家の完成日
何はともあれ、家は無事に完成した。
一仕事やり遂げた私はアルバスさん老夫婦に完成した別荘をお披露目すべく早速招く事にした。
まあ、色々あった。デカいヘビに出会うし、帝国の町の町長の娘を黒い森で拾うし、なんか、私に面倒ごとが降りかかってきてばかりだ。
仕事だから致し方ないんだが、解せぬ。
差し入れに美味しいケーキ食べれたからまだマシな方だけれども。
「後、1時間弱かな」
私は約束までの時間を店の中のソファに座ったまま待つ事にしていた。
自作の腕時計ではまだ時間には程遠い、だからこうして座ってコーヒーでも飲みながら待っているのだけど。
完成した家、まあ、別荘は出来栄えから言うと自信はある。
ふと口にコーヒーを運ぶ中、私が待ち時間の間に気晴らしに付けた店のテレビでは昨日の続報が流れていた。
そう、テロのニュース、ガラパで爆破テロの話だ。
『続報です。ガラパでは先日のテロが引き金となり、暴動が発生致しました。この暴動は未だ収まっておらず、この暴動の背景には旧帝国軍が関わっているとの情報が出ており、数ヶ月後にはこの戦火は拡大し内戦にまで発展するだろうという専門家の意見も出ております』
私はそれを見て思わず眉を潜めた。
帝国の内戦、となれば間違いなく私が今シドに頼んで匿ってもらっているガラパの市長の娘、サラにもその手が及ぶことは容易に想像できる。
これは穏やかでは無いニュースだ。一番ベストなのは戦火が広まる前に現帝国と共和国が協力してこれを鎮圧するのが一番だが…こればかりは時間が経ってみないことにはわからない。
「……下手をすると国が二つに割れるかもしれないな」
旧帝国軍は思いのほか勢力が大きい。
共和国と休戦し、同盟を締結したとはいえ、帝国はそれなりに余力を残していたわけだが、軍部の三分の一は今の旧帝国軍である。
彼らは休戦した後の帝国の政治改革に対して強く反対をしており、そのせいで、大半が強制的に退役、もしくは現帝国の軍に不満を抱いたまま仕方なく所属しているというのが現状だ。
強制的に退役させられた連中は言わずもがな過激派である。残っている者にも、スパイという役割で所属している者も中にはいる事だろう。
クーデターがいつおきてもおかしくは無いと前々から言われてはいたが、今回のテロをきっかけにそれが表面化しても何も不思議ではなかった。
帝国での内戦は間違いなく、この共和国もいずれ巻き込むことになるだろう。
「旧帝国との戦争なら、恐らく今回テロが起きたガラパを中心に国境が割れるだろうな、物騒になってきたもんだ」
私は懐からタバコを取り出してそれを口に咥えると火をつけて煙を吐き出す。
共和国が現帝国と同盟を結び事に当たるとするなら、私やシドにも再招集が掛かる可能性も十分にあり得る。
私なんて左目には眼帯、片手が義手だ。そんな私でさえ、共和国には貴重な戦力として映ることだろう。
戦争なんてろくな事ではないというのに、何故、人はこうも争いたがるのか。
「おっ……!」
そんな事を考えながらタバコの煙を吐いていると店の扉がゆっくりと開いた。
私が開いた扉に視線を向けるとそこには、アルバスさんとその夫人が立っていた。
私は慌てて吸っていたタバコの煙を消すと椅子から立ち上がって訪ねて来た二人の元へと歩を進める。
「どうも」
「はじめましてキネスさん」
そう言って、店の椅子から立ち上がってやってきた私を笑顔で迎えてくれる夫人。
少し痩せてはいるが、綺麗なブロンドの髪を束ねている人当たりが良さそうな身なりが上品なお婆さんであった。
なるほど、確かにアルバスさんの夫人であればこんな風に身綺麗で上品であるのも頷ける。
「お待ちしておりました。ではいきましょうか」
「はい」
私はそう言うと、二人を連れてきた運転手に話をして私の後を車で追いかけてくるように告げる。
まあ、現場の場所はわかるだろうとは思うが、数ヶ月ぶりともなると忘れていてもおかしくは無い、なので、私が先導して案内する方が確実だろう。
私は愛車に乗り込むと背後からついてくるアルバスさんの車を確認しながら山道を登る。
流石にクライアントに何かあったら私のご飯がなくなってしまうからね。
それに、最近は物騒だから警戒するのに越した事はない。
しばらく道なりに進めば、周りの風景は森林に変わる。
「ついた」
目的地についた私はエンジンを止めて車から降りる。
後ろを確認すると、アルバスさん達も無事についてきてくれていたみたいだ。
奥さんの手を引きながら、車から執事を連れてこちらへと歩いてくるアルバスさん達を私は再び先導するように歩き始める。
そうして、しばらく歩を進めていると川の綺麗なせせらぎが聞こえてきた。
私は何度も見慣れた道だが、アルバスさんの奥方は目の当たりにする綺麗な自然の光景に嬉しそうに目を輝かせていた。
「綺麗なところね、なんだか落ち着くわ」
「ふふ、そうだろ? ……いい場所だ」
別荘にはまだ着いていないのに、奥さんの言葉に静かに頷くアルバスさん。
ずっと家から出れなかった奥さんのことを考えると私もこの場所に家を無事に建てることができてよかったと、心の中からそう思った。
戦場とは無縁の場所、街の騒がしい雑音が入ってこないこの場所はきっと奥さんにとっても良い環境に違いない。
そうして、森を抜け、開けた場所へ…。
川が側に流れている側に、その家は建っていた。
「まあ!」
「おぉ……。これは……!」
アルバスさん達も目の前に現れた家に驚いたような表情を浮かべる。
自然の光景を壊さぬように建てたその家、全体が綺麗なログハウスノような見た目でありながら何処か気品がある別荘が姿を現した。
全体的に茶と緑のお洒落な屋根、外には木の椅子と綺麗なテーブルが置いてある。
気を利かせ、私が作った木のロッキングチェアをテラスに設置しており、見栄えもそれなりに良くなっているんでないかと自負している。好みにもよるとは思うが。
階段も急なものではなく緩やかに設計されていて、坂にしてある箇所もあると、非常に老夫婦のことを考えた作りになっていた。
「どうぞ、お入りください」
私はログハウスの扉を開くと、アルバスさんと奥さんを家へと招き入れる。
それから、二人の後を追従する様に執事の方も家の中へと入ってきた。
さて、ここまでは好感は高そうだが、問題はここからだ。
アルバスさん達が果たして、私が作った家の中を気に入ってくれるかどうか、私は少しだけ緊張しながらゆっくりと深呼吸して呼吸を整えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます