしている中、突如、現れたレイ。
身辺警備という名目で来ている彼女を追い返すわけにも行かず、仕方なく妥協して私は彼女に工房にいる事を許可した。
特段、仕事の邪魔というわけでもないしね。
現在、私はそのレイから見られる中、新たなテーブルのデザインを考えているところだ。
だが、そのテーブルの良いデザインが思い浮かばず四苦八苦している。ペンで書いては消して、また考えるという作業を繰り返していた。
「はぁ……」
「ん? どうした、ため息なんてついて」
疲れたようにため息を吐き、頭を抱える私に首を傾げて声をかけてくるレイ。
私は疲れたような眼差しで彼女の顔を見つめると大きく背骨を伸ばすように欠伸をする。
そして、机に頬杖をつくと大きくため息を吐いて、たった今悩んでる事について話し始めた。
「……デザイン……」
「うん?」
「テーブルの良いデザインが思いつかないの」
そう告げる私に、レイは、なんだそんな事か、と呆れたように肩を竦めた。
そんな事ではないんだがな、仕事が進まないし、時間も勿体無いから早く描きたいんだけどね。
とはいえ、そう思っても簡単には思い浮かばないのがデザインというものだ。完全に煮詰まってきたような気がする。
そんな私の様子を見ていたレイは私が描いているデザインを覗くように見るとこんな事を言い始めた。
「思い切って、クリアにしたら良いんじゃないか?」
「……はい? クリア?」
「そうだ、床が見えるようなデザインって事だな、ガラスを張っているようなイメージのテーブルだよ、シンプルだろ?」
そう言って、レイはテーブルについて自分の意見を私に告げる。
確かに言われてみれば、そんなデザインのテーブルは今まで作った事が無かったな、基本、全体に木を使ったデザインのテーブルばかり作っていたしその考えは面白いかもしれない。
ガラス製のインテリアテーブルか、悪くないな、丈夫なガラスを錬成すれば全然できない事はない。
私はレイのその言葉に思わず笑みを浮かべる。良いアイデアが浮かんできた。
「ありがとう、レイっ! それだ!」
「あ、いや、その……、助力になったのなら嬉しいよ」
私は顔を赤くして照れ臭そうに視線を逸らすレイの手を両手で掴み、目を輝かせながら告げる。
確かにレイは役職上、デスクワークが多いし、実際に机を使う事が多い、その人物からこういうデスクがあれば便利だし欲しいなと言われたらきっと同じターゲット層も同じように思うに違いない。
ならば、私はその要望に応えてあげれば良いだけだ。しかも、ガラスに着色を加えればさらにデザインの幅だって広がる。
いや、デスクだけじゃない、クリアな椅子なんかも意外と人気が出るかも、しかしながら、こちらは素材に一工夫加えなくてはいけないが部屋をお洒落にしたい人ならそういう家具を欲しがるはずだ。
良いアイデアをくれた。後はこれを活かすも殺すも私次第だ。
「よーし! なら…脚の部分はこうして……。
あっ! 良かったらレイも横から見ながら気になったところを教えてくれ、参考になる」
「ん? 良いのか? 素人だが?」
「構わないよ、錬金術師である君の意見を聞きたいし、何よりお客さんの目線から意見が貰えるだろう? 頼むよ」
「ふふ、そういう事なら喜んで」
そう言って、私はレイと共にデザインの意見を彼女から取り入れながらテーブルの制作に取り掛かった。
どういう素材が適切か、どんな風な机が使いやすく感じるのか、利便性とオシャレさを考えつつ、机のデザインを設計図に描いていく。
「ここは、ランヌ製のボルトで固定した方が良いんじゃないか? あそこのボルトは丈夫だしな」
「へぇ……知らなかったよ、良いね、使ってみよう」
「後、張るガラスにコカトリスの羽の粉塵を入れておくとかなり丈夫になるぞ」
レイは気になったところや素材についてのアドバイスを惜しむ事なく私に伝えてくれた。
確かに普通のガラスだと強度的にすぐに割れてしまうのではと購入に躊躇う人も居るはずだから、こういう意見は実にありがたい。
私も勉強はしているんだが、家具に家の建築方法、塗装の仕方など広く渡り勉強してるので及ばない部分もまだまだある。
なので、レイから深掘りした話をこうしてもらえると非常に助かっている。
「うん、こんなもんだろうかな? どうだろう?」
「良いんじゃないか? 私が欲しいくらいだ」
そう言って、レイから色んな話を聞きながらデザインを描いていると無事に納得できるテーブルの全体図を描く事ができた。
このテーブルなら、きっとそれなりに買い手もつくと思うし、何より、使いやすさには自信がある。
後はこれを作り上げるだけとなったが、まあ、一つだけ面倒なのが必要となる素材が増えてしまった事くらいだ。
「ありがとうレイ、おかげでできたよ」
「どういたしまして、……私が居た方が仕事が捗るんじゃないか?」
「そうかもね」
満面の笑みを浮かべるレイに私も同じよう笑みを浮かべながら肩を竦めて答える。
私だけなら、きっとこんなデザインの机は思い浮かばなかっただろうなと素直にそう思う。やはり、外部からこうしてお客さんの目線で話してもらえる意見は大変貴重だ。
今回、レイには助けられたな。
すると、レイは身につけていた腕時計を見て何かに気づいたようにこう告げてきた。
「……ん、もう結構良い時間だな、それじゃ私は行くよ」
「あぁ、ありがとうレイ」
「グリーデンの奴は私がしっかりと見つけておく、お前も身の回りには注意しておけよ。……ではな」
そう言って、レイは私の工房の扉を開くと立ち去って行った。
何はともあれ、この先、レイが言っていた通り、注意しておかねばならないのは間違いないだろう。
私もシドも奴には顔が割れてるからな、いつどのようにして遭遇するかもわからない。
新しく描き終わった設計図を工房のデスクに直しながら、私は今後のことを考え、軽いため息を吐くのであった。
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