第30話 初めての真面目な告白
通さんは、何か思い詰めたような顔をしている。これから何が起こるのか私も緊張で胸が張り裂けそうだ。私は目の前に置かれたご馳走と、通さんの顔を交互に見つめた。
「さあ、眺めてないで食べましょう。今日はシャンパンを用意しています」
「特別なご馳走ですね」
「僕からの心からのおもてなしです」
通さんは、グラスに静かにシャンパンを注いだ。淡い黄色の液体からは小さな気泡が立ち、涼やかな音がした。彼は優しげな瞳でこちらを見つめ、グラスを差し出した。前髪をはらりと横に流し、瞳はいつになく情熱的だ。シャンパンを注ぐ動作も決まっている。
「じゃあ、乾杯!」
「乾杯!」
グラスを傾け口に含むと、甘く爽やかな味が口いっぱいに広がった。
「こんな素敵なディナーに招待してくれてありがとうございます」
「今夜は特別な夜だ」
「特別な夜?」
「いやなに、こっちの話し。さあ食べよう」
「ええ、美味しそう」
私はまずスープをすくって口に入れた。甘く優しい野菜の味がした。
「美味しいです! 味付けも最高!」
「どんどん食べて!」
「ではステーキを……」
今度はステーキを切りパクリと頬張った。ステーキに掛けられたソースの味も絶妙な塩加減でおいしかった。切り口を見ると、中は半分ぐらいが赤くなっていてミディアム・レアにうまく焼けている。
「ソースもよくできていて、素晴らしいです。プロが作ったみたい!」
「気に入ってもらえてよかった。頑張って作った甲斐があった」
「私ばっかり食べてるみたい。通さんも食べて」
「そうですね。うむ。美味しいなあ」
「通さんはいつも自炊してるのかしら?」
「うん。メグリンと食べる時以外は大抵自分で作ってる。ハンバーグなんかも自分で生地をこねて作ってる」
「へえ、それは凄い。私は、綾さんが以前パウンドケーキを持ってきたのを見て、作ってみました」
「じゃあ、今度作ったら僕に試食させて!」
「はい、持ってきます」
「シャンパン折角開けちゃったからもう少し飲んで!」
「ああ、はいはい。そのくらいでいいです。じゃあ、通さんも飲んで」
二人でシャンパンを注ぎ合って、二杯目を飲んだ。ステーキを食べ終わると、冷蔵庫から何かを取り出した。
「じゃあ~ん。デザートはプリンアラモードです」
「わあ、デザートもあったんですね。こんなに作ってくれるなんて。しかもすごい豪華!」
透明なガラス皿に乗ったプリンの横には、イチゴ、バナナ、キウイなどのフルーツと生クリームが添えられていた。食事だけでも素晴らしかったのに、ここまで徹底してディナーをセットしてくれるなんてどれだけ時間と手間がかかったのだろうか。
「通さん、ありがとうございます。大変だったでしょう」
「まあプロではないので、調べながら作ったんで結構時間がかかりました。でも楽しかった」
「食べるのがもったいないぐらいです」
「食べて! 食べるために作ったんだから」
「はい」
ステーキが丁度良い大きさだったせいか、デザートもおいしく食べられそうだ。適度な量も計算しつくされているようで、通さんの配慮に感激した。
私はプリンを匙ですくい口に含んだ。甘くまろやかな舌触りで口の中の温度でふんわりと溶けていくようだった。フルーツは甘酸っぱく口の中がさっぱりした。
私はさらにシャンパンを飲んだ。少し酔ったようで、体がポーッとほてってきた。通さんの頬も、ほんのり赤みがさしている。
「通さん、最高のディナーでした」
「メグリン、喜んでもらえてよかったな」
通さんはそう言うと、真剣な瞳を私に向けて行った。
「僕が本当に好きな人は、メグリンなんだから」
「……なんだか、すごく嬉しいです。その言葉」
「僕はメグリンが好き。メグリンは?」
「私も、好き。だけど……」
「……だけど、邪魔者がいるんだ。邪魔者には消えてもらわなければ」
「通さん、物騒な!」
「刑事物語の見過ぎですよ。僕をあきらめてもらうってことです」
「ああ、安心しました。でもどうしたらいいのかしら?」
「……う~ん。困ったな。全くなんてこった……」
私は、立ち上がって通さんの席の後ろへ立ち、そっと抱きしめた。すると通さんは、はっとして私の手を掴んだ。そして立ち上がると、私の方を向き体を引き寄せ抱きしめた。通さんは私の頬や髪を撫でたり、背中に腕を回したりしている。以前だったらプリンスが乗り移ってるのだと思い母親のような気持で抱きしめていたものだが、この時は違っていた。うっとりするような気持で通さんの胸に顔を埋めていると、時間が経つのも忘れた。
「今日はずっとここにいてね」
「そうするわ」
二人のロマンチックな夜は、静かに更けて行った。
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