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 翌日よくじつ、アリサはわたしをランドセルにつけて学校へ向かった。昨夜さくやのアリサとチハルのやり取りが気になる。何ごともないといいけれど。

 アリサは学校に着くと私をランドセルから外して、そのまま机のところまで持って行く。

 1時間目は算数だ。

「今日の算数は絶対ぜったい理解りかいできるわ」

 アリサが言った。

 学級活動がんで算数が始まる。いつものアリサを知らないが、少なくとも、アリサは今日の算数を理解するだろう。

 ただ、最初さいしょ、アリサは努力している様子がなかった。どうせ言ったとおり理解できると思っているのか、先生が黒板に書いた文字をそのまま丸写しして、適当に話を聞き流しているように見えた。

「おかしいな、絶対わかるはずなんだけど……」

 小さな声でつぶやくのが聞こえる。そして、アリサは説明されている例題を見ながら、教科書の少し前のほうを開いた。何のページを開いているのか、私の位置からでは見えない。わかるのは、ただアリサが教科書の前のページを読み直しているという点だけだ。鉛筆えんぴつで線を引きながら、ときどき元の例題にもどりながら。

「あ、そうか」

 何かひらめいたらしく、さかんにノートを書き始めた。先生は黒板に文章題をいくつか書くと、

「川合さん、1番。橋本さん、2番。おく村さん、3番をお願いします」

と指名する。2番の問題を当てられたアリサは、前を見てノートを写し、黒板の問題を解き始めた。

 ゆっくりとうなずくと、アリサは前に出て黒板に自分の答えを書いていく。だいたい合っていそうだったが、最後の答えは少し間違っている。分数の計算でミスが出ていた。

「はい、1番、正解です。2番……橋本さん、今日の話はわかったみたいですね。計算、ちょっとしかったです。ここは分母を合わせたときに、数字を足し間違まちがえましたね……」

「あ……」

 はっとした顔はしたものの、アリサはそんなに不機嫌ふきげんそうな顔はしなかった。周りの人が数人、アリサがわかってる、と言ってこそこそとさわぎ始めた。

 満足そうな顔をしたアリサを、チハルが少し不安そうに見つめる。

 休み時間になると、教室はかなりガラガラになった。女の子が数人と、男の子が1人だけ、教室に残っている。チハルがアリサに近づく。

「アリサ……あのぬいぐるみ、変な使い方してないよね?」

「変なって?」

 アリサは何でもないという顔で応じる。

「だから、学校の勉強が全部できるとか、何も努力しなくても答えがわかる、みたいなねがいごとよ」

 アリサは少し笑った。

「さあね。どんな使い方だって、それでうまくいけばいいのよ」

 チハルの顔がくもる。

「私、心配だよ……」

「はあ?」

 アリサはあざけるような笑みを見せる。見た人の気分を害するような、不気味な笑みだった。

 チハルはそっとアリサからはなれて、他の女子に話しかけに行く。アリサは私をもてあそびながら、離れて行ったチハルを気にしない様子で机のところへ戻る。

 アリサにとって、幸せになるとは何を意味するのだろう。幸せになると言いきったから幸せになるのか。それとも、具体的ではないから、実現じつげんしないだろうか。その点になると、私にもよくわからなかった。パーシルなら、私に魔法まほうをかけた本人だから、わかると思うけれども。

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