閑話休題2



 コーヒーを片手にこれまでの経緯をクリスに話した私。


 とりあえずは一通り話すことは話したと思う。錬金術での家の作り方とか、私が具体的に今、どんな事をしているのかという事はね。


 しかしながら、クリスは新聞記者故の性というやつか、私に更なる質問を寄せてきた。



「それで! 町長の娘は!? 完成した家をアルバスさんは気に入ってくれたんですか!?」

「どうどうどう…、落ち着きたまえ。後、顔が近いよ、顔が」



 鼻息を荒くしたクリスに顔を引きつらせながらそう告げる私。


 気持ちはわかるがそう身を乗り出されたところで話し辛くなるだけだ。


 とはいえ、私も話すつもりでいたしね、そんなに慌てなくても大丈夫なんだが。



「…そうだな、あ、もうこんな時間か…」



 私はそう呟くと外の窓を見て、日が暮れていた事に気がついた。


 クリスはわざわざ私の取材のために首都から足を運んでくれている。果たして、今日は泊まる場所はあるのだろうか?


 という風な感じで私は考えていた訳なんだけども、同じく窓から暗くなった外の景色を見た彼女は慌てた様子でこう声を溢した。



「うわ!? 真っ暗だ!! やばい! 宿が…」

「取ってなかったんだね」



 私は案の定かとばかりに肩を竦めて苦笑いを浮かべる。


 話に夢中になりすぎて、一日中話していたからね、まあ、それも致し方ないのかな?



「うわぁ…どうしよう…」

「良かったら泊まっていくかい?」



 そうクリスに告げると彼女は、本当ですか! と詰め寄る様に私の手を握ってきた。


 だから、なんで毎回、顔を近づけてくるんだい君は。


 顔が近いし、なんかいい匂いするし、別に嫌いじゃないんだけど、少しばかりフレンドリーすぎやしないだろうか。



「別に構わないよ、空き部屋はあるしね」

「やったあ! 大好き! キネスさん!」

「どういたしまして、…夜も暗いし、こんな時間に女の子を一人を返すのも怖いからね」



 私は冷静な口調でそう告げるとクリスの肩を掴んで距離を取る。


 この街は治安はそこまで悪くないが、万一という事もある。ここは帝国にどちらかというと近い立地にある街だし、情勢的にもまだ国内は不安定だ。


 物騒な人間がいても何もおかしくはない、私やシドのように戦闘経験がある人間ならば、何も問題はないんだろうけどね。



「それじゃあ、晩ご飯を作るとしようか、…あ、そうそう、苦手なものとかあるかい?」

「あ…い、いえ!? え、ご飯まで作ってくださるんですかっ!?」

「そうだよ、1人分作るのも2人分作るのも別に大した差は無いからね」



 そう私が告げるとクリスは元気よく感謝の言葉を述べてきた。


 私の話に付き合った結果、こんなに遅くなってしまったのだからね、それくらいはしてあげないと、東方では何というのだっけな? 確か、おもてなしの精神というのだっけ?


 別におもてなしというほどの事ではないけども、まあ、料理くらいはね。



「そうだなぁ、今日は……ハンバーグを作るとしようかな、玉ねぎは大丈夫かい?」

「はい! 私もお手伝いを…!」

「いや、構わないよ、お客人なのだからねゆっくりしてくれ」



 私はそう言いながらエプロンを巻きつつ笑みを浮かべる。


 こう見えて、軍隊に居た時は炊事も趣味の一環でしていたのでね、同じく軍の仲間達からも評判は良かったんだ。


 ん? いよいよ女子力が高くなってきたんじゃないかって?


 いやいや、まさか、炊事も洗濯なんかの家事も、一人暮らしをしていれば自然に身についていくものさ。



「キネスさん! エプロン姿可愛いですね!」

「…………」



 そう、だからこんな事を言われても全く関係ないんだ。


 うるさい、可愛いとかいうんじゃない、私の存在意義がなんだか危なくなるだろうが、いや、私は確かに性別的には今、女だけど、違うだろうそこは。


 心は紳士なんだよ、だから、可愛いとか言わないでくれ、と本当は言いたいが、悪意がないクリスの言葉にそう言うのも気が引けたので黙っておく事にした。


 私は複雑な表情を浮かべながら、手慣れた手つきでハンバーグを作りはじめる。



「よいしょ、うん、いい感じだ」



 肉はもちろん、以前、錬金術で保存しておいたキルレプターの肉を使う。


 あれは上ものだからね、そりゃ残しておくとも、出来るだけ美味しく仕上げなければ狩ったキルレプターにも失礼だ。


 狩人の精神とは言わないけど、食べ物は粗末にしてはいけないからね。


 しばらくして、ハンバーグを2人分作り終えた私はそれを机に並べると、巻いていたエプロンを外した。



「さて、それじゃ食べるとしようか」

「うわぁ、美味しそー!!」



 そう言いながら、目の前に置かれたハンバーグに目を輝かせるクリス。


 こうやって誰かと食事するのも悪くないものだ。それから、私は棚からワインを持ってくるとそれをグラスに注ぐ。


 肉料理といえば、やっぱり赤ワインに限るな、味に深みが増すような気がする。


 さて、食卓を挟んだ私とクリスは早速ハンバーグをナイフとフォークを使い食べ始める。


 うん、我ながら上出来な味だ。ハンバーグを口に入れた私は満足そうに静かに頷く。



「…はわぁ…おいちい…」

「それはよかった」



 同じくハンバーグを口に入れたクリスも思わず頬を押さえて満面の笑みを浮かべていた。


 そう言ってもらえると作った甲斐があるというものだ。私としてもとても嬉しい。


 私はそんなクリスの反応を見ながらワインを軽く嗜むように口にする。



「…あー、キネスさんが男性なら私、絶対結婚してたなー」

「おいおい、元は男性だよ」

「そうなんですけどー」



 そう言いながら、クリスは私の顔をジッと見つめてくる。


 ん? 私の顔に何か付いてるのかな? そんなに顔をまじまじ見られても照れるんだけども。



「ズルイですよねー、こんなに美人でスタイル抜群で可愛いのに料理も上手いなんて」

「褒められてるんだろうが全然嬉しくないのはなんでだろうな」



 なんだか悲しくなってきた。


 一人暮らしだから自然と生活力がつくだろ? 仕事柄サバイバル技術が上がるだろう? それすなわち女子力に換算されてしまうんですよ。


 私としてはかなり不本意だな。



「私の嫁になってください」

「それは読めなかったな、嫁だけに」

「うわ! キネスさん寒っ!」



 私の渾身のギャグだったんだが、クリスからは厳しい一言。


 悲しいなぁ、今のは割と受けると思ったんだけどね、まあ、何にしても自分が作った料理をこうしておいしく食べてくれるのは嬉しいけどね。


 私もしばらくしてテーブルにつくとハンバーグを食べはじめる。



「うん、いけるな」

「自画自賛ですねー」

「我ながら良いできだと思うよ」



 良いものから良い食事を作れると嬉しいものだ。


 私は食事をクリスと楽しみながらワインを一口、口へと流し込む。


 そして、ワインのグラスをテーブルに置くと改めて、私はクリスにこう語り始めた。



「さて、じゃあ、晩酌しながら続きでも話そうか、それでなんだが…」



 私は再び、クリスにその後の話をし始める。


 とは言っても、アルバスさんに完成した家を見せた時の話なんだけどね。

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