1年後…
彼女と僕はよく話すようになっていた。
僕の仕事中に彼女が側に来て、ハサミやら箒やらの仕事道具にちょっかいを出してきて、いたずらをしながら、お互いのことを少しずつ話していった。
僕が別の国から亡命して来ていること。
庭師になった経緯。
好きな花。果物。
庭にある植物のこと。
彼女の好きな花。食べ物。
屋敷のこと。
庭のこと。
そして魔女のこと…。
「みんなおかしいのよ。私のことを魔女だなんて。なんな力もないのに…」
たしかに彼女とよく話すようになって意のままに操られるといったような感覚を覚えたことはなかったし、むしろ彼女は世間のことに疎かったり、病弱だったりと魔女のイメージとはかけ離れていた。
「たしかに、お嬢様は魔女らしからぬ知識量でございますもんね」
「あら?喧嘩を売ってくださるとはありがとうございます。ぜひ買わせていただいますわ」
そんな冗談を言い合ってから、しばらく仕事をすると
「そろそろお医者様がいらっしゃる時間ですね。お暇いたしますが、私の庭をよろしくお願いいたします」
「はい。お任せください」
彼女が庭を去ってあらかた仕事が片付いて、陽が傾き始めた頃に屋敷の人間が声をかけて来た。
「いつもお世話になっております。お茶などいかがでしょうか?」
雇われている身としては雇い主に当たる人物の誘いを断ることなど分不相応となってしまう。つまり、僕の答えは決まっているのだ。
「はい。よろこんで、ご一緒させていただきます」
香りのいいアールグレイとスコーンが高価そうな食器に乗せられてやってきた。
あまり慣れないので緊張してしまう。
「君が来たからあの庭は見違えるようだよ。」
「恐縮です。ですがお褒め頂きありがとうございます」
「他の者達は担当にいたところ、仕事を適当にしたり、そもそも手を入れなかったりとまともに手をつけてくれなかったからね…。ましてやあの子と仲良くまでしてくれるとは、この国出身でない君を担当にして正解だったよ。」
「はい、とてもやりがいがあってお任せしていただいて身に余る光栄です。お嬢様にはとてもよくしていただいて、こちらの方こそお礼を言いたいくらいです」
「私も念願叶って生まれたあの子がまさか魔女だ、なんとは思ってはいないのだが、他の者達はそうは思っていないようでな…。あんな離れで1人寂しく過ごさせてしまって申し訳なく思っているのだよ。せめて庭くらいは美しくと思ってね…」
「そうなんですか。ますます仕事に精が出ます。頑張らせて頂きますね」
そのあとは植物のことや庭の景観についての話といった雑談をして、お茶会はお開きとなった。
僕の背を見送っていた彼女の父親はポツリと
「奴は消さなくても良いだろう」
と呟いた。
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