別れた。

3月の始まりはとても閑静な街に僕、1人だけしかいなかった。

桜はまだ散っていなかった。いや咲いてもいなかった。

そのことに気づいたのは僕の心が5月を迎えてからのことである。


ウイルスが猛威を振るう最中で育まれた小さな愛は行く先も見えぬまま着実に終焉へと進行していた。2月の中盤にどれだけイチャイチャしたかなどを語ってももはやそれは追憶の類にしかならないのだろう。あの可愛い笑顔が暗闇に紛れて消えていく。煙のようでもあるが個体のようにある形を保持しているようでもある。

何があったのかと問われてもそれは愚問だ。

何もない。それこそが人間を突き動かす1番大きな要因といいたいのかもしれない。

工業力がない、だから殖産興業が過去に施行された。

戦力がない、軍拡を進展させる軍国主義を嘆願した民衆。

愛がない、だからそれぞれ別の道に進もう。

これは真っ当な主張なのかも知れない。しかし、愛の主張は決定的に両方方向性を欠いている。愛がないから育むという選択肢が欠落していないだろうか。生み出すのは存在を消すよりも何十倍も大変だ。だから彼女は私を捨てることを選択した。確かだろう。だが、何より、存在しないものに形を持たせようとする私の利己心が今となっては恥ずかしくてたまらない。


今となって私が思うことは

「君とは上手くやっていけないことは必然だった。」

ということだ。何も後悔はしていない。

人間はどうしても古い歴史に蓋をして更新された情報だけを既成事実にしようともがく生物である。幸福の一対となり得なかった私達は自分たちの中で「蓋」を作り、隔絶した世界にそれぞれの身を置いた。


始まりなどなかった。

だが終わりは明確な空虚さを纏い、

私の心身を分断した。

あぁ日が昇る、君との毎日にはおやすみだ。

たかが?されど。

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