狩人のやり方

 


 キルレプターの死体の加工は手間だが、慣れればそうでもない。


 まずは、身体から血を抜く事から。


 頭と胴体は木の上から宙吊りにしておいて、あらかじめ血抜きをしておくのは忘れてはいけない。


 そして、ある程度血が抜けて来たらキルレプターの毛についた泥などを洗い流す。


 次に内臓の摘出だ。キルレプターの頭の脳味噌ももちろんだがこうして取り除いておかないと腐ってしまうので、早めにしておいた方が良いだろう。



「うっへぇ……。これは慣れないなぁ……」



 私は顔を引きつらせながら呟く。


 内臓を扱うのはいつになっても慣れない、まあ、仕方ないんだけども。


 そして、次に目玉をくり抜くんだが、これもコツがあって、まず、目玉の側に小さな鉄の串を差し込んでいく。


 後はそれに術式を施せば、綺麗に目玉をくり抜く事ができる。


 くり抜いた目は傷がつかないように丁寧に冷凍保存。


 これも『メモリア』でストックを作っておく事も忘れない。


 身体の方にある他の内臓も既に取り出して、水と氷が入った冷凍のクーラーの中に浸しておく。こうして冷却することで臭みなんかが綺麗に取れるのだ。


 続いて、顔や身体、すべての皮剥ぎには切れ味が弱くてエッジのカーブが緩やかな刃物を用いて剥ぎ取るわけなんだけども、もちろん、毛皮に傷が入らないように丁寧に行う。


 しばらくすると刃に脂が付着して、皮が剥ぎにくくなるが都度熱湯で湯煎することによって切れ味が戻るので熱湯を用意しておくのが大切だろう。



「さてと、次は……」



 私は次の作業に取り掛かる。


 キルレプターの身体を枝肉に分割し、各部位を解体するのだ。キルレプターの肉もかなりの高級品でしかも美味しい。


 焼肉にしても良いし、いろんな料理の用途がたくさんある。


 酒のつまみにはもってこいだしね、アーデやシドにも分けてあげなきゃな。


 ただ一つだけ、言いたいことがある。



「血生臭ッ‼︎ うわぁ……、シャワー浴びたいなぁこれ」



 私自身が血生臭くなる事である。


 まあ、加工してるからそうなるのは致し方ないのだけど、本当に風呂に入りたくてたまらない。


 こんなの、街の人が見たら殺人現場にでも居たのかなんて誤解されかねないよな。いや、あらがち間違っちゃいないんだけども。


 それから、すべての作業を終えて、無事に解体したキルレプターは跡形もなく綺麗な食材と毛皮に変貌いたしました。


 これらは、それぞれ『メモリア』にストックして、確保しているので、一匹のキルレプターで十三匹分の材料が手に入っているわけなんだけども。


 うん、私こういう時、本当に錬金術師でよかったなとしみじみ思うよ。


 だってまた血塗れにならなくても良いからね。


 私は解体を終えた後、お湯が入った桶とシャンプーを錬成し、身体を洗う。



「着替え持ってきといてよかった。ブラにも血が付いてるし落とさなきゃな……」



 私は髪を洗いながら、ため息を吐く。


 お風呂が入れないからこうするしかない、うーん、でもまあ、身体を洗えるだけマシかな。


 身体を洗い終えた私は着替えを済ますと次に衣服を洗う、血が染み付いて着れなくなるのは嫌だからね。


 そうして、私が着替えを済ませて、服を洗っているとどこからか悲鳴が聞こえてきた。


 この森で悲鳴が上がるなんて事は珍しくはない、誰かまた魔獣に襲われるか何かしたのだろう。


 しかしながら、今回は少し特殊だった。何故ならば、駆けるような足音が複数こちらに向かってきているからだ。



「なんなんだ今度は……」



 私は頭を掻きながら、下の様子を眺めるように見る。


 とはいえ、辺りは夜で暗いため、当然、見渡すにしてもこのままじゃ見えるわけもない。


 なので、私は自らの首に錬成した薬剤を打ち込んだ。これは夜目が効くことができる薬剤だ。


 軍の時にたくさん造らされたので製造法は頭に叩き込んでいる。


 夜目が効いてきたところで私は目を凝らしたまま、こちらに走って来ている人物に注目する。



「あれは……」



 そこに居たのは服が肌けており、所々破れている血相を変えた女性の姿があった。


 その後ろからは、複数名の男達が罵声を浴びせながら下衆な笑みを浮かべ彼女を追いかけているようであった。


 私は思わずため息を吐く、大方、昼頃、私を襲撃して来た男達の仲間だろう。


 それにしても、こんな夜に女を一人追いかけるために出歩くなんて彼らは馬鹿なんだろうか、夜行性の獣の格好の餌も良いところである。


 なんにしろ、追いかけられている女性に関しては一般人のようだから見て見ぬふりも出来ないだろうな。


 なんの因果か、私がキャンプをしている木の下まで女性が逃げてきたため、彼らの会話が嫌でも耳に入って来る。



「誰かッ! 誰か助けてくださいッ!」

「ははははは! こんな森に誰も助けに来ねえよ」

「手間取らせやがって! この女ァ!」



 そう言いながら女性の身に纏っている衣服を無理やり破り始める男達。


 夜にこの森を通る際に襲われたのだろうか、はたまた、誘拐されてこの森まで連れてこられたのかは定かではないが、彼女はどうやら彼らの慰み者として扱われているみたいだ。


 うーん、気分が悪いな、こんな事を平然と私のいる木の下でやられると目覚めが悪い。



「きぁあああ! やめて! 嫌ッ! 誰か⁉︎ 誰かァ‼︎」

「へっへっへ、良い胸してるなぁ…」

「おい、次は俺に変われよ俺に!」



 そう言いながら女性に馬乗りになる男。


 うわあ、会話が下衆すぎて気持ち悪い、物好きな人はこんなのを静かに眺めて酒の肴にでもするんだろうけど、私はそんな頭がおかしい人間ではない。


 私は素早く木の滑車に飛び乗ると一気に下に降りる。


 そして、女に群がる男達の元に歩いていくと笑みを浮かべたまま腕をグルングルンと回す。



「あ? なんだ…?」

「お前‼︎ 一体どこから!」



 人数は五人か、まあ、別に問題ないだろう。


 私は声を掛けてくる男を無視するとツカツカと間合いを詰めていき、そして、静かに右拳を突き出すようにして男の腹部に直撃させる。


 うん、肋の骨が逝ったかな、手応えあったし。



「な、何しやがんだコラァ!」

「この女! てめぇもこの女みたいにしてやろうか!」

「ん? この女ってどの女?」



 私は首を傾げながら男にそう告げる。


 男が再び馬乗りにした筈の女に視線を向けるとそこには、ただの木の丸太があるだけだった。


 人質を取る可能性を私が考慮しないとでも? まさか、そんなわけないでしょ。


 彼女なら錬成した木のツルで丸太と入れ替えて既に木の上に上げてるよ。



「さて、君達は近所迷惑って言葉を知ってるかな? 

 まあ、知っていたとしても君達は獣の餌になるから関係ないんだけどね」



 私はそう言うと不気味な笑みを浮かべて彼らに告げる。


 ここで私に会ったのが運の尽きだったね、昼の連中といい、なんでわざわざ死ににくるのかわからないな本当。


 私は拳を打ち込んで肋の骨を折って、呼吸ができない男の首元を義手の右手で掴む、そして、引っ掴んだ男の首を彼らに笑顔を向けたままへし折ってやった。



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