従業員のネロ

 




 結論から言おう、面接した結果、私はネロちゃんを採用する事にした。


 接客面は仕事をしながら身につければ良いし、私が手を施してやればきっとすごい成長を見せてくれる筈だ。


 根は真面目そうだしね? そういう娘は嫌いじゃない。


 年齢は十七歳と若い、私の三つ歳下だ。妹がいきなりできたみたいでかなり新鮮な気持ちなんだけども。


 さて話を戻そうか、そう、ネロちゃんが今日からウチで働く事になったのである。


 今日はネロちゃんの出勤初日、良い機会だし、従業員にする彼女のことをできるだけ知っておきたい、出来るだけ仕事を教えてあげたい。


 私はこの猫みたいな女の子を前にニコニコと笑みを浮かべながら優しく仕事についてレクチャーしはじめる。



「それじゃ、まずは家具についていろいろ教えていこうかな? 大丈夫?」

「はい……」

「よろしい、じゃあ、家具の加工の仕方や製造方法について教えるよ」



 そう言って、私はバレッタを片手に持ちながら、バレッタの説明と家具についてどうやって作るのかという事をネロちゃんに教えていく。


 ネロちゃんは真面目に私の話を聞きながらしっかりと紙に書いたりして、少しでも教えられた事を吸収しようとしてくれていた。


 私としてもそうしてくれると非常に教えやすいし、わからない事とかあれば何度も教えるつもりではあるので非常に助かる。



「あの……マスター……この部分なんですけど」

「ん……? どれどれ……?」



 そうして、ネロちゃんに仕事を錬金術についてのやり方についても教えていく。


 ネロちゃんは私の事をマスターと呼ぶようになった。


 別に好きなように呼んで良いと言ったんだけども、彼女がそう呼びたいというものだからそう言われてはね、断る事も出来なかったのでそう呼ばせるようにした。


 彼女は非常に勤勉な性格なのか、割と的確に鋭い質問なども返してくれるのでこちらとしてもやりやすかった。


 もちろん、ネロちゃんだけに構っているわけではないよ? 来客があれば、私はその対応をしなくてはいけないのでその事に関してもやり方を見せながら彼女に接客を教えた。



「この椅子、良いわね。……素材は?」

「えぇ、これはクシナの木を使ってます。

 色や艶に関してはなかなか手に入らない紅桜の花を使ってまして、座り心地も悪くないかと思いますね」



 そう言って、椅子を買いに来た肩まで掛かる綺麗な金髪の奥さんに丁寧に教える私の姿を見て、目をキラキラとさせるネロちゃん。


 この方は私の店の常連でインテリアに拘っているため、私のお店に週二回以上は足を運んでくれる。


 そんな奥さん、ナベラさんは初めて見た従業員のネロちゃんを見て嬉しそうに笑みを浮かべていた。



「あら! 貴女、新しい従業員の娘? キネさん、随分可愛らしい娘を雇われたのね」

「えぇ、ネロと言います。私の一番弟子ですかね?」

「……⁉︎ ……ね、ネロ……です」

「はじめましてネロちゃん、ナベラよ」



 そう言って、ナベラさんはネロちゃんと握手をしながら笑顔を浮かべる。


 まずは新規のお客さんを相手にさせるより、こんな風に常連さんから親しくなってもらった方がネロちゃんも馴染みやすいだろうからね。


 まだどうにも緊張してるっぽいけど、最初にしてみたら上々だ。



「あ、そうだわ! あと、オススメのカーペットってあるかしら? 買い換えようかと思ってて」

「それならこちらにありますよ」



 そうして、私はナベラさんをカーペットの元に案内する。


 大体はこんな感じで一週間くらいネロちゃんに錬金術と接客、そして、家具作りについて教えてあげた。


 まあ、一週間くらいすれば、人間とは慣れてくるものである。特にネロちゃんの錬金術に関する学習スピードは凄く、あっという間に家具を錬成するまでになっていた。


 そんなある日のこと、仕事が終わり、ネロちゃんが店から出ていく時だ。ふと、私はネロちゃんにあることを問いかける。



「そう言えばネロちゃんってどこで寝泊りしてるの? 家は近いのかな?」

「……いえ……」

「ん? ……この街から離れた場所にあるの?」



 私はネロちゃんの住んでる場所を問いかけてみたのである。


 とはいえ、私自身、大した他意はなく、話題くらいで振った話であったのだが、一方で訪ねられたネロちゃんはというと言い辛そうに拳を握りしめて俯いていた。


 そんなネロちゃんに首を傾げる私だったのだが、ネロちゃんは私にポツリポツリと話をし始めた。



「……家は……ありません……」

「え……?」

「いつも……橋の下で……寝てます」



 その言葉に私は思わず驚きのあまり目を見開いてしまった。


 なんと、ネロちゃんは家自体持っていなかったのである。つまり、ホームレスのような生活をしているのだと彼女は語っていた。


 風呂は川の水を使って、シャンプーなんかは私が渡していた給与で買っていたらしい。 


 それを聞いた私は慌ててネロちゃんの肩を掴むと真剣な眼差しでこう告げる。



「今日から私の家に住みなさい」

「……え、でも……」

「良いから…貴女みたいな可愛い娘がそんなとこで過ごしてたらいつ襲われてもおかしくないんだよ?」



 そう言って、私は優しくネロちゃんを撫でてあげながら言い聞かせる。


 この街は比較的には治安は良い方ではあるが、それでもスラム街もあるし、危ない場所は存在している。


 下手をすればネロちゃんも誘拐なんて目にもいつ遭うかわからない、私が保護してあげないととその時はとっさに思った。


 それから、私はネロちゃんと二人暮らしをする事に。


 幸いにも、部屋はあるため、そこをネロちゃんの部屋にしてあげる事にした。


 晩ご飯も一緒に作ってあげているし、ちゃんとしたお風呂も貸してあげる事にした。


 まあ、別に一人より二人の方が寂しくないし、少し賑やかになるくらいどうという事は無い。


 さて、風呂上りの私は現在、緑の花柄の可愛い刺繍が入った下着姿にTシャツというラフな格好でタバコを吸いながらお酒を机に置き、ソファでくつろぎながらテレビを見ている最中である。


 その後、風呂から上がって来たネロちゃんはそんな私の姿を見て一言。



「マスター……はしたない……」

「ん? あぁ、プライベートだからね、目を瞑ってくれたら助かる」



 以前は男性だった事もあり、そのらしさがどうにも抜けないからね、それは致し方ないというものだ。


 ネロはタオルで髪の毛を拭くとパジャマに着替えてそんな私の横にちょこんと座る。


 うん、可愛いパジャマだな、咄嗟に錬金術で制作した自家製だが、着ているネロちゃんが似合ってるのでまあ、よしとしよう。


 ちなみにどんなパジャマかというとピンクの可愛い動物のイラストが入っているパジャマである。


 そして、私の隣に座ったネロちゃんは私に向かいこう告げて来た。



「マスター……今日、一緒に寝ていい?」

「ん?」

「……ダメ?」



 そう言って、私のTシャツの袖を軽く引っ張ってくるネロちゃん。


 こちらを見つめてくる目はウルウルしていて、とてもじゃないが常人なら断れないだろうあざとさを醸し出していた。


 これは卑怯である。私としてもため息を吐いてそれに致し方なく了承で答えるしかなかった。



「仕方ないなぁ……、良いよ一緒に寝ようか」

「……‼︎ ……うん!」



 そうして、お酒を飲み終えた私はその晩はネロちゃんと一緒の布団で寝ることになった。


 とはいえ、いくつかまだ、彼女に関して気になる点はいくつかある。


 今まで家もなく過ごしているという彼女の生活状況を見ればそれは明らかだろう。


 少しばかり、探りを入れてみる必要があるかな?


 とりあえず、日を改めて、シドにネロについての経歴の調査を依頼してみる事にしよう。


 そんな事を考えながら、私はゆっくりとベットの上で目を閉じた。

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