魔女の日常

「これ苦いのよね。先生、このお薬本当に飲まなくてはダメなの?」

「はい。お嬢様のお身体のためですから」


嘘つき!本当は毒のくせに!

と、口から出かかった言葉をぐっと飲み込んだ。


このお薬は一体いつから飲んでいたのだろう。記憶を辿ると物心ついた頃にはもう1日1回寝る前に飲んでいたと思う。


私の命は、あと1年もつのかしら?それとも数ヶ月?


でも薬に気がついていないふりをなくては…。

それがみんなのためなのだから…。


もっと早くに彼と出会えていられたら…。


私の庭は荒れに荒れていた。何故だか私の庭の担当になった庭師さん達はお仕事を放棄したり、突然失踪したりとまともに庭に手を入れてくれなかった。そんな状態が10年以上続いたある春の日のこと、ふと庭を見ると私と同い年くらいの男の子が丁寧に丁寧に庭の手入れをしているではありませんか!

私はとっても驚きました。

そして久し振りに見た花によろこんで柄にもなく庭に躍り出て、ついつい彼に声をかけてしまったのです。


あまり人と接するなと言われていたにもかかわらず…。


昔から私が親しくなった人たちは姿を消すのが当たり前でした。

幼い頃に身の回りの世話をしてくれたメイドや乳母、執事はみんな消えた。

今思えば、お父様が何か力を使っていたのでしょう。きっと庭師の方々も…。


彼もいつ標的になるのかとヒヤヒヤしながら時を重ねてきたけども、彼がお父様の毒牙にかかることは今のところないようで、安心しています。


多分、私の命がの終わりが近いからわざわざ手を汚すようなことを控えているのでしょう。


せめて私の最期までは彼がしあわせであることを望んでいます。

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