死の獣

 


 私が木の上から、横に倒れている男を眺めてから数時間が経った。


 どこからか、でかい咆哮が聞こえてくると何やらガサガサという音がどこからか聞こえてくる。


 多分、そうなんだろうが、私が狙っているモンスターに違いない。



「来たかな」



 横たわる男に近づいてくるその獣は全身が真っ黒の二足歩行で移動している。


 大きな口から出ている牙は鋭く、爪は切り裂きに特化した恐ろしい作りだ。


 全身は分厚い真っ黒な毛、二足歩行ながらその速度は車にも匹敵する速さで移動ができる狩人、その名はキルレプターという。


 単独で行動することが多く、その多くが俊敏さを兼ね備えた素早いハンターだ。



「さてと……」



 私は口にいざって時のための『メモリア』を咥えて、『バレッタ』に装填していく。


 まさか、本当に私が欲しかった獲物が一発目からくるとは運がいい。


 キルレプターの毛皮はかなりの高級品で触り心地もさることながら、色んな用途に使われている。


 目玉なんかは、加工次第でダイヤモンドと同じくらいの価値がつくぐらいだ。


 そのかわり、狩るのは非常に難しく、20人くらいで武器を持った男達が狩りにいき、一匹のキルレプターに全滅させられたなんて話も聞いたことがある。


 私のような錬金術師でも普通に相手したら結構、大変な獲物である事は理解している。だからこそ、この罠を仕掛けているわけだ。


 キルレプターは警戒するように男の周りをクルクルと回っている。



「賢いからねぇ……。獰猛で頭が良いってなるとかなりタチが悪いよな、あの魔物は」



 私は『バレッタ』を片手に持ったまま、キルレプターを観察しながら呟く。


 そして、警戒を説いたキルレプターはゆっくりと餌にしている男に間合いを詰めていく。


 さて、どう来るか楽しみだな、そのまま食いつくのか、それとも罠に気がつくのか。


 だが、警戒を説いたキルレプターはなんの躊躇もなく、罠が掛かる間合いに入った。


 私はグッと小さくガッツポーズをする。


 そして、キルレプターが男の頭に食らい付いた瞬間。



「release!(解放)」



 仕掛けていた罠を解放した。


 キルレプター目掛けて、一気に木の槍が地面から飛び出すと射抜くように殺到する。


 警戒を解いていたキルレプターの身体には木の槍が見事に直撃するが…。


 木から飛び降りた私は表情を曇らせた。



「クソ……。浅かったか」

「ギャア!?」



 身体を翻したことでうまく罠がハマらなかった。


 だが、木の槍の先端には麻酔が仕込んである。掠っているだけまだマシだ。この後、身体にだんだんと回っていき、動きが鈍くなるに違いない。


 あとは仕留めるだけだが、なるべく身体を傷つけずに仕留めたいところだが。



「仕方ないな、首の骨を折るか」



 私はそう呟くと『バレッタ』に弾を込める。


 すぐに構え直した私はキルレプターの足元へ発砲、すると、キルレプターを絡みとるように巨大なツルが発現し、動きを止めた。


 麻酔が効いているせいか、動きが鈍くなっている。


 これは好機だ。一気に畳み掛けるならここが踏ん張り時だろう。


 私はキルレプターの頭上に向かい再び『メモリア』を撃つと、丁度、弾がキルレプターの首上を通過する時点で声を上げる。



「release(解放)」



 すると、光を放った『メモリア』からはギロチンの刃が発現し、キルレプターの首めがけて落下する。


 ズドンッ! と重量感のある音とともにキルレプターの首は血飛沫をあげて宙に舞った。


 同時に私の顔にもキルレプターの血が飛んできた。首を落とした際に頬に付いた血を私は片手で軽く拭う。


 私はその首が地面に綺麗に落ちるのを確認すると懐からタバコを取り出して煙を吐く。



「とりあえず、ひと仕事完了かな」



 フゥーと、煙を口から吐く私は死体になった男の死体と、捕獲したキルレプターの死体を交互に見ながら呟く。


 とりあえず、男の死体に関してはこのまま放置しとけば良いが、キルレプターの死体は回収しとかなきゃいけない。


 私は先程まで、キャンプ地を作った木の上にキルレプターの死体を運ぶため、首と身体を錬成した荷台に乗せて運ぶ。


 そして木の下につくと、次は電動で引き上げる滑車を錬成し、エレベーターのような感じで死体を上に引き上げた。


 麻酔を使って殺したから、切り落とした頭も身体もまだ新鮮だ。


 後はこれを加工するわけなんだが。



「さて、まずは『メモリア』に記憶させなきゃな……」



 その前に、キルレプターの死体を『メモリア』を使ってストックする。


 今回、中身が空の『メモリア』を持って来たのはそういうわけだ。


 こうしておく事で、また材料を使うときにわざわざ森にまでいちいち狩りにくる手間が省けるし、無駄なキルレプターの死体を増やさなくて済むわけだ。


 さて、『メモリア』に記憶し終わったら次はいよいよキルレプターの死体の加工に入るわけなんだけども。



「結構手間が掛かるからなぁ、これ」



 その前に私はそうぼやきながらタバコを吸いつつ、コーヒーを片手にため息を吐いた。


 こんな事も一人でやらなきゃいけないから本当に大変だ。


 一方、下では何やら肉を貪るような音が聞こえて来る。大方、先程、死体になった男が魔物から食われている音だろう。


 コーヒーを片手にサバイバルナイフを片手に持つ私は軽くそれを回すように扱うとゆっくりと腰を起こし、キルレプターの死体へと歩くのだった。

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