No Make-up
「あんたとはやっていけないわ。」
そう言い残して晴天の中を突き進んでいく彼女の背はとても恋しかった。
天候は相変わらず晴れだし、社会の人々は何の変哲もなく日常を過ごしている。
僕が彼女に見捨てられたって社会全体としては何も変わることはなく、歯車が狂うことなど全くない。これが真実である。
「私が何をしたって言うのだ。」と嘆いたところで心のざわめきは留まるところを知らず、防波堤に打ち付ける波風のように心情の往来は制御不能だった。春が、来ていた。気づかないうちに季節が転がりに転がり、春の予感を私に感じさせているのである。緩んだ網戸にくっついた桜の花びら、もう使い物にならないペアのコップ、錆びついたギターの弦。視界に映る全ての情報が去年の春に私を去った【彼女】のことを思い出させる。痛みを伴う記憶も芯には甘さを含んでおり、どうしてもその手綱を離すことが出来ない。そういったところだろうか。
世界は残酷だ。どんなに時を止めようとしたところで時間は有限だし、時の経過の感じ方は人それぞれ違うというのが無情にも真実に近しいらしい。
世界は日々活動的だ。だから私も止まらずに身を酷使することを強いられている。
空虚さは私の研ぎ澄まされた五感によって錬成される。
五感を鈍らせてしまえば痛みなど感じない
こう考えて100万回。可能なら一度は経験したいものだ。
理解の範疇を超えることはいくらでもある。
あぁ。とりとめのない感情が溢れる。
私は道端で不意に言葉をこぼしてしまったのだ。
「もし君が私をまだ愛していたら、」
ある晴れた空に連なる言葉の鎖、
意図を私自身未だにつかめていない。
多面的新世界 Finnland000 @finn611
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