一夜明けて
意識を手放した私が目を覚ましたのは自分のベットの上だった。
仕事で疲れてたのもあったが、グリーデンに受けた蹴りがよほど強烈だったのも理由だろう。
まるで、強烈な鉄の塊が腹をぶち抜いたような蹴りだった。
「いてて……。まあ、軽傷で済んだだけマシか」
目を覚ました私はそう呟きながら蹴りを受けたお腹を摩りながら呟く。
すると、ガチャリと私の部屋の扉が開き、外からひょっこりと顔を出すように見慣れた翠色のショートの髪が見えた。
そして、覗くように現れたネロちゃんはベットから上体を起こしている私に声を掛けてくる。
「あ……! マスター……」
「やあ、今、目が覚めたよ」
私はそう言って、苦笑いを浮かべながら心配そうに見つめてくるネロちゃんに応える。
この程度なら、仕事にはなんの支障もないしね、おそらく家まで運んでくれたのはシドだろう。
下着姿で寝させられていた私は軽く上着を羽織り、リビングへと足を運ぶ。
「……よぉ、ようやく目が覚めたか」
「お具合はどうですか?」
「うん、調子は良いよ、変わりない」
私は具合を訪ねてくるリビングにいるケイとシドに軽く手を挙げて応えた。
私はそのままリビングにあるテーブルに座り、ケイは入れてコーヒーを私の目の前にあるテーブルに置く。
一方でシドはソファに座り、新聞に目を通していた。おそらく昨日の襲撃の記事が載っていないかチェックしているんだろう。
帝国での内紛の動きも気になっているんだろうけども。
「グリーデンの野郎には逃げられるし、昨日は散々だったな」
「レイは?」
「無事だ、今は特殊工作員の奴らと宿に潜伏してるんじゃないか?」
シドはそう告げると新聞を閉じて、タバコに火をつける。
見事に事務所を破壊されたシドとケイは事務所が治るまでのしばらくの間、私の家に滞在することにすることになったはもう周知のことだとは思うのだが、この家もいつグリーデンの奴に特定され、襲撃を受けるのかわからないので気が抜けない。
何にしろ、そうなる前にレイには早めにグリーデンの所在を割り出して欲しいものだ。じゃなきゃ、下手をすれば私の店も破壊されかねないからね。
とはいえ、ウチに滞在する以上は二人にも働いてもらわないとね。
働かざるもの食うべからずというやつだ。
「じゃあ、二人にはしばらくウチの店を手伝って貰おうかな?」
「あん? お前、私が接客できるようなタマに見えるか?」
そう言って、嫌そうな表情を浮かべるシド。
いや、それは自信満々に言うことじゃないんだけどね、それを横で聞いていたケイも呆れたようにため息をついていた。
仕方ないので、私はシドにしかできない仕事を割り振ることにする。
「ならシドは私が手に入れて欲しい素材をメモで渡しとくから、それを集めてきてくれ」
「お、それならお安い御用だ」
「ごめんなさい、キネさん……。代わりに店は私が手伝いますので」
「助かるよ」
そう言って、顔を引きつらせている私に謝るように告げるケイ。
接客する人間が二人いるとだいぶ助かるんだよね、私も工房に篭って新しい家具を作ることができるし。
まあ、素材集めならシドも錬金術を多少なり齧ってはいるからどんな素材が貴重なのかとかもわかるし、なんなら、他の場所に足を運んで集めてこれる技量は備えているからね。
私としては余計な経費が増えなくて済むから非常に助かる。
しばらくして、シドは私の耳元に口を近づけると囁くようにこう告げてくる。
「まあ、素材集めしながら、ちょっと私の方でもグリーデンの奴について調べてみるわ」
「わかった……」
「奴についてはネロには伝えとかない方が良いだろう、ケイにもそう伝えとく」
そう言って、私の耳元からそっと口を離すシド。
確かに、グリーデンの事をネロちゃんに伝えて余計な心配をさせて不安を抱えられるよりはそちらの方が賢い選択だと私も思う。
とはいえ、あの元凶をどうにかしなきゃネロちゃんにも被害が及ぶ可能性がある。
どうにも、口ぶりからして、私に恨みがあるみたいな感じだったしね、全くもってヤバい奴に目をつけられてしまったものだ。
まあ、人の死体を使って家具を作ってるような奴を私としても野放しにはできないんだけどね。
それから、家から出てシドと別れた私達はお店を開けて営業を開始する事にした。
私は工房で家具の製作、ケイとネロちゃんの二人には店の接客をやらしている。
さて、そんなわけで私は工房で家具の製作に取り掛かっているんだが、ある事で頭を悩ませていた。
「……このテーブルのデザインどうしようかなぁ」
最近、家具の良いデザインのインスピレーションが湧かない、前はポンポンとアイデアが浮かんでいたんだけども。
素材はこの間仕入れたばかりだからあるにはあるんだけどね、これがスランプっていう奴なのかな。
どうにか新しいデザインが浮かばないものか…、そんな事を考えていると背後から声を掛けられる。
「ほう、なかなか興味深いな」
「うわっ!? び、びっくりしたぁ」
「あぁ、これはすまん、驚かせたな」
私の背後からいきなり声をかけて来たのは銀髪を靡かせたレイだった。
というか、ここ、従業員以外、立ち入り禁止のはずなんだけども、なんでレイがこんな場所に来てるのかがわからない。
私は呆れたようにため息を吐くと、いきなり現れたレイにこう告げる。
「ちょっとお客さん、勝手に入られては困るよ」
「ん? 表にいるケイという女従業員にはちゃんと許可をもらったぞ?」
「いやいや……、どうせ強引に入って来たんでしょ貴女」
私は首を傾げるレイに呆れたようにそう告げる。
だってさっきから外でケイちゃんが私に対して謝る声が工房の外から聞こえてるんだもの、まあ、別に全然構わないんだけどね。
私は腕を組んだまま、目の前に現れたレイにジト目を向けたままこう問いかける。
「で? 今日の要件は?」
「別に……? お前の様子を見に来ただけだ」
「いやいや……」
「店の周りには特殊工作員をバレないように配置してあるから心配するな、私も私服で変装してきた」
そう言って、私服を見せてくるレイ。
茶色のブラウスと可愛い赤のスカートを身につけている姿はどこか見慣れない感はあるものの、スタイルの良い彼女には妙に似合っていた。
まあ、そんな事はどうでもいいんだけども。
「まあ、身辺警護ってやつさ……。
奴の事はちゃんと追ってるから心配するな」
「……はぁ……」
「狙われている自覚はあるんだろう?」
そう問いかけてくるレイ。
確かにその自覚は私にもある。だからこそ、彼女がここに訪れているのも理解はできるにはできる。
レイも少なからず昨日、グリーデンのやつを取り逃してしまった事に関して罪悪感のようなものがあるのだろう。だからこそ、私を守らないとと思い至ったのかもしれない。
こればかりは仕方ないか、と私は肩を竦めてとりあえず作業に取り掛かる事にした。
「仕事の邪魔はしないでおくれよ?」
「しないさ、私は仕事をしてるお前を見ているのも好きだからな」
「はいはい」
私はレイの言葉に適当に返すと仕事の作業に戻る。
家具のデザイン、何か参考にできるものがあれば良いんだけど。
そんな事を考えながら、ひとまずデザインは後にして私は家具に必要な素材を洗い出す作業から取り掛かる事にした。
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